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勇者の落としもの  作者: 永久福
第4章

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29.嫌な予感

 

 ロスカは腰に差した剣を見る。


 剣の鍔には、美しい女性が祈りを捧げる様子が彫刻されている。


 修理に出した刀鍛冶にも、大層褒められた代物だ。


 この剣を持っていると、ロスカの背筋も伸びる思いだ。


 直した当時はロスカには少し長い剣だったが、背が伸びた今はちょうどいい。


 レオスの提案は、大正解だった。


「あ! ロスカさんとラシードさんじゃないですか!」


 ふと青年二人に声をかけられる。


 このベザクの自警団の一員だ。


「これから見回りかい?」


 ラシードが青年たちに声をかける。


「はい! 街の安全は俺らが守るっす!」


「任せたよ。今日は少し寝たら、久々に顔出しに行こうと思ってたんだ。みんなに伝えておいてくれるかな?」


「久々に団長のご指導ですか? 助かりました……。あ、違います! 楽しみにしてるっす!」


 青年はロスカの存在を思い出したのか、冷や汗をかきながら答える。


 その態度に、レオスは大笑いしていた。


 ロスカは、胸にいるレオスをぺちっと軽く叩く。


 ラシードはある程度の人が街に戻ってきたときに、自警団を結成した。


 弟が命をかけて守った街を自分も守りたいと照れたように言っていた。


 そして自警団の指導役に、ロスカが頼まれた。


 レオスに人に教えるのも、ロスカの成長になるからと背中を押され、引き受けた。


 かつてレオスに教えられたと通りの指導をしたのだが、厳しいと評判になってしまった。


 レオスからの教えは、あくまでロスカをすぐに戦えるようにするよう厳しいものだった。


 ロスカはそれを学んで、ずいぶん優しい内容にした。


 だが、まだ厳しいと思われているようだ。


「よっ! 鬼教官」


 レオスの言葉に、ロスカは苦笑した。


 自警団の青年たちと別れ、図書館へと向かう。


「結局また図書館まで送ってもらっちゃったね」


「女の子に送らせてもらえるのは、男にとって名誉なことだからね」


 ラシードはロスカが図書館に入るまで、見送ってくれた。


 昨日は徹夜で図書館にいて一刻も早く寝たいはずなのに、ロスカはラシードの優しさに胸をときめかせた。


「お、まだ貸し切りだな」


 図書館に入ると、ちょうど司書が来たところだった。


 司書とはもう顔なじみだ。


 レオスは今日も古語の本を選んだ。


 ロスカには読むこともできない。


 ラシードによれば、今のほとんどの人が読めないという。


 レオスは一人では本を読めないので、必ず誰かがついていかなければ読めない。


 うとうとし始めると、レオスの次という言葉で起こされる。


 ロスカには剣の修行よりも、よっぽど厳しいことだった。


 未だにレオスはこの本をたくさん読む理由も、過去も、話してくれていない。


 いつか話してくれる日が来ることを、ロスカは願っていた。


 またうとうととしていると、ロスカの国紋が輝きだし大きな音が鳴る。


 国歌だ。


「なになに?」


 ロスカは国紋を触ったりしてみるが、この音は止まらない。


 国歌が終わると、国紋から声が流れる。


「回収者諸君へ告ぐ。至急首都ヴァルクへ集結せよ。これは命令である。繰り返す。至急首都ヴァルクに集結せよ」


 国紋は一方的に要件を告げると、国紋は光を失った。


「ヴァルクに集結せよ……」


 ロスカは、先ほどの言葉を口の中で転がす。


 何か大変なことがあったのだろうか。


「レオス。私準備しにいかないと」


 ロスカの言葉に、レオスは何も言わない。


 寝ているのか。


「レオス?」


「あぁ……。そうだな」


「レオスは一緒にベザクに来てくれるの?」


「俺も行く」


 ロスカはほっとした。


 あの戦いから勇者の落としものは、三つ見つけることができた。


 ベザクを拠点に旅を伴うものだったが、全てレオスと一緒だったのだ。


 ロスカ自身は、この三年でとても強くなった。


 回収者としても、世の中に名が知れ渡るほどだ。


 だが一人での旅は寂しいし、不安も大きい。


 年は十六になったが、まだ子供な部分も多い。


 銀鹿の角亭に戻ってヨマ婆に話すと、不機嫌そうな顔で「仕方ないさ。国の命令なんだから。早く支度してさっさと用事を済ませて帰って来な」と言っていた。


 ロスカは思わず笑ってしまった。


 人が戻ってきてから、銀鹿の角亭は大繁盛の日々だ。


 ヨマ婆は店の手伝いがいなくなることが、不満なようだ。


 だがロスカ自身も、快適な自分の部屋から離れなければならないのは不満だった。


 店の手伝いを条件に、借りているベイルの部屋だった場所。


 ヨマ婆が一人になって、寂しくて泣いてしまわないか心配だ。


「ヨマ婆のためにも、早く行って帰ってこないとね」


「……そうだな」


 レオスはずっと言葉少なく暗い。


 この命令について、何か心当たりでもあるのだろうか。


「レオス、何か知ってるの?」


「……なんとなくはな。これが当たっていれば、お前には嬉しい話かもしれない」


 ロスカにとって嬉しい話には、心当たりはなかった。


 ロスカにとって嬉しいことは、この街でレオスやヨマ婆、ラシードと日々過ごすことだ。


 これ以上、望むものなんてないのだ。


「レオスの勘が当たって、いいお話だといいね」


 ロスカの言葉に、レオスはまた暗い低い声でああと言うだけだった。


 ロスカには、気になることが一つあった。


 レオスの考えていることは、ロスカにとっては嬉しいことなのにレオスにとっては暗くなるようなことなのだ。


 ロスカの勘が、警鐘を鳴らしているような気がした。


ここまで見てくださってありがとうございます。

楽しんでいただけますでしょうか?

もしよかったら感想などいただけるとうれしいです。

見てくれたあなたに、幸せが訪れますように。

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