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勇者の落としもの  作者: 永久福
第3章

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22.絶望

 

 瞬間、ぞわりとした感覚がロスカの背筋を走る。


 勘が逃げろと言っている。


 慌てて跳躍する。


 だが、間に合わなかった。


 足に焼けるような痛みが走る。


 痛みでうまく着地できずに、地面に崩れ落ちるロスカ。


 レオスも手から離れ転がる。


「ロスカ! 大丈夫か!」


 先ほどロスカのいた場所を振り返ると、地面に突き刺さる蜘蛛の足があった。


 倒したはずの魔物が動いている。


 蜘蛛の背中には、先ほど首を跳ね飛ばした偽の兵士もいる。


 もちろん、首がある状態で。


 倒れたふりをされたのか。


 ロスカは、改めてこの魔物の知性に驚いた。


 死んだふりをする魔物はいるが、人間から見ればわかるものばかりだ。


 そもそも会話ができる時点で、普通の魔物とは一線を画しているのだ。


 ロスカは自分の甘い考えに苛立った。


「んも~あともうチョットだったのニ~」


 魔物は地団駄を踏む。だが図体の割に、軽い音が鳴る。


 蜘蛛特有の足さばきだからなのか、それとも見た目の割に体重が軽いのか。


 ロスカははっとして転がった首を探す。


 そこには、黒い水たまりができているだけだ。


 首はどこにもない。


 この黒い水たまりは、首だったものだろうか。


 その時、レオスが勢いよく魔物に引き戻される。


 また糸だ。


 すぐにロスカはレオスが連れて行かれないように、捕まえようとした。


 しかし、痛みが邪魔をする。


 見ると、左足はざっくりと切れて大量の血が流れていた。


 傷を認識すると、途端に先ほどまで感じていなかった常習的な痛みがロスカを襲う。


「レオス!」


 名前を叫ぶのが、今のロスカにできる精一杯だった。


 左足には、力が入らない。


 どうやら筋肉まで切られたようだ。


 踏み込みがもうできない。


 どこか他人事のように状況を考えているロスカがいた。


 しかしその思考に至って、顔から血の気が引いていく。


 左足は、ロスカの軸足だ。


 全ての攻撃の基盤になる場所だった。


「ロスカ! 俺のことはいいから戦いに集中しろ! こいつは魔王の一味だ!」


 さらに魔王の一味という言葉。


 これが本当のことであれば、今のロスカには勝ち目はない。


「あーぁ。まだバラしたくなかったのにナァ。まあいいカ。僕は魔王様の配下、スカルネだヨ~。よろしくネ!」


 また偽の兵士の姿で、スカルネは嫌な笑みを浮かべている。


 勇者しか倒せないとされる魔王の配下。


 ロスカは改めて、目の前の敵が強大だということを実感した。


 ロスカは剣を構えた。その剣先は小刻みに震えている。


 ロスカは、オーガと戦った時にも同じことがあったなと苦笑する。


 だが、前と同じようにこの震えは痛みからくるものか、それとも――……。


「その人型の部分は、攻撃しても無駄なんだね」


 ロスカはわざと大きな声でスカルネに問いかける。


「さァどうだろうネェ~?」


 スカルネは、相変わらず無邪気に笑う。


 返答の内容はどうでもよかった。


 声を出すと、気持ちが変わる。


 そんなことをレオスに教えてもらっていたからやってみたのだ。


 確かに、レオスの言うとおりだった。


 現状は何も変わってはいないが、少し心の重りがとれたようだ。


 レオスの教えがもう一つある。


 技術で負けていても、気持ちで負けるな。


 ロスカは、スカルネにニヤリと笑って見せた。


 これがロスカにできる精一杯の虚勢だった。


 そこから何の予備動作もなく、無数の糸が雨のように降ってきた。


 ロスカは慌てて後退する。


 だが、左足のせいで動作が遅れてしまった。


 何本かの糸は、ロスカの体にまとわりついている。


「ヴェント・リーヴァ」


 風の刃でロスカにまとわりつく糸を切断する。


 残った風の刃は、スカルネを襲った。


 だが案の定、固い体は全てを弾いた。


 だが、風の魔法であれば糸を切断できる。これは収穫だ。


「リゼル・テラ」


 ロスカが呪文を唱えると、スカルネの足下から土の棘が無数現れる。


 ロスカはスカルネの弱点は大体予想できていた。


 人間の部分が違うのなら、厚い甲羅で守られた蜘蛛の胴体しかない。


 そこに、スカルネの心臓はあるはずだ。


 体の表面ではなく、腹ならば他の部分よりは柔らかいだろう。


 ダメージを与えられるかもしれない。


 そこを狙ったが、スカルネは糸で岩にぶら下がってかわす。


 その糸を風の魔法で切る。


 そして、落ちてきたところを土の魔法の棘で狙う。


 スカルネはまた糸を伸ばしてそれをかわす。


 これの繰り返しになった。


「ぜ~んぶ無駄なんダヨ? どれだけ考えたってネ。だって僕は感情が読めるんダカラ」


ここまで見てくださってありがとうございます。

楽しんでいただけますでしょうか?

もしよかったら感想などいただけるとうれしいです。

見てくれたあなたに、幸せが訪れますように。

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