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猫とシオンと日没する国の果ての果て  作者: 大本営
第一章 猫とシオンと日ノ本オンライン
10/26

第10話

 目を覚ますと僕は藁で編みこまれた籠の中にいた。

 青い空と森の木々がみえるので、どうやら生きているみたいだ。もうすこし状況を把握したいけど、体に巻き付けられた布団が邪魔して身動きが取れない。うーん、うーん。なんども体を捻らせるけど結果は同じ。あとわかったのは巻きつけられた布団が、天上界のそれとは比べものにならないほど粗末な代物ということ。

 その布団からは日向の匂いがする。

 粗末な代物かもしれないけど、用意してくれた人の心遣いがわかる。


 どうやら僕は安静にさせられていたらしい。


 あのあと、どうなったのだろう?

 記憶が混濁して思い出せない。たしか僕はグリズリー達と一人で戦っていた少女を援護しようとして――強烈な爆発音を聞いたところまでは思い出せるけど、そこから先はさっぱりだ。


『やっと起きたウサ』

『某、シオンに連絡してくるオオカミ』

『そうするカラス』

『水浴びをしているシオンをのぞき見なんてするなウサ』

『某、兎のような振る舞いはしないオオカミ』

『それならいいウサ』

『猫の分際でシオンを助けに行くなど、中々見どころがある猫でカラス』

『はっ、グリズリーと一緒にのされたのじゃ。世話ないウサ』

『いやはや、真っ先に逃げた兎に言われたくはないカラス』

『……主人の嫁となる方の身を、気合一つで守ろうとした根性だけは評価してやるウサ』

『勝手に嫁にするなカラス。シオンはわたしの主人が嫁ぎ先を世話するカラス』


 周囲がやたら騒がしい。

 籠の周りにいたのは兎と鴉に狼。

 誰が誰だったのかは語尾から察してあげよう。

 所詮は獣、あの程度が限界なのさ。


 ツッコミどころ満点の彼らの会話を大人の余裕でスルーしていると、狼が少女をつれてきた。

 おそらく彼女がシオンなのだろう。

 僕を籠から抱き上げてくれた女性からは汗の匂いがしないし、どこか体がひんやりしていた。動物たちの会話で聞こえていたけど、水浴び云々は本当のようだ。

 禊でもしていたんだろうか?

 まあ、細かいことは気にしないことにしよう。


 持ち上げられたことで、彼女の顔を間近でみることができた。

 大人になる前の幼さがぎりぎり消えていない顔立ちは、人ではなくて妖精みたいだ――ケット・シーの僕がいうのも妙だけど、そうとしか表現しようがない。銀糸で編み上げたような艶やかで光沢のある長い髪と白い肌も、その印象を強めるのかも。

 もう一つ印象的だったのは、彼女の手がゴツゴツしていないこと。あれほどの動きをしていたにしては綺麗すぎる。ボンクラ貴族の箱入り娘の手みたいだ。こんな小さな手で剣と盾を振っていたなんて想像できない。


 けど、僕はシオンが恐るべき戦士なのを知っている。


 戦闘中はちょっとしかみていなかったけど、改めてみると体自体が小さくて、そして線も細かった。身長140センチ程度という体型は戦士として異例だと思う。背丈だけならドワーフも似たようなものだけど、彼らは体の線が太いのに対し、シオンは小柄で線が細い。どちらかといえばホビットに近い体型だろう。小柄で機敏んで手先が器用なホビットは、悪戯好き――いや好奇心の旺盛さから生来の盗賊といえる。

 シオンの性格や知識、あと信仰心は分からないけど、身体的特徴だけみれば魔術師か僧侶か盗賊に向いている。

 けど彼女はスピード重視の戦士なのだ。


 イメージと実像がかみ合わない。

 

 そういえば小柄で線が細いこともあり、シオンの女性を象徴する各パーツは相応のサイズだけれど、これは年齢が解決するかもしれない。


 大丈夫、未来はきっと明るいよ……多分。


 セクハラとか言わないで。

 猫である僕には気にしていないけど神様達は別なの。そして僕は聞かれたら事実を答えなければいけないのさ。僕の立場は置いておくとして、見た目と実力にギャップがある華奢で可愛い少女、それがシオンみたいだ。


「――ごめんね。グリズリーと一緒に吹き飛ばしてしまって」

 シオンは土下座でもするかの勢いで頭を下げた。予想していなかったシオンの態度に、僕はおろか動物達もオロオロしてしまう。

「えっ、僕のほうが邪魔してしまったのに」

「それでも気付かなったシオンが悪いよ。ほんと、ごめんね」

「うう、なんの役にも立ってないので気恥ずかしい。戦闘の邪魔したっぽいし……穴があったら入りたい」

『シオンがあやまることないウサ』

『こいつは邪魔しただけカラス』

『某もそう思うでオオカミ』

「ほんと大したことしていないから。おねがいだから頭をあげて」

「そんなことない。グリズリーの群れと戦っているときに、一人で救援にくるなんて勇気がなければできないよ」


 動物たちから酷い言われようだけど事実なので仕方がないか――あれ? シオンは動物たちの声に反応していないけど、僕の声には反応しているような。

 これはマズいかも。

 いまさらだけど、適当に『にゃあ』と鳴いて誤魔化しておこう。


「いまさら猫のふりをしてダメだよ。第一、キャラクター名が表示されているからバレバレ」

「……そうなの?」

「最初は質の悪い魔物か鬼とおもったけど、違うみたいだね。そういうのなら、この子たちがなつくはずがないの」

 動物たちに異論がありそうだけど、シオンから体を撫でられると大人しくなる。言葉は伝わらないけど、彼らの間には信頼関係があるようだ。

 ちょっとうらやましい。

 ちょっとだけだよ。

「日ノ本オンラインの職業や種族には猫なんてなかったはずだけど――まあ、いいや」

「いいんかい!」

「いいんだよ~。きみが悪い子じゃなければシオンはそれでいいの。それより名前はを教えてくれないかな。ちなみにわたしの名前はシオン、職業は武者だよ」


 うっ、『人の名前を聞くときは先に自分の名前を――』のフレーズが使えなくなってしまった。この子、距離の詰めかたが上手い。ノラリクラリをかわそうとしても無駄みたいなので、ある程度情報開示したほうがいいか。


「僕のなまえはケイ。種族はケット・シー」

「ケット・シー?」

「そう、ケット・シー。日ノ本からは遠く遠く離れた国からきた猫の妖精。日ノ本が『日出ずる国』なら、僕の住んでいた国は『日没する国の果ての果て』といったところかな」

「――よくわからないけど、変わったロールプレイスタイルだね」

「うそじゃないよ。ほんとの話しだよ」

「だいじょうぶ、わかってる。わかっているよ♡」

「絶対わかってくれていないよね」

「ケイ君も男の子だね~」

「むぅ~」


 なんだかんだでシオンは僕を話しを聞いてくれたけど、あれは絶対信じていないな。だって、生暖かい目で僕を見るんだよ!

 

 あとで分かったけどシオンは僕のことを、『俺は神の御使いだ』とか『異世界の魔王の御前であるぞ』と自己主張する連中《中二病》と誤解したらしい。激しく不本意だけど、『日ノ本からは遠く遠く離れた国からきた猫の妖精』などと自己紹介されれば、無理もない反応だったかもしれない。


 引かれないだけマシだったと思うことにする。


 この主張をする連中は、大抵別ゲームからのコンバート組だろうだ。移動前のゲームで世界を救って(ゲームクリア)きた実績があるので、ある意味で間違いではないらしい。別の世界からきたという点において、僕は彼らと似た存在なのだ。 


 シオンが僕の話しを信じなかったのは無理もないかも?


 甚だ不本意だけど、そう思うことにしているよ。

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