表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BL異世界ゲーム ・〜主人公、初期好感度マイナスは変わらない。王妃に暴言、王子を崖から投げ、陛下をブランコで揺らす不敬な日々〜  作者: 怒れる布団


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

7:タウリンとポリフェノールが売りの蟹大福、試食者募集中

「叔父様! 叔父様! あれ、なあに?」


 公爵邸に着くなり、キルミスは庭の噴水に高く積み上げられた「蟹の殻」の山を指差した。


 母を苦しめた男の悪行を暴く――その決意とは裏腹に、幼い王子の瞳は、冷徹なまでの観察眼を宿している。


 「キルミス、僕はまだ二十三歳だから『叔父様』はやめて。ロビンって呼んでね」


 「……わかった。で、ロビン。あれが噂に聞く『領民の血税を食いつぶした証拠』なの?」


 「そうでーす。ついでに言うと、あの山は噴水で蟹を養殖しようとした実験の成れの果てでーす」


 「……ロビン。海の蟹が淡水の噴水で生きられるわけないよね? つまりあそこに積まれているのは、ロビンの無知によって虐殺された蟹たちの墓標なの?」


 四歳の王子が、大人顔負けの痛烈な正論を突きつける。だが、ロビンは全く動じることなく、透き通るような瞳で甥を見つめ返した。


 「違うよ、キルミス。あそこに積んであるのは、全部『一匹の蟹』が脱皮した跡だよ」


 「……は?」


 キルミスの鋭い追及が、物理法則の無視によって凍りついた。


 「一匹だけ、短期間に究極の進化を遂げた蟹がいてね。そいつが毎日、脱皮を繰り返して成長した結果があの山さ。大きくなりすぎて噴水からはみ出しちゃったから、今は海に返してあげたんだけど……」


 ロビンは、聖者のような慈愛の微笑みを浮かべた。


 「僕にすごく懐いていてね。呼ぶと波打ち際まで戻ってくるんだ。最近は『お手』ができるように教えたんだよ。ハサミで」


 「…………」


 キルミスは、生まれて初めて「理解不能」という絶望に直面した。


 城で聞かされてきたロビン・ルボイト像は、人を狂わせる美貌を持ち、怠惰にして傲慢、家門の資材を浪費する「冷酷な悪魔」だったはずだ。打ち倒すべき、手強い敵。


 (……おかしい。僕が想定していたのは、もっと狡猾で隙のない悪魔だ。なのにこれは、ゼリーみたいなクラゲを相手にしているみたい)


 キルミスは、握りしめていた小さな拳の落とし所を見失った。


 そもそもこの男に「憎まれるに値する知性」が備わっているのか? 復讐心は、ロビンの底抜けた「無垢という名の狂気」を前に、完全に迷子になってしまった。


 「……ねえ、ロビン。そのカニ、本当に『お手』ができるの?」


 やがて、復讐心よりも「幼児としての好奇心」が、わずかに勝る。


 「本当だよ。今度、一緒に海に見に行こうか。その時、キルミスを蟹の餌にしようかな」


 「……それやったら、父様に八つ裂きにされるどころの騒ぎじゃないよ。国が滅ぶね」


 「そうだね、きっと生きたまま……。考えたくないな」


 「よくわかってるじゃない!」


 復讐を誓ったはずの王子は、気づけば全力でツッコミを入れさせられていた。


 「さ、中に入って。特製のスイーツを用意したよ」


 促されるまま足を踏み入れた応接間で、キルミスは三度固まった。


 壁一面に貼られた『噴水完全養殖計画・改訂第十四版』という狂気の図面。その異様な光景を背に、ロビンはひらひらと手を振った。


 窓際い近くのテーブルの上にコトン、と置かれたのは、白くて丸い、一見すると愛らしいお菓子だった。


 「……ロビン、これ、何?」


 「僕の自信作、『蟹大福』試作4号。カニのタウリンと小豆のポリフェノールが入ってる。お互いの栄養を補完する健康食なのに、なぜかみんな食べてくれないんだよね」


 キルミスは絶句する。漂ってくるのは、小豆の甘い香りを微塵も寄せ付けない、圧倒的な「磯臭」だ。


 (……この人、善意で毒を作るタイプだ……!)


 もし悪意で毒を盛られたのなら、犯罪として告発できる。だが、この男は本気でこれが「優秀なお菓子」だと信じ、あろうことか自分の母上、セルシュにもこれを食べさせようとしたのだ。


 キルミスは頭の中で、必死に作戦を再構築する。


 戦術A:横領を問い詰める。


 ――効果なし。本人が「何に金を使ったか」を一番理解していない。


 戦術B:怠慢を責める。


 ――効果なし。「何か悪いことした?」と無垢に聞き返される未来しか見えない。


 戦術C:情に訴える。


 ――不可能。そもそも会話のレールがつながっていない!


 キルミスは、カニ大福を見つめたまま悟った。自分はいま――

「知性では勝てない相手」と対峙しているのだと。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!巨大なカニ大福に興味ある方は 、ぜひ評価・ブックマークをお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ