第11話
「ところでケイ君はこれからどうするの?」
僕達が一緒に旅をする切っ掛けは、シオンの一言から。後から思えばこのときから、僕の運命は本当の意味で動き出したのかもしれない。
それはそうと、最初は意味がわからなかった。
僕の目的はマルドゥク様から与えられた使命に合うような人物を探すこと。なら人口の多い都市に行けばいいだけなんだけど、問題はここが山の中。おそらく都市まではかなり遠いと思うけど……
「シオン以外にも冒険者がいたから近くに人里があるんじゃないの?」
「やっぱり勘違いしてたよ~」
「勘違い?」
「勘違いその1。ここの場所「大月平」は人里まで歩いて1週間くらいの距離にあるの」
「山村とかもない?」
「ないよ~。この辺に住んでないから宿屋も道具屋もないの」
「もしかして、物資の補給も安全な休憩場所できない?」
「そうだよ~ 休憩するだけなら適当な場所でキャンプしてもいいけど、寝ている最中に魔獣から襲われるから、大月平にくる冒険者は大抵複数人でいるよ。シオンはこの子たちがいる場所があるから、キャンプ地には困らないけどね」
兎と鴉に狼は、ここぞとばかりにシオンに甘えてくる。
まるで人の言葉が理解できるようだ。
シオンがそんな彼らを優しく撫でている。
うっ、羨ましくなんてないぞ。
「勘違いその2。大月平は魔獣が大量にいる場所だから、素材とか目当ての冒険者達が結構狩場にしてるの。ただ、この場所は周辺で物資の補給が出来ないから、事前に結構準備をしているの」
「……簡単には人里に帰らないから連中がほとんどだから、彼らに頼んで人里に連れていってもらうのは無理だと」
「そうだよ~」
他人を当てにするのは無理っぽいな。
頼んで臨時メンバーとして編入してもらうのも手だけど、狩場まできて連携の取れていないメンバーを入れたくないだろうね。
僕だったら絶対嫌だよ。
狩りは命のやり取り。
不確定要素で足元をすくわれて死にたくはない。
「勘違いその3。多分、ケイ君はベリーハードモードでプレイしているよね?」
「……そういえば、そんなことがあったような」
「だよね~」
「どうしてわかったの」
「理由いくつかあるんだけど。そもそもケイ君のレベルで大月平に来ること自体が無理なの。レベルが足りないとかじゃなくて、補給物資を事前に準備するだけの資金力という意味でね」
「旅で消費する食糧とか回復薬とかの購入資金かぁ」
「そういうことだよ~ HPとかMPはレベルが上がったときに回復するからいいやと思ってるかもしれないけど、それはできないの。日ノ本オンラインは宿屋に泊まって初めてレベルが上がるシステムだから、街の外に出ている途中で強くなることはないよ」
「僕みたいなレベルの人が大月平に来るはずもないし、仮に来ても狩りが成功する可能性が低いんだね」
川縁で休憩することで回復できたけど、僕のケースは例外ぽい。
でもまあシオンの指摘は良いところを突いているし、話ししても混ぜ返すことになるだけなので黙っていることにしよう。
「低レベルのプレイヤーが大月平にいるケースは、多分ひとつだけ。それはベリーハードモードを選択していること。ベリーハードモードには色々縛りがあるけど、その中の一つに、人里からゲームが開始されないの。どこから始まるかは完全にランダムだから事前対策が立てられないよ」
「最悪、地下100階の迷宮にいたとか?」
「あるよ~」
「無理じゃん、それ!」
「大丈夫、大丈夫。開始時点から回復アイテムとか保有しているから、気合とかでなんとかなるよ~」
シオンもベリーハードモードで多分プレイしているのだろう。
いや多分じゃない、絶対ベリーハードのプレイヤーだ。
そうじゃなきゃ、僕の異常に気付く筈がない。
お気楽そうな子だけど、案外冷静に視ているのかもな。
「最後の勘違い。そもそもの話しになるけど、日ノ本オンラインで死亡した場合は人里から再スタートになるシステムなの。だけど、ベリーハードモードはフィールドスタートしているから――」
「まっ、待って。凄い嫌な予感するんだけど」
「予想通りだよ。ケイ君は自力で移動しなければ絶対に人里へたどり着けないの」
運営のくそったれがぁぁぁぁぁ!
自分の選択した結果がこの事態を招いた気がするけど、きっと気のせい。
全部運営が全部悪いか、マルドゥク様の手続き不足が原因に決まっている。
そうだ、僕は絶対に悪くない!!
「……大丈夫だよ」
絶望のあまりに怒り狂った僕の姿に気後れしたのか、シオンの言葉にいつもの調子がない。
「シオンの目的は達したから、これから砺波の郷に帰るの。良かったらケイ君も一緒にこない?」
「いっ、いいの?」
「遠慮なんてしなくていいよ。ケイ君はシオンを助けようとしてくれから、そのお礼だよ」
「――僕はグリズリーと一緒に吹き飛ばされて気絶していただけ。シオンが俺をするようなことは何もしていないよ。ぼ、ぼくは本当になにも役に立っていないんだ。君が恩義に感じる必要なんてないよ」
自分で告白していて情けなくて泣きそうになる。
「そんなことはないの!」
「えっ」
「自分より強い魔物相手に戦いを挑むのは本当に勇気がいるんだよ。でもケイ君はそれをしてくれた! それだけでシオンは嬉しかったの」
「でもでもぼくはほんとうにやくにたってない」
「――もう泣かないの」
さっきも泣いたはずなのに、僕はまたシオンの前で泣いていた。
彼女は僕の心の内にはいってくるのが本当にうまいよ。
ずるいくらいに。
「……よろしくお願います」
深々と頭を下げる僕を、シオンは「いいの、いいの~」といって抱き上げた。抱き上げられるのも撫でられるのも気持ちがよいけど、僕は徐々にシオンに逆らえなくなっている気がする。
そんな僕達を兎と鴉と狼は不承不承な表情をしていたが、シオンからそれぞれ撫でられたことで大人しくなった。
だよね~
あれには逆らえないよね~




