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勇者の落としもの  作者: 永久福
第3章

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19.警鐘

 

「はじめましてぇ〜、ロスカサン」


 その時、腕が出ている渦から愉快そうな声が聞こえる。


 男が裏声で話しているような声だ。


 なぜか言葉の端々で、ぎこちない話し方をする。


「あのねぇ〜、ず〜っとロスカサンのことは見てたんだヨォ」


 声はクスクスと笑う。


 一体この声の主は何者なのだろう。


「レオスに会いたいんデショ? 会わせてアゲルから、こっちにおいでヨ」


 腕がロスカを手招きした。


 これは罠だ。


 近づいたところを殺すつもりなのではないか。


 そう思うと近づけない。


 そんな感情を腕は察したのか、さらに愉快そうに言った。


「大丈夫。コッチに来ても殺したりしないヨ? 僕はタダ、顔を合わせてオハナシしたいだけなんダァ」


「話?」


「そうソウ。お話ダヨ。簡単デショオ?」


「信用できない」


 ロスカはばっさりと腕の提案を拒絶した。


 明らかに相手は人間ではない。


 話せる魔物の存在を初めて見たが、信じていいわけがない。


「あー、じゃあ声聞かせルヨォ」


 そういうとまた渦からもう一本の腕が現れた。


 腕の先に何かが糸でぶら下がっている。


「もががもがもがもがーーーー!!」


 レオスだ。糸で何を言っているのかわからない。


「レオス!」


 ロスカが駆け出そうとすると、レオスをぶら下げた腕は渦の中に消えた。


 話をしないと返してくれないようだ。


「ハイ、これでイイデショ〜? 僕は嘘をついてナイヨン」


 腕は得意げに言う。間違いない。


 この腕の正体が、ヨマ婆の言う化物だ。


 何が目的なのだろう。


「僕がコンナニ優しくしてるノニ、来てくれないならァ〜……」


 腕は、うーんと考えている。


 まるで子供のような態度に、調子が狂いそうになる。


 間違いなく、先ほどのオーガよりも凶悪な相手だ。


「レオスを――壊すよ」


 今までの楽しそうな雰囲気が消えた。


 空気が凍る。


 圧迫感で息ができない。


 これは脅しではない。


 そこには、わずかな怒りの感情と、きっとほんの少し殺気を出した。


 だが、それだけで全てを諦めてしまうような圧倒的力があった。


 ロスカは固唾をのんだ。


「……わかった。言うことを聞く」


 ロスカの言葉で、空気が一気に弛緩した。


 呼吸ができるようになる。


 今はこの腕がこの場を支配している。


「わァ~! そう言ってクレルと思ったヨ!」


 まるでおもちゃを買ってもらった子供のように喜ぶ腕。


 状況との差異に、ロスカの頭は混乱してしまいそうだった。


「じゃあロスカサン。コッチにきて、僕の腕につかまってネ!」


 ロスカは言われた通り、腕の元へ近づく。


 この腕には、未だにオーガの血がついている。


 おそるおそるその腕に捕まると、ぬちゃっと音をたてる。


 ロスカの眉間に、大きなしわが寄る。


 腕には小さな毛が生えていて、ロスカの手にちくちくと刺さる。


 腕はそのまま渦の中にずるりと入った。


 ぐいっと大きな重力がかかる。


 そして、世界がぐにゃりと回るような感覚。


 目が回ったようになり、ロスカの胃は悲鳴を上げていた。


 突然その感覚が消え、投げ出される。地面に足がついている。


 そのまま数歩進んで、ロスカは腹の中の胃液を吐き出した。


 落ち着いてから、辺りを見渡す。


 はるか下にベザクの街が見えた。


 ここは先ほどと同じ場所ではない。


 ロスカは、山の頂上にいた。


 頂上は観光スポット故なのか、開けた場所だった。


「人間はヤワだナァ」


 ロスカは声の聞こえた方を見る。


 そして、驚愕した。


 そこには、今まで見たことも聞いたこともないような魔物がいた。


 大きな蜘蛛の魔物がそこにいた。


 蜘蛛の魔物自体は存在する。


 だが、この魔物は全く別物と言ってもよかった。


 背中には大きな真っ黒い甲羅を持っていて、体全体もまるで昆虫のように固そうな殻で覆われている。


 大きさも、今まで見た魔物の中で一番大きい。


 しかし、何より一番目を引くものがあった。


 甲羅の上に人間の上半身が出ている。


 この人間が、話をしているようだった。


 その人間が誰なのか理解できた瞬間、ロスカの心臓は大きく跳ねた。


 あれは――


「ベイル……」


ここまで見てくださってありがとうございます。

楽しんでいただけますでしょうか?

もしよかったら感想などいただけるとうれしいです。

見てくれたあなたに、幸せが訪れますように。

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