15.格上②
「リゼル・テラ!」
オーガの足元から、岩の壁が現れて行く手を阻んだ。
すると、オーガの視線がやっとロスカに向く。
敵として認識された。
ロスカは腰を低くして、攻撃を待つ。
するとオーガは棍棒を頭上に構えてロスカに襲いかかってきた。
巨体からは信じられないほどの速度だ。
だがロスカは目の端で、ヨマ婆の姿を捉えた。
手にはしっかり、ロスカの剣を持っている。
力一杯、手を伸ばした。
ヨマ婆は、剣を投げる。
そこに、オーガの棍棒の振り下ろしが迫る。
ロスカは華麗に攻撃をかわす。
標的を失った棍棒は、そのまま床へと叩きつけられた。
轟音。
床の木材があちこちにはじけ飛ぶ。
破片の中で、まだ宙にある剣を左手で受け取る。
すぐに鞘から剣を抜くや否や、ロスカは駆け出す。
そして、オーガの持つ棍棒を素早く根元から切り落とす。
オーガは手から棍棒を離すと、素早く後方に飛んだ。
そして、お互い睨み合いが続く。
武器を壊したところで、彼らの本当の武器は肉体だ。
筋肉は刃を通さず、拳は岩も砕く。
果たして自分の剣が通用するのか……。
ロスカの手の平に、じっとりと汗が滲んだ。
その時オーガが動き出した。
拳で先ほどロスカの作り出した岩壁を殴る。
苛立ちだろうか。
いとも簡単に、壁は砕け散った。
だが、そのおかげでオーガの視線はロスカに向いている。
これで問題ない。
レオスに関心がいかないようにしていればいいのだ。
オーガは、拳を胸の前に構えると、ロスカに突進してきた。
そのまま左の拳が飛んでくる。
ロスカは、身をかがめてかわす。
だが、その先に膝蹴りが待っていた。
とっさに両手で顔を守る。
「うっ……」
衝撃。
ロスカの体は、吹き飛ばされた。
壁にたたきつけられ、息ができなくなる。
痛い。
脳内がそれだけでいっぱいになる。
魔物からの攻撃を受けてしまったのは、これが初めてのことだった。
ヨマ婆が、ロスカの名を叫んでこちらに来ようとしている。
「来ちゃだめ……隠れて……」
ロスカの絞り出した言葉は、ヨマ婆に届かない。
その後ろには、オーガが向かってきている。
――まずい。
このままではヨマ婆が殺されてしまう。
そう思うと途端に体に力が湧いてきた。
ゆっくりと立ち上がる。
痛みは消えない。
オーガも立ち止まって、こちらの様子を見ているようだ。
ロスカは、剣を構える。
だが先ほどの攻撃で、両手が震えていた。
骨に問題はないが、手にうまく力が入らない。
その手をヨマ婆が、そっと握る。
一瞬、緑色の光がまばゆいほど輝いた。
すると、手の震えが収まっていく。
まだ腕に違和感はあるが、剣は振れる。
「ロスカ! あんたが頼りだよ! やっちまいな!」
基本、ロスカの剣は受け身の剣だ。
相手の動きをよく見て、隙ができたら攻撃を叩きこむ。
ロスカ自ら仕掛けるということを、未だにやったことはなかった。
いつも敵の攻撃を利用した戦いしかしてきていないのだ。
だが、今まで通りのままでは勝てない。
このオーガは、戦い慣れしている。
受け身でいては、攻撃をよけることはできても、有効打を与えることはできない。
ロスカは足に力をこめ、オーガめがけて踏み込もうとしたときだった。
今戦っていたオーガの背後に、また別の赤いオーガが現れた。
戦いに夢中で、足音に気付いていなかった。
赤いオーガはまっすぐカウンターの元へ向かうと、その大きな手でレオスにかぶせていたジョッキをとった。
「ん? なんだ?」
レオスの声が聞こえる。
状況が理解できていないようで、間抜けな声が聞こえる。
ロスカの体は、弾かれたようにレオスの元へ向かった。
だが、褐色のオーガはそれを許してはくれない。
ロスカの道に回し蹴りを叩きこんできた。
また頭を下げてかわす。
そして、右の大ぶりの拳がロスカを襲う。
このままでは、レオスの元に行くことができない。
その間に、赤いオーガはレオスをそっと手で持ち上げると、店から出ていこうと歩き始める。
「ロスカ!」
レオスの声が聞こえて、ロスカがほっとした。
まだ壊されてはいない。
「レオス!」
まだロスカの名を叫んでいたレオスの声が遠くなっていく。
「邪魔だ!」
ロスカは必死に褐色のオーガの攻撃を避ける。
連撃に次ぐ連撃で、打ち込む隙が無い。
だが――。
左の腕でオーガの拳を受ける。
受け流していないので、腕の骨は見事に砕け散った。
オーガの攻撃の力を利用して、下からの剣の攻撃。
入った!
ロスカの剣は、オーガの体に当たった。
だが、それだけだった。
刃が入らない。
ロスカの目の前に、オーガの拳が迫る。
一歩、後方へ下がる。
ロスカにできたのはここまでだった。
そして、彼女の意識はここで途絶えた。
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