23.反撃
スカルネの言葉に、ロスカは理不尽思いでいっぱいだった。
ここまでの強さを持ちながら、卑怯と感じるような能力まで持っている。
これでは勝ち目がない。
足を怪我したロスカは、このまま魔法で攻めるしかない。
ロスカが熟練の魔法使いであれば、スカルネを倒すことができたかもしれない。
だが今のロスカは、魔力がもう残り少ない。
魔法を使えるのは、あと三回ほどだろうか。
この行動を繰り返していても、何の解決にもならない。
考えろ。
何か作戦を思いつけ。
ロスカのは魔法を放ちながらも、必死に頭を働かせる。
その時、ロスカは先ほどの動きに違和感を覚えた。
「随分考えてるネ~。時間引き延ばしたいトカ?」
スカルネは、ロスカの出した土の棘に着地した。
辺り一面に砂埃が舞う。
強い風が吹いて、砂はすぐに消えた。
そこには、無傷のスカルネが立っていた。
「そんなことさせないヨ。そもそもこんなテイゾクな魔法なんかで、僕を倒せると思ったノ?」
もうスカルネの顔には、今までの笑顔はなかった。
冷たい氷のような顔で、ロスカを見ている。
かつての村人たちの姿と重なる。
ロスカに興味のない目。
ロスカの体が、石のように固まる。
呼吸も速くなって、喉からはヒューヒューと音が鳴る。
「もう君に付き合うのはやめたヨ。何も楽しくナイ」
スカルネは、ゆっくりゆっくりとロスカに近づいてくる。
何かしなければならない。
わかっていても、それは膜の向こうで騒いでいるような感覚だった。
ロスカは、剣先の向こうのスカルネから目を離せない。
このままでは、死んでしまう。
また膜の向こうで自分が叫んでいる。
頬に暖かいものが流れた。
そっと触れてみると、それは涙だった。
ロスカ自身にも、これは何の涙なのかわからなかった。
足下に巨大な蜘蛛の影が現れる。
もう目の前に来てしまったのか。
「おいしそうな感情ダネ。そんなに僕がコワイ?」
そう言うと、ロスカの右肩にスカルネの足が突き刺さった。
口から意図せず絶叫が放たれる。
痛みが体中を駆け巡っていく。
「痛い? ねえ痛い?」
ロスカは、そのままスカルネの足に持ち上げられた。
肩の傷口に体重の全てが乗って、さらに激痛が襲ってくる。
その時、今までの記憶が頭の中に流れた。
村での嫌な記憶ではない。
レオスとの出会いや、厳しい修行。
楽しい会話。フォスコとの三人旅。
ヨマ婆の優しさ。
十三年生きてきた内のたった一年。
だがロスカにとって、この一年は、宝物だった。
レオスとの旅が終われば、この思い出を胸に死のうと思っていた。
だがロスカは、もう自分の気持ちに嘘がつけなくなっていた。
死を目の前にして、やっと自分の本当の気持ちに気付くことができた。
この楽しい日々を捨てたくない。
まだ続けたい。
まだ生きていたい。
ロスカは気付いた。
とてつもなく怖い。
死ぬのが怖いということを。
ロスカの瞳に、力が戻った。
スカルネを力強く睨み付ける。
「あれ? まだ僕と戦うつもりナノ?」
スカルネは、心底うんざりしたような口調で言った。
「さっきので十分理解シタデショ? 僕には勝てないヨ」
「人の感情がわかるんでしょ?」
ロスカはスカルネに吊されながらも、気丈に振る舞った。
本当は、痛みで冷や汗も止まらない。
血を流しすぎて、寒気も止まらない。
「でもその能力、完全じゃないよね。精度が低いのかな? 私がどうしたいのかまではわかってないよね?」
「生意気言うネ。だけどそれがワカッタからって、今の君に何ができるノ?」
スカルネの言葉の通りだった。
わかったところで、ロスカがスカルネから逃れるわけではない。
しかし状況は変わった。
スカルネは、たくさんの弱点を教えてくれた。
それならば――
「ヴェント・リーヴァ!」
ロスカの呪文で、風の刃が一斉にスカルネに向かう。
全てスカルネの体は弾かれて、あらぬ方向へと飛んでいく。
「ヴェント・リーヴァ! ヴェント・リーヴァ!」
しかしロスカは止まらない。風の刃を無数に出す。
それはスカルネの体に当たって、不規則に弾かれる。
一つの風の刃は、弾かれてからロスカの頬と耳をかすめて血を流していた。
「何をしてるノ? それはさっき無理だってわかったデショ?」
スカルネは明らかに困惑していた。
普通なら、やけを起こしているとでも思っただろう。
だが、スカルネには感情が読める。
ロスカの心の火がまだ燃えていることに気付いている。
そのせいで、この行動を不気味がっている。
そしてスカルネのその発言で、先ほどのロスカの考えは確証に変わった。
「ほら。私が何を考えているのか、わかってない」
ロスカの顔ににやりと不適な笑みが浮かぶ。
すると、ロスカとスカルネの間に防御魔法が現れた。
大きな防御魔法は、ロスカの方もスカルネの方も向いていない。
全く別の方向を守っている。
「は? コレ何の意味ガ……」
それは一瞬のことだった。
スカルネの顔が防御魔法の青い光で照らされた瞬間、体が吹っ飛んだ。
岩肌に激突し、地面に崩れ落ちる。
ダメージはなさそうだが、体勢は崩せている。
防御魔法は、発動すると中心から順番に鋼鉄のように固くなる。
元のスカルネのいた位置に防御魔法を発動すれば、そのまま押し出される。
そして、そんなことができるのは――
「レオス!」
「人遣いの荒い弟子だぜ」
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