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勇者の落としもの  作者: 永久福
第3章

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15.格上②

 

「リゼル・テラ!」


 オーガの足元から、岩の壁が現れて行く手を阻んだ。


 すると、オーガの視線がやっとロスカに向く。


 敵として認識された。


 ロスカは腰を低くして、攻撃を待つ。


 するとオーガは棍棒を頭上に構えてロスカに襲いかかってきた。


 巨体からは信じられないほどの速度だ。


 だがロスカは目の端で、ヨマ婆の姿を捉えた。


 手にはしっかり、ロスカの剣を持っている。


 力一杯、手を伸ばした。


 ヨマ婆は、剣を投げる。


 そこに、オーガの棍棒の振り下ろしが迫る。


 ロスカは華麗に攻撃をかわす。


 標的を失った棍棒は、そのまま床へと叩きつけられた。


 轟音。


 床の木材があちこちにはじけ飛ぶ。


 破片の中で、まだ宙にある剣を左手で受け取る。


 すぐに鞘から剣を抜くや否や、ロスカは駆け出す。


 そして、オーガの持つ棍棒を素早く根元から切り落とす。


 オーガは手から棍棒を離すと、素早く後方に飛んだ。


 そして、お互い睨み合いが続く。


 武器を壊したところで、彼らの本当の武器は肉体だ。


 筋肉は刃を通さず、拳は岩も砕く。


 果たして自分の剣が通用するのか……。


 ロスカの手の平に、じっとりと汗が滲んだ。


 その時オーガが動き出した。


 拳で先ほどロスカの作り出した岩壁を殴る。


 苛立ちだろうか。


 いとも簡単に、壁は砕け散った。


 だが、そのおかげでオーガの視線はロスカに向いている。


 これで問題ない。


 レオスに関心がいかないようにしていればいいのだ。


 オーガは、拳を胸の前に構えると、ロスカに突進してきた。


 そのまま左の拳が飛んでくる。


 ロスカは、身をかがめてかわす。


 だが、その先に膝蹴りが待っていた。


 とっさに両手で顔を守る。


「うっ……」


 衝撃。


 ロスカの体は、吹き飛ばされた。


 壁にたたきつけられ、息ができなくなる。


 痛い。


 脳内がそれだけでいっぱいになる。


 魔物からの攻撃を受けてしまったのは、これが初めてのことだった。


 ヨマ婆が、ロスカの名を叫んでこちらに来ようとしている。


「来ちゃだめ……隠れて……」


 ロスカの絞り出した言葉は、ヨマ婆に届かない。


 その後ろには、オーガが向かってきている。


 ――まずい。


 このままではヨマ婆が殺されてしまう。


 そう思うと途端に体に力が湧いてきた。


 ゆっくりと立ち上がる。


 痛みは消えない。


 オーガも立ち止まって、こちらの様子を見ているようだ。


 ロスカは、剣を構える。


 だが先ほどの攻撃で、両手が震えていた。


 骨に問題はないが、手にうまく力が入らない。


 その手をヨマ婆が、そっと握る。


 一瞬、緑色の光がまばゆいほど輝いた。


 すると、手の震えが収まっていく。


 まだ腕に違和感はあるが、剣は振れる。


「ロスカ! あんたが頼りだよ! やっちまいな!」


 基本、ロスカの剣は受け身の剣だ。


 相手の動きをよく見て、隙ができたら攻撃を叩きこむ。


 ロスカ自ら仕掛けるということを、未だにやったことはなかった。


 いつも敵の攻撃を利用した戦いしかしてきていないのだ。


 だが、今まで通りのままでは勝てない。


 このオーガは、戦い慣れしている。


 受け身でいては、攻撃をよけることはできても、有効打を与えることはできない。


 ロスカは足に力をこめ、オーガめがけて踏み込もうとしたときだった。


 今戦っていたオーガの背後に、また別の赤いオーガが現れた。


 戦いに夢中で、足音に気付いていなかった。


 赤いオーガはまっすぐカウンターの元へ向かうと、その大きな手でレオスにかぶせていたジョッキをとった。


「ん? なんだ?」


 レオスの声が聞こえる。


 状況が理解できていないようで、間抜けな声が聞こえる。


 ロスカの体は、弾かれたようにレオスの元へ向かった。


 だが、褐色のオーガはそれを許してはくれない。


 ロスカの道に回し蹴りを叩きこんできた。


 また頭を下げてかわす。


 そして、右の大ぶりの拳がロスカを襲う。


 このままでは、レオスの元に行くことができない。


 その間に、赤いオーガはレオスをそっと手で持ち上げると、店から出ていこうと歩き始める。


「ロスカ!」


 レオスの声が聞こえて、ロスカがほっとした。


 まだ壊されてはいない。


「レオス!」


 まだロスカの名を叫んでいたレオスの声が遠くなっていく。


「邪魔だ!」


 ロスカは必死に褐色のオーガの攻撃を避ける。


 連撃に次ぐ連撃で、打ち込む隙が無い。


 だが――。


 左の腕でオーガの拳を受ける。


 受け流していないので、腕の骨は見事に砕け散った。


 オーガの攻撃の力を利用して、下からの剣の攻撃。


 入った!


 ロスカの剣は、オーガの体に当たった。


 だが、それだけだった。


 刃が入らない。


 ロスカの目の前に、オーガの拳が迫る。


 一歩、後方へ下がる。


 ロスカにできたのはここまでだった。


 そして、彼女の意識はここで途絶えた。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

もしよかったら感想などもよろしくお願いいたします。

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