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勇者の落としもの  作者: 永久福
第3章

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20.過去の片鱗①

 

 ヨマ婆の顔が浮かぶ。


 魔道具の中で、二人で楽しそうに笑っていた。


 だがこのベイルは、違う。


 にやにやと悪意に満ちた顔で笑っている。


 ロスカの剣を握る手は、力が入って真っ白になっていた。


 体中が冷えていく。


 手足が震える。


「アレ? もしかしてお知り合いカナ?」


 魔物がそう言うと、ベイルは甲羅の中に吸い込まれていった。


 そして、甲羅がまるで水のように波打っている。


 そこで陶芸でもするように、徐々に黒い人型が現れた。


 それは徐々に色を持ち始める。


 ウェーブがかった金髪。


 青い瞳。


 それは、街でヨマ婆が治療した兵士と瓜二つの姿となった。


「これナラ僕とお話デキルゥ?」


 偽物の兵士が満面の笑顔で語り掛ける。


 けたけたと笑い声までつけて。


 ロスカの手足は、今や氷のように冷たくなっていた。


 それとは対照的に、胸の奥からは激しい炎が吹き出している。


 ことごとく、人間を馬鹿にしている。


 ロスカの口からは、奥歯をかみしめるぎりぎりという音がなっていた。


「レオスを返して」


 ロスカの口から低く冷たい声が出る。


 だがそれでも、この魔物はにこにことした表情を変えずに答える。


「んもゥ~せせせせかかかかっかちだだなァ」


 突然口調が壊れたようにおかしくなる。


 甲羅の上の人間が一瞬歪んでは戻りを繰り返している。


 それはおぞましい光景だった。


 人間をあまりにも侮辱している。


「あ、あ、あ。ごめんネぇ~たまにこうなっちゃうんダァ~」


 魔物は照れくさそうに笑う。


 蜘蛛の腕で偽の兵士の頭までかいている。


 人間の真似をしている。


 ことごとく気持ちの悪い魔物だ。


 今すぐにでも飛び掛かって斬りつけたい衝動に駆られた。


「どうしてレオスをさらったの」


「こいつが僕の親のカタキなんダヨ~」


 そういうと、魔物の背後からレオスが糸で引っ張られてきた。


 ロスカは体をずらして魔物の後ろを見る。


 どうやら洞窟があるらしい。


 この魔物の巣だろうか。


 そして何より魔物の言った言葉がロスカの脳内を支配する。


 親の仇。


 レオスは石だ。


 ロスカの知っている限りでは、防御魔法しか使っているのを見たことはない。


 もしかしたら、他にも高度な魔法が使えるのかもしれない。


「もがもが!!」


 レオスは相変わらず糸にがんじがらめで、何を言っているのかわからない。


 偽の兵士が、蜘蛛の腕から人間の両手でレオスを受け取る。


 いつレオスを壊そうとするかわからない。


 ロスカは、いつでも駆け出せるよう足に力を込めた。


「どうしてその親の仇のレオスのことがわかったの? あなたから見てもただの石でしょ」


「そんなの簡単だヨォ~。街に君たちがキタから魔力を見てみたダケ。僕は魔力で個体を判別デキルんダヨ」


 つまりロスカたちが街に来たことも、オルダナ火山にこっそり登ってきたことも全て筒抜けだったようだ。


 わかった上で、見逃されていた。


「本当は君タチが街に来て、すぐにオーガを行かせたノニ、あいつらモタモタしてるから夜になっちゃったんだヨォ」


 オーガは、この魔物の差し金だった。


 そして、この魔物に殺されたオーガの恐怖に歪んだ顔。


 この魔物には、仲間という概念はないようだ。


「どうして人間の姿をしているの。しかも私の知っている人たちだった」


「ヒヒヒ、随分質問スルネ。僕が何でも答えると思ってるノ?」


 この言葉には、怒りなどの響きはない。


 ロスカは本当に魔物と会話しているのだ。


「まあ僕は優しいカラ教えてあげるヨ。僕はネ、食べたニンゲンのありとあらゆるモノを再現できるんダヨ。こうしてオハナシできるのも、ニンゲンを食べたカラなんダ」


 偽の兵士が自分の体を抱きしめる。


 子供が一番大切なおもちゃを持って、眠るように。


「特にこのニンゲンは、見た目がいいカラ気に入ってるヨ。髪もキラキラだし、目も空みたいでキレイデショ? ロスカサンの知っているニンゲンなのは偶然だけどネ」


 ロスカは、この魔物に心底吐き気を覚えた。


 視界に入れたくもない。


 人の姿を借りて、人間のまねごとをしているおぞましい魔物だ。


 ロスカの腹の底に、黒いものが渦巻いていた。


「僕からも質問しようカナ」


 偽の兵士は、会話を続ける。


 魔物からの質問に、ロスカの気も引き締まる。


 何か意図があるのかもしれない。


 一言も聞き漏らさないように、ロスカは耳をそばだてる。


「どうして僕がロスカサンを連れてキタかわかる?」


 魔物はニタニタと笑みを貼り付けながら尋ねてきた。


 ロスカは魔物の考えなど知るわけがない、と言いたいのをぐっとこらえた。


 ここで魔物の機嫌を損ねて、レオスに何かあってはいけない。


「さあ。私のことも食べたいとか」


 偽の兵士は大笑いした。


 偽の兵士の目には、笑いすぎて涙が出ている。


「ヒヒヒ。まあロスカサンの立場だト、そう思うよネ~。でも違う。僕は君を食べたりシナイ。君は、このレオスの前で無残に殺すンダヨ」


 さっと偽の兵士は、恍惚の表情に変わった。


 美しい顔に恐ろしい笑みが浮かぶ。


「どうしてレオスの前である必要があるの」


 ロスカは変わらず厳しい口調で問いかける。


 ここで引いてはいけない。


「僕の家族を殺シタんだよ、この男ハ」


ここまで見てくださってありがとうございます。

楽しんでいただけますでしょうか?

もしよかったら感想などいただけるとうれしいです。

見てくれたあなたに、幸せが訪れますように。

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