10.到着
回収者になってから半年が経った。
フォスコを助けた日からは三か月。
レオスとフォスコとの旅は、それは楽しいものだった。
相変わらず修行の毎日ではあったが、ロスカの心持ちも変わったことで、驚くべき速度で成長していた。
フォスコはそんなロスカを黙って見守ってくれた。
そして、料理もうまい。
ロスカは、フォスコのことが大好きになった。
道中で、魔王復活が近いという話も聞いた。
その影響で、回収者への監視が厳しくなっているとも。
中には、『裁き』を受けた者もいるようで、ロスカは不安で押しつぶされそうになった。
このままではいつ自分が殺されるかもわからない。
この不安は誰にも言い出すことができずに、ついに一行はベザクへ到着した。
夕暮れの中に遠くから町並みが見えたとき、一行に緊張が走った。
もう家すらも残っておらず、廃墟になっていると思っていたからだ。
しかし近づいていくと、まだ生活の痕跡が見られた。
崩壊している家もあったが、未だほとんどの家が形を保っている。
煙突のある家からは、煙も上がっていた。
人が生活している!
思わず、三人で喜び合った。
フォスコが言っていた城の兵士たちが、きっと魔物を倒してくれたのだ。
しかし、それは都合の良い妄想だった。
誰も町の中を歩いていない。
元は美しい石畳の道だったのだろう。
だが今は、ほとんどが剥がれている。
道にも家にも、ロスカの身長を優に超える爪痕が多数刻まれているためだ。
この町からは、まだ恐怖の香りが漂っていた。
フォスコの馬車は、ゆっくりと町を進んでいく。
家の形は残しているが、窓やドアは割られ人が生活しているとは思えない。
「この角を曲がると、私の師匠の店があるのですが……」
フォスコの表情は固い。
馬を進めるのも、勇気が必要だろう。
ロスカも自分でも気付かぬ間に息を止めて、じっとその時を待っていた。
角をまがると、そこに大きな看板を掲げた店があった。
看板には、『銀鹿の角亭』と書かれている。
看板には、他と同じように三本の爪痕が残されていた。
銀鹿の角亭の煙突からは、煙が昇っている。
それを見たフォスコは、大きく息を吐いた。
ロスカも胸をなで下ろす。
馬車を店の前に止めると、扉が勢いよく開かれた。
「フォスコ! もう来なくていいって言っただろう!」
怒鳴り声を上げながら、老婆がフォスコに詰め寄る。
そして、フォスコの胸ぐらを掴んで、揺さぶり始めた。
老婆は、フォスコよりもさらに背が小さく、ロスカと変わらない。
それにも関わらず、パワフルだ。
白髪が交じった髪を後ろでひっつめている。
「ヨ……ヨマ婆……死ぬ……」
フォスコが老婆の腕を弱々しく叩く。フォスコの限界が近いようだ。
「あ……あの、フォスコさん死んじゃいますよ」
ロスカが老婆に声をかけると、目をカッと見開いてさらに強く胸ぐらを締め上げた。
フォスコの足が地面から離れている。
「すんげぇ婆さんだな……」
レオスからも驚きの声が漏れた。
しかし、そんな声も気にならないのか、老婆の勢いは止まらない。
「あんた! こんな子供をどうしたんだい! 答え次第によってはただじゃおかないよ!」
ぐえっと蛙のような声をあげて、フォスコは気を失った。
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