第19話
「よかったね、ケイ君が本物のケット・シーだって証明されて」
「最初からそう言っているじゃん!」
「ケイ君が信用できるかとケット・シーかどうかは別もの。『俺は魔王の生まれ変わり!』とか『前世は龍でした』とか、コンバート前の話しする痛い子がいるんだよ~」
痛い奴と思われていたのか。
予想はしていたけど、本人から言われるとやっぱり面白くない。
「……信用してくれたのは嬉しいよ、嬉しいけどさぁ」
「もう、拗ねないの」
不貞腐れたのをみかねたのか、シオンは僕の喉をゴロゴロさせながら体を撫でてくれる。これは卑怯だ。おもわず「にゃぁぁあ」と甘い声で甘えてしまう。
5分後。
「日ノ本オンラインの知識がまったくない理由もわかったから、シオン達プレイヤーキャラクターについて話しをするね」
「僕の話しは聞かなくていいの?」
「あとでいいの~」
「いいんかい!」
「いいんだよ~」
むー。
こっちは世界の救済とか頼もうとしてるのにこの調子だよ。
まあいいか。
らしいと言えばらしいし。
なにより僕は日ノ本オンラインについて――否、武者についてもっと知らなければいけないのだから。シオンが優れた人材なのは分かってきたけど、武者について知らなければ彼女が僕が望む人材なのか判断できないからね。
「そもそもの話しになるけど、日ノ本オンラインのプレイヤーは全員武者のクラスにしかなれないの。呪術師や陰陽師みたいな広範囲を対象とした術を持たないから、戦略級な活躍には不向きだよ」
全員が戦士なのかぁ。
肉弾戦しかできない連中だけなんて理想的な編成とはいえないけど、軍隊ならそんなもの。国府という行政組織から軍事行動を依頼されるくらいだから、武者は冒険者よりもそちらに近い存在なのだろうか。
「武者の強さその1。武者は全員武芸十八般を納めているから、あらゆる戦況に対応できるの」
「全員は流石に言い過ぎじゃない?」
「キャラメイキングと同時に基本動作を覚え込まされるので、武芸十八般を使えるというのが正しいかも。あくまで基本だけなので、連続的な動きは自分で工夫するしかないよ。それでも一から覚える必要がないから納めているといっていいの」
「型だけを覚えてるみたいな感じ?」
「型は連続的な動きも意味するから、技だね。これは評価が二分するみたいで、剣LV1、弓LV1みたいなレベル制でないから成長過程を楽しめないとか、自由度とかアレンジ要素が少ないと主張する人もいるの。シオンは直ぐに戦えるこのシステムが気に入っているけどね。それに間合いの取り方とか好きな技を主体にした連続技とかで個性が出せるから、自由度とかは気にならないの」
自由度がなにを示すのか正直理解不能。
人によっては重要な価値観らしいのはわかったけど、僕にとって重要なのは武者達が――否、シオンが武芸十八般の基礎を納めているという点だけ。
シオンが弓を引くところはみたことないけど、彼女の体格で可能だとか凄すぎるよ。
「武者の強さその2。武者は全員治癒術を取得しているの」
「どのくらいの治癒術? 実は蘇生可能なレベルとか言わないよね」
「それじゃゲームバランスが崩れるよ。取得いるのは簡易的な治癒術なの」
「よかった、安心したよ」
「一回で二割の体力が回復する程度の術が10回使えるだけなの」
「十分すぎるよ! それだけ使えたら兵士というより騎士じゃないか!」
「武者が戦う相手は数において自分達の数倍~十倍以上だったり、数倍以上の大きさの魔物だったりするの。このくらいできないと簡単に全滅するの」
「シオンのレベルで話しているよね?! 絶対そうだよね!」
「程度の差はあるけど、初心者でも似たような条件で戦っているよ~」
そういえば日ノ本オンラインで最初に出会った人たちは、数十匹の一角兎から逃げ回っていたような。
「でも戦っている相手が滅茶苦茶だよ! じゃあ、桔梗屋にいた源爺さんも同じことしている?」
「できるよ~」
「桔梗屋さんが群れた武者達を恐れたのも納得だよ」
戦略級魔術師みたいに一瞬で敵軍を消滅させたりは不可能だけど、そういう話じゃない。どいつもこいつも主を持たぬ自由騎士でその戦闘力がAクラスの冒険者並みだとか何かが狂っている。
修羅の国だよ、この世界。
……マルドゥク様、僕をとんでもないところに送り込みましたね。
このことは後でゆっくりお話ししましょう。
「武者の強さその3。武者は属性と呼ばれている特殊な力を習得しているの」
「魔術師達が語る4元素みたいなやつかな?」
「4元素?」
「4元素とは世界が火・風・水・土という要素から構成されているという考え方で、4元素の対称性から成り立つとされているんだ。属性が有効なら、日ノ本オンラインは僕の知っている常識と同じなんだね」
「ちょっとまってね、ケイ君。日ノ本オンラインの属性は4ではなく5なの」
「5?」
「シオン達が行使できる属性は火、水、土、風、天の5属性だよ。公式サイトに書いてあって説明によるとね――4元素とは世の中がプラスとマイナスのいずれかだという対極的な世界観だけど、5大元素は5つの要素がそれぞれ活かしたり打ち消したりするという世界観なんだって」
「よくわからないけど、僕の知らない属性があるんだね」
「よくわからないの」
僕の知らない理屈でこの世界が成立しているのか。
武者たちの破格の戦闘力には第三者によって意図的に与えられたように感じるけど、それはいまは問題じゃない。
「難しい話しはこのくらいにして、シオンが知っている属性の効果について説明するね。
最初はもっとも一般的な火属性で、これは攻撃力特化型。
一定時間攻撃力を上昇させるとか全ての攻撃で会心判定になるとか、そういう術がつかえるの。あと重要なのは腕力強化されるので、刀身が150センチもあるような大太刀が扱えるようになったりするの。
武者になるなら大太刀を装備したい人とか結構いるから、日ノ本オンラインではこの属性を選ぶ人が多いの。
で、源おじいちゃんもその一人なの~
水属性は体力や疲労回復が可能な支援特化型。
武者全員は治癒と呼ばれる回復方法を納めているけど、回復量はそこまで多くないの。けど水属性による回復は治癒よりも格段に性能が上で、広範囲に支援できるので重宝されているけど――支援されて当然みたいに考えている人が多いから、プレイヤー間のトラブルが多くて。
みんな嫌な思いしたくないから、あえて水属性を選ぶ人は多くないの。
土属性は防御力が急上昇したり、敵を一手に引き受けたりする防御特化型。
VRMMOではボスを挑発して攻撃を一手に引き受ける防御特化型の人が戦局を左右したりするけど、日ノ本オンラインではそこまでではないの――だって日ノ本オンラインに実装されている基本の回避動作がそれなりに優秀だから。
土属性は腕力が火属性以上に上昇するから、金棒みたいな機動性を無視した重装備をして、相手から向かってくるように仕向ける待ちスタイルが主流なの。
風属性は機動性と手数を重視する速度特化型。
圧倒的な速さを強みにして魔物の攻撃を回避しつつ、相手の懐に飛び込むとかを得意にしているね。日ノ本オンラインでは疲労が一定数値以上溜まると一定時間動けなくなるシステムだけど、風属性は疲労が溜まりにくく回復しやすいのも大きな特徴。
あと気付いているかもしれないけど、シオンも風属性だよ~
最後の天属性は、稲妻のような一撃を得意とする一撃特化型。
全ステータスが上昇するので隙が少なくて攻撃力も高いけど――その一撃を繰り出すのに全体力を犠牲にしないといけないデメリットがあるの。当たっても当たらなくても一撃必殺ロマン属性なので玄人向けだよ~」
「火属性が多くて水属性が少ないのは特徴的だなぁ。武者は個人技を重視しているからだと思うけど、そのかわり集団戦を得意としていないかもね」
「当たっていると思うの。武者は騎士のように国とか領主に使えていないから、戦う相手が軍隊じゃなくて野党だったり魔物なの。さっきも指摘したけど治癒と呼ばれる回復手段を基本取得しているし、敵を倒すると体力とか疲労が回復するスキルが充実しているのも大きいかも。でも一番大きいのは、水属性のプレイヤーに対する態度の悪さだと思うの。武者は武芸を重視するクラスだからそういう態度になるのは分からないでもないけど、最低なの」
シオンにしては言葉に棘があるのは案外実体験かもしれないな。
触れてはいけない気がするので、この話題はなるだけ避けるようにしよう。
「プレイヤーが最初に属性を自由に設定できるけど、一度決めた基本属性は変更不可なの。ただその代りに属性が付与されている武器や防具が出回っているので、それで補うことができるよ。ただ属性が付与された武器や防具は数が少ないから市場にはあまり出回らないし、仮に販売されてていてもそれは一番多くプレイヤーが選択している火属性。入手するにはクエストや迷宮でドロップするしかないけど、ドロップする率自体が低い上に、出現する属性武具の確率が火>土>風>水>天の順だから天属性はほとんどみかけないの」
「それだったら最初にレアな天属性を選んで、武器と防具で属性をおぎなえばいいじゃん」
「残念ながら天属性だけは初期設定できないの。入手困難でデメリット満載のロマン属性だから、この属性を使用しているプレイヤーはかなり稀なの」
「天属性は扱いが難しいのは理解したけど、それでも逆転できるような一撃が可能なのは魅力的だと思うけどなぁ」
「そもそも論になるけど逆転狙いの闘い方は、その時点で負けているの。第一そこまでしなくても火や土は腕力が上昇するから、大太刀や槍のような攻撃力の高い武器を装備すれば十分強いよ~」
「瞬間最大火力が最強! じゃないんだね」
「ゲームバランスが崩れるの」
「ごもっとも」
マルドゥク様が望まれる人材は短期間で戦局に影響を与えられる人材。天属性持ちが適しているけど探すのは大変そうだ。時間的猶予や武者たちの戦闘力を考慮すれば、シオンが主張するように天属性にこだわる必要はないのかもね。




