28.剣
スカルネを倒してから、ロスカはすぐにヨマ婆の元へと運ばれた。
ヨマ婆には後から助からないかと思ったと言われたような状態だった。
回復魔法は万能ではない。
傷を塞ぐことはできても、失った血を増やすことはできない。
幸いにも全員の看病のおかげで、ロスカの意識は戻った。
目が覚めるまでに、一週間かかった。
まともに動けるようになるまで二ヶ月。
体を動かす目的もあって、ロスカとレオスはオルダナ火山の山頂に向かった。
上に近付く度に、レオスの口数は減っていった。
「あんなことがあったとは思えないくらい綺麗だね」
スカルネとの戦いがあった山頂は戦場ではなく、観光地に戻っていた。
ベザクの街が粒のように小さく見える。
吹きすさぶ風が、ここに眠る悲しい気持ちを吹き飛ばそうとしている。
「そうだな。ところで、ロスカの言ってた光っていうのはどこにあったんだ?」
「あの洞窟の中から光が見えたの」
ロスカはその洞窟の前に向かった。
暗い。
明かりがないと、中にはいるのは難しそうだ。
だが、奥の方からうっすらと淡い光が見える。
洞窟内全てを照らすには、弱い光だ。
どこかにつながっているのだろうか。
「……レオス光れない?」
「おいおい、むちゃくちゃ言うなよ」
ロスカは手のひらを胸の前に広げる。
右手には、スカルネとの戦いで負った火傷の跡がうっすらと残っている。
「インフェルノ・フラム」
その呪文で、ロスカの手のひらに小さな炎が灯った。
ヨマ婆の店の手伝いのために、覚えさせられた魔法だ。
その灯りを頼りに、洞窟の中へと進む。
灯りのおかげで、洞窟の奥まで見える。
浅い巣窟のようだ。
洞窟の奥には、たくさんの鎧や剣が山になっていた。
スカルネの犠牲者たちのものだろう。
その山の頂点に、地面に深く突き刺さった剣があった。
錆び付いているが、美しい剣だ。
「レオス、あれって……?」
そしてその剣は、淡く青く光っていた。
その光を見ると、心が落ち着く。
「……あれは、勇者の落としものだな」
「あれが……」
あの時ロスカの見た光は、これだった。
心臓の鼓動のように光が強くなったり、弱くなったりしている。
まるで生きているようだ。
ロスカは恐る恐る剣に手を伸ばす。
剣を引き抜くと、刀身はポッキリと折れてしまっていた。
すると、ロスカの左手の国紋が輝き出す。
まばゆい光に、思わず目を閉じた。
「落としもの、回収できたみたいだぜ」
レオスの言葉に目を開けると、剣の光はもう消え失せていた。
ロスカは、回収者として結果を残すことができた。
これでしばらく裁きに怯えることはない。
肩の力が抜けた。
なんだかんだ気を張っていたようだった。
「……なあ、ロスカ」
レオスがロスカの名前を呼ぶ。
いつもより、真剣味を帯びた声だった。
「どうしたの」
「その剣、持って帰って使ってくれねぇか」
ロスカは自分が持っている折れた剣をまじまじと見た。
確かに立派な作りではあるが、この剣を直して使うよりも新しい剣を買った方が安く済む。
「何か理由があるの?」
「……ああ。こんなこと言っといて悪いが、細かいことは言えねぇ」
ロスカはレオスの言葉が嬉しかった。
今までならこんなお願いも、事情を言えないということもレオスは言ってくれなかった。
話をはぐらかすか、どうにかロスカを誘導するようにしていただろう。
例え事情を話せなくても、言えないと素直に言ってくれたことが嬉しかった。
「わかった。この剣を使うよ」
石なので表情はわからないが、レオスは安心したように息を吐いた。
いつか話してくれる日が来ますようにとロスカは願っていた。
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