27.日常
「ロスカ! ロスカ!」
ヨマ婆の声が聞こえる。
だが、体を起こす気が起きない。
眠気がロスカをベッドに縛り付ける。
階段を上がる音が聞こえる。
「ロスカ! 起きな!」
扉が大きな音を立てて開けられる。
そこには、険しい顔のヨマ婆が立っていた。
ロスカは慌てて毛布に頭を突っ込んだ。
だが、すぐに強い力で毛布を剥ぎ取られる。
日差しが目にしみる。
「あんた、いつまで寝てんだい!」
「うーん……まだ寝かせてよー……」
「ラシードがお呼びだよ」
その言葉に、ロスカは慌てて飛び起きた。
「え! ラシード?」
ロスカの頬が紅く染まる。ベッドから飛び出すと、鏡の前に立ちブラシで念入りに髪をとかす。
髪は最近、下ろすようにしている。
「髪の前に顔洗って来な」
ヨマ婆が呆れたような声で言うと、ロスカは慌てて階段を駆け下りる。
一階に下りると、わいわいと賑やかな声が聞こえる。
銀鹿の角亭は今日も大繁盛のようだ。
身支度を終えると、店の扉を開ける。
そこでは街の住民から旅人までが、楽しそうに食事をしていた。
その中のカウンターの端だ。
そこに、金髪の音が座っている。
左手で頬杖をついている。
その左手には、人差し指と中指がない。
それに、右のシャツの袖が、開け放した扉からの風で揺れている。
ロスカは改めて髪を手櫛で整えると、その青年に声をかけた。
「ラシード!」
そう声をかけると、ラシードは青い瞳がロスカに向けられる。
それだけで、ロスカの心は踊った。
「おはよう。もうお昼だけどね」
ラシードは、にこにこと笑いながら話す。
ロスカはその姿に目を離せなくなる。
「けっ! 色ぼけが……」
そんなロスカに、テーブルからレオスが悪態をついていた。
ロスカはむんずとレオスを掴むと、ぎろりと睨んだ。
「うるさい。人のこと言えないでしょ、この本ボケ」
「言うじゃねーか、師匠に向かって」
ロスカとレオスのやりとりに、ラシードはあははと笑う。
「ラシード、いつもレオスのために図書館行くの大変じゃない?」
「いやいや、全然大丈夫だよ。むしろロスカも大変だろ? 遠慮せずに僕に頼ってくれていいんだからね」
「ラシードは優しいね。レオスとは大違い……」
「なんか今日特に当たりきつくないか?」
「ラシード、今回も徹夜だったんでしょ? レオスはまた私が連れて行くからもう家に帰って」
「じゃあせっかくだし、一緒に図書館に向かおうか」
ラシードは立ち上がると、ロスカと店から出た。
二人で並ぶと、ロスカの頭がラシードの肩と並ぶ。
当時は、頭が胸の位置だったのにと感慨深くなる。
「ずいぶん街も復興したよね」
店の外に出ると、街に人が歩いている。
人々は笑顔で、楽しく過ごせている。ベザクに人が戻ってきた。
未だにボロボロになった建物や、道もある。
完全に復興するには、あと数年はかかるだろう。
それでも、人が安心して暮らせる暖かい街になった。
「そうだね。それもこれもロスカのおかげだなぁ」
「いつも言ってるけど、私の力じゃないよ」
ロスカはラシードと恒例になっている言葉を返す。
火山での戦い以降、ラシードはことあるごとに、ロスカに感謝を伝えてくるのだ。
「あれからもう三年も経ったんだね」
ラシードは、気持ちが良いくらい晴れた空を見て言った。
弟のラシルのことを考えているのかもしれない。
ロスカも、オルダナ火山の戦いのことを思い出していた。
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