9.不穏
「え! おっさんもベザクに向かうところだったのか!?」
馬車に揺られながら、レオスと先ほど助けた男――フォスコが語り合っていた。
フォスコを助けた後、お礼に乗せられるところまで馬車で送ると申し出てくれた。
だが何の偶然か、フォスコも同じベザクに向かうところだったようだ。
「ああ、そうなんですよ。まさかお二人もベザクに向かうところだったとは。しかも徒歩で」
「徒歩で行く人は中々いないんですか?」
「まあそうですねぇ。大体は馬車を使うと思いますよ」
その言葉に、ロスカはレオスをじっとりと見つめる。
「なんだよ、修行も兼ねてたんだから仕方ないだろ? 移送が馬車になったからって、修行はちゃんとやるからな!」
レオスは相変わらず厳しい師匠だ。
「いや~それにしてもよかったです。馬車で乗せられるところまで送るなんて、大してお礼になりませんからねぇ。目的地までお送りできてなによりです」
「でも、大丈夫ですか? 私たち邪魔になったりとか……」
「滅相もございません! 命を救っていただいたんですから、これでも足りないくらいですよ。こちらも、腕の良い用心棒がいることで心強いくらいなんですよ」
フォスコは、白い顎髭をなでながら、ほほほと愉快そうに笑った。
「おっさん、ちゃっかりしてんなぁ。さすが商人」
お礼の意味合いも兼ねているのだろうが、ロスカたちを連れて行くことで、自分の身の安全を守ることにもつながる。お互いによって、利益のある話だった。
「ところで、お二人はベザクへなにしに行かれるんです?」
「このレオスをベザクに送り届けに行くの」
「ほうほう、レオス殿が。何か調べ物ですかな?」
「調べ物?」
想定外の言葉に、ロスカは疑問をそのまま口に出していた。
「ベザクは、学問の町でしてな。特に古代の本なんかが町の図書館に置いてあるんですよ。色んな学者の方もよくいらっしゃっていました。……だけど今のベザクでは、本も無事かどうか……」
フォスコの顔にずっと浮かんでいた微笑みが消えた。
「どういうことだ?」
そこにすかさずレオスが切り込む。
「ベザクの火山のことはご存知ですかな?」
「……あぁ。オルダナ火山だろ?」
レオスが忌々しげに答えた。
レオスは、いつも通りに会話しているつもりかもしれない。
しかし、ロスカはいつもと違うレオスの反応にいち早く気付いた。
「えぇ。今はそこに強力な魔物が住み着いてしまってまして……。時折町に下りてきては、人を襲うんです。それが原因で現在、ベザクは壊滅寸前なのです……」
壊滅寸前。この言葉を聞いて、ロスカは言葉が出なくなった。
「壊滅寸前って……。国から討伐隊は出てないのか?」
「ちょうど私がベザクにいたときに、討伐隊を向かわせるって話でした。だけど、それが一ヶ月後にって話だったんです……」
王都ヴァルクから、ベザクまで馬車でも三ヶ月はかかる。
時期を考えると、まだベザクの町に討伐隊は着いていないだろう。
既に壊滅寸前とまでフォスコに言わせた町だ。
ロスカたちが着く頃には、どうなっているだろう。
「だから、今の町にどれほどの犠牲が出ているのか……。私にはわからないんです」
そう言うフォスコの表情は暗い。
商売をしていれば、ベザクに知り合いの一人や二人いるだろう。
ロスカはフォスコの気持ちを考え、何もできない自分にもどかしくなった。
「……フォスコさんはどうしてベザクに行くの? 危ないんでしょ?」
「私は……、そうですね。実はベザクには、私に商売を教えてくれた師匠がいるんです。その師匠が困っているなら、私もできる限りのことをやりたいんです」
力強い言葉だった。
今までも何度も危ない目に遭ってきたのだろう。
だが、この商人は屈しなかった。
ロスカの心は震えた。
それに、師匠ということはロスカにも身近な存在だ。
レオスが困っていたのなら、ロスカも迷わず助けるだろう。
「今やベザクは危険な町です。誰も近づかないので、物資も食料もない。誰かがやらないといけないんですよ。戦い続ける人がいる限り」
フォスコは白髪の眉尻を下げて、微笑んだ。
その笑顔の裏に隠された気持ちを、ロスカには全て察するとはできない。
だが、フォスコが本当に強い人間である。
ロスカにとってフォスコは、尊敬できる大人の一人になった。
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