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勇者の落としもの  作者: 永久福
第3章

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12.不和①

 

 ロスカは部屋の扉を勢いよく開くと、階段を駆け下りた。


 廊下を抜けて店に向かう。


 するとそこには、賑やかな光景が広がっていた。


 老人たちがテーブルについて、楽しそうに話をしている。中には、酒を飲んでいる者もいた。


「下りてきたかい。空いてる席に座りな」


 ヨマ婆は、キッチンから大きな料理皿を両手に持ってやってきた。


 大きなチキンが載っている。


 辺り一面に、腹の虫を鳴かせる匂いが立ちこめる。


 いい匂い。


 ロスカの頬が締め付けられたようになって、口にはよだれが溢れ出す。


「おい婆さん、ここにいる奴らは?」


 レオスが辺りの騒ぎの声に負けないよう声を張る。


「ここに残った村人さね。今じゃこれしかいないがな」


 そう言うとヨマ婆は、また豪快に笑う。


 そして、キッチンへと戻っていった。


 また料理を取りにいったのだろう。


 ロスカはカウンターに座ると、楽しそうな老人たちを改めて見た。


 夫婦や、友達同士のようだ。


 全部で五人。


 みんなこの壊滅寸前の町に住んでいるとは思えないほど明るい。


「お嬢ちゃん、この町の人間じゃないのう? 何でこんな危ない町に子供がいるんじゃ?」


 酒を飲んでいる男がロスカに声をかけてきた。


 まだ料理も全て出ていないのに、既に酔っ払っているようだ。


 顔も赤い。


 じろじろとロスカを眺めてくる。


 怪しまれるのは仕方ないのかもしれない。


 ここまで人の少なくなった町に、わざわざ旅人が来たのだ。


 なにか思惑があると思われてしまうのも無理はない。


「こらこら、子供に酔っ払いが絡むんじゃないよ」


 ヨマ婆がそう言うと、酔っ払いの老人はへいへいと元の席に戻っていった。


「ありがとうございます」


 そう言うロスカの前に、チキンステーキの皿が置かれた。


 その瞬間、目の前に湯気が立ち上る。


 それと一緒に、香ばしい肉の香りがロスカの鼻に届いた。


 今まで自分たちで料理をしなければいけなかったので、プロの味は本当に楽しみだ。


「とりあえず、飯を食いな。話はそれからだ」


 ヨマ婆は、そう言うとパンとナイフとフォークをロスカの前に置いた。


 ロスカは、チキンステーキを大きくカットして、一口。


 皮目がパリパリに焼かれていて、噛んだ瞬間に肉汁が溢れる。


「おいしい!」


 ロスカの言葉にヨマ婆は一瞬呆けて、すぐに笑った。


「たくさん食べて、大きくなるんだよ」


「本当にいつもおいしそうに飯を食べるよなぁ」


 レオスが感心したように言うが、ロスカには返事をしている余裕はない。


 そのまま、子供が食べるには多い夕食をペロリと間食した。


「ほお、そんな小さいのによく食べるもんだ」


 ヨマ婆は、ふうとたばこの煙を吐いた。


 ヨマ婆のたばこの香りがする。


「で、あんたらは何しにこんな危ない町に来たんだい?」


「レオスの目的地だったので来たんです。石だから自分で動けないって……」


 ロスカはベザクに連れてきてほしいとは言われたが、ここで何をしたいのかは聞いていない。


 その後の言葉に迷っていると、レオスは口を開いた。


「ここには調べ物に来たんだ」


「あぁ。図書館かい? あの古書のたくさん置いてある」


 すると先ほどの酔っ払いの老人が、会話に入ってきた。


「オルダナ図書館じゃろ? 今じゃ魔物の住処じゃよ」


「そうさな。あそこは火山のそばにあるから、化物の手下の魔物がうじゃうじゃいる。中もどうなっているのかわからないね」


 ヨマ婆の言葉に黙り込むレオス。


 せっかくここまで来たのに、中々うまくいかない。


「……それでも俺は行かなきゃならねえんだ」


 絞り出すような声でレオスが言った。


 きっと何か事情があるのはわかる。


「まあ何か調べたいものがあるのはわかったさ。だけど、魔物の討伐が終わるまでは、大人しくした方がいいね」


「そうじゃな。わざわざ死ににいくこともあるまいて」


 二人の言葉にレオスは押し黙った。


 二人は正しいことを言っている。


 いくら成長しているロスカでも、魔物の群れを一人で相手にしたり、国の討伐隊を全滅させるような魔物を相手にする力はない。


 この状況を打開するには、時が経つのを待つしかない。


 ロスカが口を開こうとしたその時、レオスが言った。


「ロスカ。オルダナ火山に行くぞ」


「何言ってるの……? さすがに私には無理だよ……」


「俺には時間がねえんだよ!」


 辺りは水を打ったように静まりかえった。


 全員の視線が、ロスカたちに集まる。


 今まで旅をしてきて、こんな理不尽なことでレオスに怒鳴られたことはない。


 怒られることはあっても、ここまでレオスが感情をむき出しにするのをロスカは初めて見た。


 だが、ロスカも精一杯やってきた。


 あんなに遠い道のりを超えて、たくさんの命のやりとりも乗り越えて……。


 全ては、あのときの優しさに報いるためだった。


 ロスカを一人の人間として認めて、接してくれた。


 そう思っていた。


 だがさっきの言葉は、本当にそうだろうか。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

みなさんに幸せが訪れますように。

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