第25話
苦痛と忍耐を要する日々が何日も続いたが、もうこれ以上黙っていることは無理かもしれない。ウスルはそこまで追い詰められた。
そのときである。
彼の周囲に光の柱が降りた。
いまにもウスルを斬り殺さんと殺気ばっていた王や家臣達だが、この変化に狂気じみた笑みを浮かべずにはいられなかった。
きた!
ようやく来た!!
我らの逆境を救う神託が、ついに来たのだ!!!
『……心して聞くがよい、人の子よ。森の守護者フンババが叫び声を上げたとき、香柏の森より一匹の猫を連れた少女が現れる。かの者こそ我が遣わした勇者であり、其方達を必ずや救い出すであろう!』
ゴォゴォゴォゴォゴォゴォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!
神託をその身に下ろした反動で目が虚ろなウスルを覚醒させるかのような、大地と大気を震わせる凄まじい雄叫びが香柏の森より響いた。このような雄叫びは人でも魔族でも絶対不可能。
森の守護者フンババしかありえない。
神託は本物なのだ。
絶望と焦燥に打ちのめされていた軍隊に覇気が戻る。
ヤクルム2世は矢継ぎ早に家臣達へ指示をする。
「シャムラ卿。そちは今すぐ突撃隊の準備をしろ!」
「はっ」
「騎士カルケミシュ、そちは優れた馬を選びだすのだ」
「は、勇者様が騎乗するのに相応しい、美しい馬を直ぐに選び出します」
「馬鹿者! 勇者が敵本陣に斬り込めるほど快速で健脚な馬を選ぶのだ。美しさなどどうでもよい!!」
「はっ」
「典医 アースー」
「御傍に」
「ヘクトール卿を運び出せるようにしろ。なんとしてもあやつを生かしたまま連れていくのだ」
「畏まりました。我が医術の全てを賭けて」
「財務大臣 ワシュカンニ」
「こちらに控えております」
「敵陣を駆け抜けるのに邪魔となる財宝は、すべて打ち捨てよという命は却下する」
「それでは我らの行軍速度の足枷となりますが、宜しいのですな」
「分らぬかワシュカンニよ、勇者が現れた以上我らが負けるはずがないのだ。ならばこの場を切りぬけたときを考えても良いのではないか?」
「たしかに資金がなければ雑軍と判断されかねませんな」
「勇者が我らに味方するとしても、多少の手持ち資金は必要なのだ」
「……ですが行軍の足枷になると思われるものについては、やはり捨てていかなければいけません」
「……仕方ない。選択はその方に一任する」
「ははっ」
「皆の者、走れ! 走って、走って走りまくって生き残るのだ。余がウガリトの玉座に復権した暁には、生き残った者全員に金貨100枚を下賜することを約束しよう!」
後年ヤクルム2世の方針が正しかったことが証明されるが、この時点でそれを知るものはいない。彼はその先見性をもって逸早くシオンの傍に収まると、勇者シオンが与えられた報酬に一切興味を示さなかったことを良いことに、それら全てを自らの懐に入れる。
屑のような所業だが、この資金こそがウガリト再興の礎となっていく。
ヤクルム2世が白銀のシオンの腰巾着と呼ばれる所以である。




