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勇者の落としもの  作者: 永久福
第3章

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16.喪失

 

 鳥の声が聞こえる。


 目を開けると、ぼやけた視界に木製の天井が写った。


 いつもの納屋じゃない。


 ここはどこだろう。


 確か回収者に選ばれて……。


 そこですべて思い出したロスカは、弾かれたように体を起こした。


 瞬間、体に激痛が走る。


 一瞬、息ができないほどの痛み。


 ゆっくりベッドから下りようと体を横に向けた先に、ヨマ婆が椅子に座ってロスカを見ていた。


「どこに行こうとしてるんだい」


 それは疑問ではなく、咎めるような言い方だった。


「ヨマ婆、無事でよかった……」


 ロスカは心からの安堵のため息を吐いた。


「全く大した子だよ。オーガ相手に向かって行くなんて……。しかも、こうして生きてるなんて」


「ヨマ婆、レオスは? 連れていかれたまま?」


 ヨマ婆は一度ふうと息をつくと、あの戦いの後のことを教えてくれた。




 ロスカはオーガの攻撃を一歩下がったことにより、何とか頭の直撃は避けた。


 それができていなければ、頭を砕かれていたはずだ。


 だが、攻撃はそのままロスカの体に当たった。


 体がひしゃげて、吹っ飛んでいく。


 ヨマ婆は、ロスカはもう死んだと思った。


 しかし駆け寄ってみると、ロスカはかろうじて息をしている。


 だが、いつ死んでもおかしくないだろう。


 この子を死なせるわけにはいかない。


 オーガからの追撃が来る。


 そう思い、ヨマ婆はロスカに覆いかぶさった。


 だが、衝撃はいつまでも来ない。


 顔を上げると、オーガは店から消えていた。


 慌てて外に出る。


 オーガは列をなして、火山に戻る道を歩いていた。


 町を見渡しても、壊されたのは銀鹿の角亭だけだった。


 二階には被害がなく、床が抜けて落ちそうな気配もない。


 ヨマ婆は、ロスカの体を大急ぎで運び、治療を行った。




「あたしが思うに、あのオーガたちの狙いは、あの石だったんじゃないかね」


 オーガは、別名人食い鬼と呼ばれている。


 本来ならば、人間を目の前にして無視などできるはずがない。


 しかも今回は、意識を失って食べごろの人間がいたのだ。


 つまり――。


「レオスをさらったのは、火山に住み着いた化物の指示ってことだね」


 ロスカが言うと、ヨマ婆はうなずいた。


 どうしてレオスをさらったのか。


 どうしてレオスの存在を知っていたのか。


 疑問はつきない。


 それに、レオスが今も生かされている保証はどこにもない。


 ロスカたちが町に入ったのを見ていて、物珍しさで持って行ったのかもしれない。


 そうなれば、飽きてすぐに破壊されてしまう可能性もある。


 こうなれば、居ても立っても居られなくなった。


「ヨマ婆、オーガが来てからどれくらい経った?」


「丸一日だよ」


 なんということだろう。


 つまり、次の日の朝ということか。


 ロスカは痛む体で、ベッドから下りようとする。


 しかしその肩をヨマ婆が掴んで止めた。


「動いたらだめだ。兵士様を治した後で魔力がなくて、あんたの体は完全に治りきってない。オーガの攻撃を受けて、内臓も骨もぐちゃぐちゃだったんだ。安静にしてな」


「でも! レオスが!」


「いいかい。あんたの体を治したのはあたしなんだ。命の無駄遣いは許さないよ」


 有無を言わせぬヨマ婆の口調に、ロスカは押し黙る。


 言葉で説明しても理解してもらえない。


 ――仕方ない。


 ロスカは、ヨマ婆のことを気絶させようと隙を伺う。


 しかし、ヨマ婆には全て想像できていたのだろう。


 ロスカの腹を軽く小突いた。


「――――っ!」


 激痛がロスカの体を駆け抜ける。


 思わず、ベッドに倒れこんだ。


「ほら、ちょっと触っただけでこうなるんだ。まだ休んでなきゃだめだよ」


 ロスカの視界がまた歪んでいく。


 眠い。


 抗えない。


 瞼が勝手に降りてくる。


 ヨマ婆に何かされたようだった。


「そもそもどれだけ元気だろうと、あの火山には行かせたりしないさ」


 ヨマ婆が何か言っている。眠すぎて、理解ができない。


 そしてそのまま、瞼が閉じていった。





 次にロスカの目が覚めたのは、深夜だった。


 月明かりが部屋を照らしている。


 すっかり夜まで眠ってしまった。


 部屋を見渡してもヨマ婆の姿はない。


 ――今しかない。


 ロスカはゆっくりベッドから起き上がった。


 足音が鳴らないよう忍び足で、荷物の準備をする。


 体は朝のように動かしても痛みは少なかった。


 あの後、ヨマ婆がまた回復魔法をかけてくれたのかもしれない。


 ゆっくり慎重に階段を下りる。


 小さくミシミシと音が鳴り、ロスカは冷や汗をかいた。


 一階に下りると、涼しい夜風が吹き抜けていた。


 大穴からは月明かりが入り、そこにヨマ婆が立っていた。


「やっぱり行くんだね」


 ロスカに背を向けて、ヨマ婆が話す。


 表情も見えず、声からもどんな感情なのか読み取ることは難しい。


「……うん。レオスは私の大切な恩人だから。それに、この街の人たちを苦しめる魔物たちも許せない」


 ヨマ婆は、ため息をついた。


「オーガにだって勝てないのに、あの化物に勝つって? 笑わせるんじゃないよ」


 ロスカは言い返せなくなった。


 その通りだ。


 今のロスカでは、オーガすら倒せない。


 行くだけ無駄なのかもしれない。


「でも黙って待ってることもできない」


「……本当に何を言っても行くんだね?」


「うん。邪魔するなら、力ずくでも私は行く」


 またヨマ婆のため息が聞こえた。


 心底あきれているのかもしれない。


「ロスカ。あんた魔法は使えるね?」


「うん。簡単なものなら使える」


 ヨマ婆は、くるりと振り返りロスカに言った。


「じゃあ教えようじゃないか。オーガに勝つ方法を」


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

楽しめていますでしょうか?

もしよかったら、感想などよろしくお願いいたします。

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