34.レオスの過去①
今から千年前のことだった。
レオスは十五歳で、村を出た。
村で狩りをしていた彼は、武器の扱いに長けていた。
それを偶然目にしたザルディアの騎士が、彼を騎士にスカウトしたからだ。
騎士になれば、両親に仕送りができる。
村で農業と狩りをしているが、決して生活は楽ではない。
レオスは一刻も早く正騎士になり、両親を助けるという目的があった。
そんな我が子を見て、両親は感激して目を潤ませていた。
しかし、レオスの本当の気持ちは打ち明けずにいた。
村では自分より強い人間はいなかったし、狩りで魔物と戦っても苦戦をしたことがなかった。
自分より上を見てみたい。
そして、自分の剣の腕を磨きたい。それがレオスの願いだった。
そしてそれは、あっという間に叶うことになる。
王都について、レオスは見習い騎士として修行の日々が始まった。
最初に行われたのは、剣の持ち方からだった。
とっくの昔にレオスは、そんなことはわかっている。
やっと終わったと思ったら、退屈な素振りの訓練が始まった。
見習い騎士には我流の者もいるらしく、最初は基礎から訓練を行うようだ。
「ふわぁ……」
レオスは必死に欠伸をかみ殺す。
思わず大口を開けてするところだった。
こんなところを見られては、教官にむち打ちでもされてしまう。
誰にも見られていないだろうか。
周りを見回したときに、ちょうど隣の少年と目が合った。
ゆるくカールのかかったやわらかそうな白髪が、そよ風に揺られている。
背はレオスの方が高いが、同じ年くらいだろうか。
彼はさわやかな微笑みをレオスに向ける。
レオスは思わず目をそらせなくなった。
この少年の瞳は、美しい。薄い灰色が、レオスの姿を映し出す。
この瞳に、全て包み込まれるような感覚だった。
「こら! そこ何をしている!」
見惚れるレオスに、教官の騎士の鋭い声が飛んでくる。
思わずはっと我に返った。慌てて剣を素振りする。
近付いてきた教師は、レオスを見てため息を漏らす。
「まあお前には、つまらないことだったかもしれんな。よし。止め!」
教官は、見習い騎士たちに号令をかける。
「それではこの後、模擬戦をやってもらおうと思う。今から名前を呼びあげた者だけ力量を測る」
そう言って教官は、見習い騎士の名前を呼んでいく。
呼ばれた者は、白線の中に入るよう促された。
この白線は、騎士が試合を行うコートだ。
最終的に六名の名前が呼ばれ、その中にはレオスもいた。
すでにある程度戦える人間だけが呼ばれたのだろう。
「セリオン・ドレヴァン」
レオスが驚いたのは、先ほどの白髪の少年も呼ばれたことだった。
正直、彼は戦えるようには見えない。
あくまで育ちのいいお坊ちゃんが、嗜みで剣をやっている。
そういう風にしか見えなかった。
それぞれの試合が行われても、レオスはつまらなかった。
どれもレオスにとってみれば、子供のごっこ遊びにしか思えなかった。
この中に、レオスより強い者はいない。
「次。レオスとセリオン」
レオスとセリオンの試合は最後だった。
明らかに弱そうな彼は、試合の前に握手を求めた。
「緊張するね。よろしく頼むよ」
これから負けるとは想像もしていないのだろう。
セリオンは朗らかな笑みで話しかけてきた。
「きっと一瞬で終わるだろうから大丈夫だって」
レオスも同じく笑顔で応じる。
一回りも二回りも小さい彼の肩を軽く叩くと、二人は位置についた。
始まりの位置には、短く白線がついている。レオスはそこに左足をそろえた。
レオスには正直、正式な騎士の所作はわからなかった。
唯一わかっているのは、三つ。
このコートから出たら負け。武器を手から離したら負け。
有効打が入っても負け。
レオスは腰を低くして、いつものように中段に木刀を構えた。
騎士としては正しくないのかもしれない。
それでも、勝てれば何も文句はないはずだ。
相手のセリオンは、美しい立ち姿で剣を同じく中断に構えている。
思わず惚れ惚れしてしまう。
「はじめ!」
教官の声が響き渡る。
レオスはすぐにセリオンに向かって飛び出した。
先ほど自分で言った一瞬で終わる。
その言葉通り、一撃で終わらせようと思った。
そしてそれは、現実になる。
セリオンの姿が近付くや否や、空高く木刀がくるくると舞ったのだ。
レオスは思わずそれを目で追う。
「勝者、セリオン」
教官の声が試合の結果を伝えた。
辺りはしんと静まり返り、木刀が地面に転がる音だけが響く。
勝者、セリオン。
一瞬レオスは何を言っているのか、わからなかった。
剣を振りぬいた両手には、何も握っていない。
「ありがとう。君、とっても強いんだね」
セリオンが、レオスに近付いてまた握手を求める。
その手をただ見つめることしかできない。
「……今、何が起こったんだ?」
心からの疑問だった。レオスは思わず、呟いた。
その小さな声も逃さず、セリオンはにっこりとほほ笑む。
「君の力の流れを見て、その隙間で木刀を弾いただけだよ。君、とてもいい動きするからちょっと難しかったけどね」
セリオンが、きっと本心からそう言っているのはわかった。
しかし、レオスの心はその言葉を素直に受け取ることはできなかった。
たった一撃でケリがついたのだ。
いくら強かったと言われようと、自分とセリオンとの間には大きな差があるのは明白だった。
レオスはセリオンよりも大きな手で、ぐっと握手をする。
「次は負けねぇからな」
「楽しみにしてるよ」
これが、勇者セリオンとの出会いだった。
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