12.不和①
ロスカは部屋の扉を勢いよく開くと、階段を駆け下りた。
廊下を抜けて店に向かう。
するとそこには、賑やかな光景が広がっていた。
老人たちがテーブルについて、楽しそうに話をしている。中には、酒を飲んでいる者もいた。
「下りてきたかい。空いてる席に座りな」
ヨマ婆は、キッチンから大きな料理皿を両手に持ってやってきた。
大きなチキンが載っている。
辺り一面に、腹の虫を鳴かせる匂いが立ちこめる。
いい匂い。
ロスカの頬が締め付けられたようになって、口にはよだれが溢れ出す。
「おい婆さん、ここにいる奴らは?」
レオスが辺りの騒ぎの声に負けないよう声を張る。
「ここに残った村人さね。今じゃこれしかいないがな」
そう言うとヨマ婆は、また豪快に笑う。
そして、キッチンへと戻っていった。
また料理を取りにいったのだろう。
ロスカはカウンターに座ると、楽しそうな老人たちを改めて見た。
夫婦や、友達同士のようだ。
全部で五人。
みんなこの壊滅寸前の町に住んでいるとは思えないほど明るい。
「お嬢ちゃん、この町の人間じゃないのう? 何でこんな危ない町に子供がいるんじゃ?」
酒を飲んでいる男がロスカに声をかけてきた。
まだ料理も全て出ていないのに、既に酔っ払っているようだ。
顔も赤い。
じろじろとロスカを眺めてくる。
怪しまれるのは仕方ないのかもしれない。
ここまで人の少なくなった町に、わざわざ旅人が来たのだ。
なにか思惑があると思われてしまうのも無理はない。
「こらこら、子供に酔っ払いが絡むんじゃないよ」
ヨマ婆がそう言うと、酔っ払いの老人はへいへいと元の席に戻っていった。
「ありがとうございます」
そう言うロスカの前に、チキンステーキの皿が置かれた。
その瞬間、目の前に湯気が立ち上る。
それと一緒に、香ばしい肉の香りがロスカの鼻に届いた。
今まで自分たちで料理をしなければいけなかったので、プロの味は本当に楽しみだ。
「とりあえず、飯を食いな。話はそれからだ」
ヨマ婆は、そう言うとパンとナイフとフォークをロスカの前に置いた。
ロスカは、チキンステーキを大きくカットして、一口。
皮目がパリパリに焼かれていて、噛んだ瞬間に肉汁が溢れる。
「おいしい!」
ロスカの言葉にヨマ婆は一瞬呆けて、すぐに笑った。
「たくさん食べて、大きくなるんだよ」
「本当にいつもおいしそうに飯を食べるよなぁ」
レオスが感心したように言うが、ロスカには返事をしている余裕はない。
そのまま、子供が食べるには多い夕食をペロリと間食した。
「ほお、そんな小さいのによく食べるもんだ」
ヨマ婆は、ふうとたばこの煙を吐いた。
ヨマ婆のたばこの香りがする。
「で、あんたらは何しにこんな危ない町に来たんだい?」
「レオスの目的地だったので来たんです。石だから自分で動けないって……」
ロスカはベザクに連れてきてほしいとは言われたが、ここで何をしたいのかは聞いていない。
その後の言葉に迷っていると、レオスは口を開いた。
「ここには調べ物に来たんだ」
「あぁ。図書館かい? あの古書のたくさん置いてある」
すると先ほどの酔っ払いの老人が、会話に入ってきた。
「オルダナ図書館じゃろ? 今じゃ魔物の住処じゃよ」
「そうさな。あそこは火山のそばにあるから、化物の手下の魔物がうじゃうじゃいる。中もどうなっているのかわからないね」
ヨマ婆の言葉に黙り込むレオス。
せっかくここまで来たのに、中々うまくいかない。
「……それでも俺は行かなきゃならねえんだ」
絞り出すような声でレオスが言った。
きっと何か事情があるのはわかる。
「まあ何か調べたいものがあるのはわかったさ。だけど、魔物の討伐が終わるまでは、大人しくした方がいいね」
「そうじゃな。わざわざ死ににいくこともあるまいて」
二人の言葉にレオスは押し黙った。
二人は正しいことを言っている。
いくら成長しているロスカでも、魔物の群れを一人で相手にしたり、国の討伐隊を全滅させるような魔物を相手にする力はない。
この状況を打開するには、時が経つのを待つしかない。
ロスカが口を開こうとしたその時、レオスが言った。
「ロスカ。オルダナ火山に行くぞ」
「何言ってるの……? さすがに私には無理だよ……」
「俺には時間がねえんだよ!」
辺りは水を打ったように静まりかえった。
全員の視線が、ロスカたちに集まる。
今まで旅をしてきて、こんな理不尽なことでレオスに怒鳴られたことはない。
怒られることはあっても、ここまでレオスが感情をむき出しにするのをロスカは初めて見た。
だが、ロスカも精一杯やってきた。
あんなに遠い道のりを超えて、たくさんの命のやりとりも乗り越えて……。
全ては、あのときの優しさに報いるためだった。
ロスカを一人の人間として認めて、接してくれた。
そう思っていた。
だがさっきの言葉は、本当にそうだろうか。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
みなさんに幸せが訪れますように。




