18.奥の手②
ロスカは剣を構えて、地面に限りなく近くなるよう姿勢を低くした。
スピード勝負だ。
そのまま足に力を込めて突進。
それを見て、すかざす赤いオーガが前に出た。
首に向かって跳躍し、横一文字に振りぬく。
ガキィン!
まるで鋼鉄に当たったような音がして、剣が止まる。
やはりどこを狙っても、剣は通らない。
オーガもそれは理解しているようで、防いだりもしない。
そこが好機だった。
剣の表面には魔力を籠めてある。
魔力の量にもよるが、今回のようにマグマを剣に通さないこともできる。
ただ熱だけは、魔力に残る。
オーガの首に当たった剣は、マグマの熱が残っている。
「ガアアアアア!」
オーガの絶叫が響き渡る。
そして、オーガの力が抜ける。
剣はそのままオーガの首を斬り落とした。
これで一対一になった。
ヨマ婆の作戦は通用した。
剣には強くても、熱さには弱い。
ロスカはまた褐色のオーガと距離をとる。
だが、褐色のオーガは赤いオーガに向かっていた。
信じられないのか、数秒の間じっと首のない遺体を眺めている。
これは不意打ちだから通じた作戦だ。
それに、こうしている間にも熱は下がってしまう。
またマグマに剣をつけようにも、それをオーガは許さないだろう。
ここからが真の戦いだ。
オーガはロスカを見た。
その瞳は、怒りに満ちていた。
もう今までのようなロスカを下に見た戦闘はしてくれないだろう。
お互いにらみ合いが続く。
一瞬も気を抜くことは許されない。
口の中がカラカラに乾いている。
ふうと一つ息を吐いた時、オーガが動いた。
一瞬のうちに、オーガの蹴りがやってくる。
その蹴りをロスカは、避けることなく剣で受けた。
勢いを殺しきれず、ロスカはそのまま真横に吹き飛ばされる。
「ヴェント・リーヴァ!」
ロスカが呪文を唱えると、複数の風の刃がオーガを襲った。
だが、初級の魔法では歯が立たない。
両腕と足に命中したが、何のダメージもないようだ。
ロスカの顔に思わず笑みが浮かぶ。
あまりにも実力が違いすぎる。
もう笑うしかないのだ。
「あああああああ!」
ロスカは気合の声を出して、斬りかかる。
しかし、オーガはそのまま攻撃を体で受けず、全てをかわしている。
そしてオーガは、最後には距離を取った。
先ほどの攻撃で、剣を警戒しているようだ。
「まずいなぁ……」
思わず声が漏れる。
ヨマ婆から教わったのは、全部で二つ。
可能なら熱さで不意をつき、一撃で仕留める。
もしそれが無理なら、筋肉のない関節を狙って攻撃する。
一撃で剣が入らなくても、何度も同じ場所を攻撃すればダメージは入る。
そういう考えで動いていたのだ。
だが相手はロスカを侮らなくなった。
ただでさえ隙のない敵に、同じ個所に何度も攻撃を当てるのは至難の業だ。
だが、どうにかしてこの作戦を遂行するしかない。
ロスカは、またオーガに向かって行く。
またオーガはロスカの攻撃をかわしていき、どんどん後ろに下がっていく。
そのまま下がり続ければ、マグマの川に落ちる。
オーガもそれには気付いていて、一度ロスカが吹き飛ぶような蹴りを繰り出した。
……これもだめだ。
だがそこで足を止めずに、ロスカはまたオーガに攻撃をしかけた。
今まで様子を見ていたオーガは、今度は避けるだけでなく攻撃も織り交ぜてきた。
ロスカはどんどん押されてしまう。
「リゼル・テラ!」
オーガの足元から、複数の鋭い岩が突き刺そうと現れる。
全ての岩は先が折れて、オーガの体には貫通しない。
だが、足を止めることには成功した。
ロスカは、右手の肘を狙う。
一度風魔法が命中したものの、やはりこの一撃では斬り落とすことはできない。
だが、そこには一筋の血が流れていた。
それを見たオーガは、ロスカをギロリと睨んだ。
「グオオオオオオ!」
地の底を這うような雄たけびを上げるオーガ。
そしてオーガはロスカの剣ごと殴った。
ロスカは確実に防いだが、今までとは比べ物にならない威力だ。
そのまま体ごと吹っ飛び、固い岩肌に背中をぶつけた。
これでは以前と全く同じだ。
すぐには動けそうにない。
座り込んだロスカに、今回オーガは近寄ってくる。
そして、右腕を振り上げた。
ロスカは、赤土をオーガに投げつける。
目に入り、オーガは片手で目を抑えた。
痛みで震える体を無理やり起こし、オーガの右腕を狙う。
一撃。
その時、やっとオーガの右腕が吹き飛んだ。
オーガの低いうめき声が聞こえる。
その時、オーガの上空に黒い雲が渦巻き始めた。
それを見たオーガの顔が恐怖に歪む。
その黒い渦から、蜘蛛のような一本の腕が現れた。
腕だけでオーガよりも大きい。
何が起こったのか。
ロスカにはただ見ていることしかできなかった。
オーガは腕を見て、今までの戦いからは想像できないような怯えたように後退った。
そして、背中を向けて走り出す。
ロスカが一度は負けたあのオーガが、戦ってもいないのに敗走している。
しかし、腕はそれを許してはくれない。
紙のようにオーガの胸を貫いた。
腕からはぽたぽたと血が滴る。
ロスカの肌が粟だった。
これは、自分には手に負えるものではない。
一刻も早く気付かれないように、逃げるしかない。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
もしよかったら、感想などよろしくお願いいたします。
みなさんに幸せが訪れますように。




