第74話 鬼が淵1
山尾村の洞戸地区には虫川が流れている。
釣り人が下流から上流へと釣り糸を垂れながら、川に沿って釣り歩いていく。
そして、淵に出る。
釣り人はそこで水の不自然な揺らめきを見る。
彼は魚の影だと思い、大物がいると確信する。
水中の岩影を狙って餌を流すが反応はない。
彼は、さらに奥の水中の岩を狙うが、姿勢を崩し、足を滑らせ淵の中に落ちてしまう。
彼は泳ぎ浅瀬に向かおうとする。
彼の右足を何かが掴む。
しかし、何も見えない。
何かが掴んでいるのは間違いないのだ。
彼は右足を掴んでいるものを左足で蹴る。
見えないが手ごたえがある。
それは掴む力を強め、右足を握りつぶす。
釣り人を淵のそこへと引きずり込む。
淵は赤く染まる。
その淵は鬼が淵と呼ばれている。
昔、旅の僧侶が鬼を淵の中に封じたと村では言われている。
釣り人の妻、高木良子は夫が帰ってこないため、警察に捜索届を出す。
数日後、虫川沿いの道路で夫の車が駐車されているのが発見される。
警察と消防団は虫川に沿って捜索をするが発見されない。
良子は発見されることを期待して待っていたが、警察と消防団は疲れた様子で帰ってくる。
消防団員がうわさ話をする
「鬼が淵の鬼に食われてしまったんじゃないか。」
「おかしなこと言うな。」
他の団員がたしなめる。
そのうわさ話が良子の耳に届く
「鬼が淵の鬼ってなんですか。」
「奥さん、気にしないでください、ただのうわさ話ですから。」
「どんな話ですか。」
「昔話ですから。」
「教えてください。」
消防団員は良子の勢いに押されて話すことにする
「昔、旅の僧侶が鬼が淵に鬼を封じたという話があるんです。」
「それだけですか。」
「ええ、それだけです、こんな話は忘れてください。」
「そうですか。」
良子には話の続きがあるように思える。




