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BL異世界ゲーム ・〜主人公、初期好感度マイナスは変わらない。王妃に暴言、王子を崖から投げ、陛下をブランコで揺らす不敬な日々〜  作者: 怒れる布団


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11:最短ルートの全額返済

 人気のない断崖に立ったロビンは、キルミスを抱えたまま、眼下の暗い荒波を見下ろした。

 夜の海は、音ばかりがやけに大きく、砕ける波の白は、闇の中で不規則に浮かんでは消える。


 「……ロビン、ここで何をするの?」


 キルミスが震える声で尋ねると、ロビンは至極あっさりと答えた。


 「一括清算。……あ、ルイス。王子の着替えとタオル、持ってきたね?」


 「持っていますが……。……しかし、泳ぐにはまだ暗すぎ――」


 ルイスの言葉が終わるより早く、ロビンは抱えていたキルミスを、あろうことか断崖から夜の海へと放り投げた。


「あ――」


 理解が、遅れて追いつく。視界は反転した。


「えっ――あ、あああああああ!?」


 空と海が入れ替わり、崖が遠ざかる。落ちている。自分の悲鳴すら耳のそばを駆け抜けていく。


 ――死ぬ。


 短い確信が、静かに胸に落ちた。


「うわぁぁぁぁ!! ロビン様!?」


 ルイスが止めようと駆けるが、もう遠い。


 ドボォォォン!!


  突き刺さるような冷水が全身を包み、肺が反射的に空気を求めた。


 ――苦しい。


 鼻から水が、入る。息ができない。身体が勝手に暴れる。


 上も下も分からない暗闇の中、ただ恐怖が膨れ上がった。


 その極限で――何かが、内側から“動いた”


 ぞわり


 血管の内側を、冷たいものが這い上がる。喉の奥に、どろりとした塊。


(なに、これ……)


 皮膚の裏側が膨らむ感覚。内側から押し出されるように、黒いモヤが滲み出した。

 それは煙のようでいて、もっと粘ついた何かだった。


 自分の中にあるはずのないものが、出口を求めて暴れている。


 怖い。

 

苦しい。

 

気持ち悪い。


 拒絶しようとするほど、それは勢いを増した。視界が黒に侵食されていく。自分という輪郭が、内側から崩れていく感覚。


 ――その瞬間。

 首元が、熱を帯びた。

 キルミスの首輪が、眩い光を放つ。



 「……禊、終わり。おーい、チビ。その子、こっちに戻して」


 ロビンが呑気に指笛を吹くと、海中から巨大な影が浮上した。ロビンのペット、レッドメタルの大王蟹だ。


『チビ』と呼ばれた、五メートルの巨大蟹は、キルミスを傷つけないよう絶妙な加減でハサミで掴み、海面まで持ち上げた。


 カニはキルミスから溢れ出す黒いモヤを、まるで極上の獲物のようにムシャムシャと食べ始める。食われた部分から、キルミスの心身が「すっ」と軽くなっていった。


 やがて全てのモヤを平らげたカニは、用済みとばかりにキルミスを砂浜へポイと放り出した。


「……がはっ! げほっ、ごほっ……!」



 キルミスは、海水と涙でぐちゃぐちゃになりながら激しく咳き込んだ。



 「ロビン様! なんてことなさるのですか! 王子に万が一のことがあれば、貴方は八つ裂きどころでは済みませんよ!」


 ルイスが青い顔で叫びながら慌てて崖を駆け降りて行く。


 「んー、まあ、兄上のリミットも近かったし……」


 ロビンは、眼下で光るキルミスの首輪を、感情の読めない瞳で見つめた。


 ◇


 ルイスは波打ち際に倒れたキルミスに駆け寄り膝をついた。


 「王子、王子! ご無事ですか!」


 「……はぁ、はぁ……。……し、死ぬかと思った……」


 ルイスは慌ててキルミスを厚手のタオルで包み込む。王子の体は、恐怖と寒さで小刻みに震えていた。


 「……申し訳ありません、王子。お止めすべきだったのに……」


 ルイスの声は、今にも泣き出しそうなほど掠れており、キルミスは、彼の腕の中で激しく咳き込みながら、青白い顔で海を見つめる。


 「……なんか、すごく嫌なのが出てきて……びっくりしちゃった……でも、あのカニがそれを食べてくれたの」


 キルミスは、自分の首元に触れた。そこには、ロビンが強引に付けた『光る首輪』が、変わらず柔らかな熱を帯びて鎮座している。


 「……ロビンは、わかってたのかなぁ。ボクの中に、あんな化け物がいたこと」


 ルイスは、はたと動きを止めた。


 主人が先ほど口にした「返済」という言葉。その真実が脳裏をよぎり、背筋に冷たいものが走る。


 呪術において、放たれた呪いの報いは決して消えない。だが、呪術者が強力な『守護』で守られていた場合、行き場を失った負債は消滅するのではなく、最も繋がりが深く、愛の強いものへと転嫁されてしまう。


 (……あの、覇気がなくなったセルシュ様……!)


 恐ろしい結論にルイスが息を呑んだ、その時だ。


「お疲れ。返済完済だ」


 悠然と砂浜に降りてきたロビンは、どこから取り出したのか高級ベーコンのひとかたまりを海へ放り投げた。カニはそれを器用にハサミでキャッチすると、満足げに泡を吹きながら暗い海へと帰っていく。


 「ロビン様……あなた、蟹に呪いを食わせるためだけに、王子を投げたのではないのですね」


「ん?」

 

「……呪いの報いは、王子を飛び越えて、今この瞬間もお母様であるセルシュ様の命を喰らい尽くそうとしていた。……だから、あえて王子に『死を確信させる』ことで、呪いに“支払いは済んだ”と誤認させ、強制的に清算させた。そうですね!?」


 ルイスの戦慄混じりの問いに、ロビンは「ふん」と事も無げに笑った。


「一回死んだことにすれば、呪いの方も納得して引き下がってくれるでしょ。最短ルートの全額返済だよ。……まあ、本当に死なせたら、頭の皮ごと引き剥がされるだろうから、チビに拾ってもらったけどね」


 ルイスは、その非道で、合理的な解決策に、口元だけを引きつらせながら、笑いとも嗚咽ともつかない音を漏らした。

 二人の話を聞いていたキルミスは柔らかいタオルにくるまれたまま、自分を投げ落とした叔父を見る。


 恐怖はまだある。けれど、首元の首輪は、温かい。


 「……ロビン。本当に……いつか僕が、地獄に叩き落としてあげるからね」


 「楽しみにしてるよ。じゃあ、帰って蟹雑炊でも食べようか。あ、あいつは食べちゃダメだよ」


 そう言って、暗い海へ手を振った。


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あと4話で完結です。よろしくお願いいたします。

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