11.ベザク
「あのじじいのことを助けてくれてありがとうね」
ロスカの肩が跳ねる。
気付かぬうちに、ヨマ婆が背後に立っていた。
「あんな奴でも私の大切な弟子でね。何度も来るなと言ってるのに……」
「婆さんのことが大事なんだろうな。魔物に襲われても、一回も弱音はいてなかったぜ」
ヨマ婆は、はあと大きなため息をついた。
仕方のない子だとでも言うように。
でも、その顔には笑顔が浮かんでいた。
「あんたたち、今この町には宿屋なんかやってないから、家に泊まりな」
ロスカたちは、ヨマ婆の後に続いて店にまた戻る。そのまま店の二階の一室に案内された。
部屋は、ベッドが一つと机があった。
壁にはぼろぼろの剣や鞄、褐色のマントがかけられていた。
だが、ヨマ婆が羽織るには、大きいように見える。
「ここはヨマ婆の部屋なんですか?」
「……いや、ここは孫の部屋だよ」
「それなのにこの部屋借りていいのか?」
レオスの言葉で、ヨマ婆の表情に影が差した。
「……問題ないよ。夜の食事の時に声をかけるからそれまでゆっくりしてな」
ヨマ婆は早口でまくし立てるように言うと、すぐに扉を閉めた。
足音が一階に下りていく。
「何かあったのかな」
「まあそうだろうな。とりあえず寝床があることに感謝してゆっくりしようぜ」
「そうだね」
ロスカは、ベッドに腰掛けた。
胸がどくんどくんと大きく脈打った。
ついにベザクに到着したのだ。
レオスの目的は達成された。
未だに、詳しいことは教えてくれていない。
だけど、ここで旅は終わりだ。
「……レオス、話があるんだけど」
「ああ。どうした?」
その時、ロスカは机の上に何かを見つけた。
ベッドから立ち上げり、手に取ってみる。
「うわぁ……、これすごい」
思わずロスカの口から声が出た。
ロスカの手にも収まるような長方形の板。
縁には飾り模様が入っている。
ふとそこに、ヨマ婆と一人の青年がいた。
青年はすらりとした長身で、黒髪に黒い瞳をしていた。
よく見ると、この部屋の皮の鎧と剣を装備しているように見える。
「おお、珍しいな。これは残しておきたい思い出の一部を記録する魔道具だな」
「へえ。本当にそこに二人がいるみたい……」
二人は板の中で、目を合わせて楽しそうに笑った。
そして、ヨマ婆が青年の背中を叩く。
青年は一瞬驚いた顔をして、また笑顔に戻る。
そして、また二人で笑い合う。
どうやら同じことを繰り返しているようだ。
「触った人間の微量な魔力で動く魔道具なんだ。だから、手を離したらそこの板には何もなくなる」
ロスカが板を壁に立てかけて手を離すと、板の二人はたちまち消え去った。
「本当だ。いなくなっちゃった……」
今は、ただ壁に立てかけられた板だ。
「ねえレオス。さっきの男の人って、この部屋の持ち主なのかな」
「まあそうかもしれねえな。あの婆さんの年齢的にも、そんな年の孫がいたって不思議はねえ」
その時、下の階からヨマ婆の声が響いた。
あの年齢と体格からは驚くような大声だ。
「ロスカ! 夜ご飯の支度ができたよ!」
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