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猫とシオンと日没する国の果ての果て  作者: 大本営
第一章 猫とシオンと日ノ本オンライン
18/26

第18話

「ご飯、美味しいよねぇ」


 ここはシオンの自宅。

 炊き立てのお米、青野菜のおひたし、そして囲炉裏で暖められた汁物。天上界のエテメンアンキに居たときとは比べるまでもない質素な食事だけど、シオンは満足そうな笑みを浮かべている。


「ケイ君、おかわり~」

「はいはい」


 僕は彼女の差し出す陶器製の茶碗にご飯を盛っていく。

 猫だろ、お前。

 へらとか使わないとか不衛生だろう! とか言わない。

 魔法が使えるから、へらくらい操作するのが簡単なの。最初、シオンの動作を見ていただけだけど、このくらいなら魔法でできると申し出た。

 給仕も中々様になるのが余程面白いのか、シオンは極上の笑みを浮かべながらご飯を食べている。


「ケイ君、おかわり~」

 これで何度杯目だろう。

「そんなに美味しい?」

「砺波のお米は最高なの。あとカロリー制限とか気にしないでも食べられるのも最高なの」

「シオンは小さいからもっと食べないと大きくなれないよ」

「甘い甘いの、ケイ君! 一つの油断が取り返しのつかないことがあるの」

「そうかなぁ~」

「そうなの!」

 さりげなく女性の象徴を観察する。

 僕のみる限りシオンにそのような行為はまだ不要にしか思えないけどなぁ。





 僕達が呑気にご飯を食べていられるのは、桔梗屋でのグリズリー討伐完了手続きが迅速に処理されたから。

 ほんと、追い出すような勢いで事務処理された。


「シオンさまはもうお帰りですか」

「うん。今日はこれからケイ君の歓迎会をするの」

「ケイ? なるほどそちらの猫さまですな」

 番頭を務める菊助さんは、僕をみると一人で妙な納得をしている。

「そうだよ~ ケイ君はシオンの友達なの」


 嬉しそうに僕を紹介するシオンの姿からは、先ほどまでなにが起きていたのか気付ているようにみえない。

 素なのか?

 わざとなの?

 僕には見分けがつかない。

 シオンは傍目には能天気な良い子にみえるけど、時々なにを考えているのか見えなくなるときがある。いや、その意外性が面白いから良いんだけど。


「シオンさまのご友人なれば、当家としても歓迎しないといけませんな。誰か、あれを」

 菊助さんが軽く手を叩くと、丁稚の一人が陶器製の小さな瓶を持ってくる。

「取引先から仕入れた柚子味噌でございます。こちらの小さなご友人の歓迎の品としてお納めください」

「これ美味しいよね~」

「柚子は砺波の名産品でございますから」

「ありがとうなの」

 シオンは礼を述べると素直に品物を受け取った。


(……ふう、一時はどうなるかとおもったわ。所詮は腕っぷしが強いだけの小娘か)


 猫である僕だから聞きとれたくらいの呟き声。

 他の人には息を吐いたにしか見えない。

 それくらい小さな声。


「ところで桔梗屋さん」

「なっ、なんでございましょうか」

「シオンはやり過ぎはいけないと思う♡」

「もっ、もちろんでございます」

「《《ほんとうに》》?」

「……以後、気を付けます」

「うん。ならいいの」


 青ざめながら腰を抜かす菊助さんを見ないふりして、僕達は桔梗屋を後にした。

 僕の知る冒険者は、ギルド相手に同じ態度を絶対にしない。

 A級ライセンス持ちだとしても、だ。

 これが武者。

 これが武者たちが大切にする自主独立・独立独歩。

 笑みを浮かべながら斬り付けることを厭わない彼らは頼もしくあるけど、正直ちょっとこわいな。



 そしていまに至る。



「ささ、ケイ君も食べて食べて」


 僕の前には陶器製のお皿には大根やごぼう、そして美味しそうな肉の塊が用意されている。味噌をベースに味付けされたそれらは、囲炉裏で暖められた鍋で煮込まれていた。味噌は桔梗屋で頂いた品物。贈り物としてくれるくらいだけあって、食欲をそそる香りがする。

 すべてシオンの手料理。

 彼女は良い嫁さんになるだろうな。


「熊鍋は体が暖まるし、なにより美味しいよ~」

「う、うん」


 シオンはさらりと熊鍋と言っているけど、これは只の熊じゃない。僕を殺しかけたアイツ――グリズリーのの慣れの果て。

 運命が少し違っていれば僕が食べられていたかも――それを思うと顔が若干引きつる。

 でも美味しい。


「美味しいでしょ?」

「うん」

「おかわりあるよ~」


「ところでケイ君はケット・シーであって、本当は猫じゃないよね?」

「そうだよ。ケット・シーは猫であると同時に妖精――妖精猫。僕達は限りなく猫に近いけど異なる存在なので、二足歩行できるし人語も話せるのさ。まあ、基本猫のフリでしているけど」

「なんで?」

「シオンは猫好きだけど猫アレルギーの人っているよね」

「好きなのに触れられないのって可哀想なの」

「僕の場合、妖精なので猫アレルギーが発症しないんだ。猫好きの猫アレルギーにとって僕達ケット・シーは垂涎の的だから、バレたらどこまでも追い回されるよ」

「そうなんだ。ケイ君がケット・シーとバレたら大変だね」

「まあ、黙って四足歩行していれば問題ないけど」

「でもでも、ケイ君はすぐバレると思うの」

「なんでさ」

「だって、さっきからシオンの調理を熱いまま食べているの」

「うっ」


 思わず言葉に詰まる。

 天上界のエテメンアンキで食べていた料理の影響で、熱い料理に慣れ過ぎたな。


「……以後気をつけます」


「そうしたほうがいいの」

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