1-30 復讐の毒牙
時は遡ること数か月前の出来事だった…
空が燃え尽きる寸前の黄昏の時、人気のない廃工場に二人の男女が対峙していた。
「はぁ…はぁ…何故だ…こんな小娘如きに、この俺が負けるだと…」
コンクリートの地面に両膝を突きながら、紫苑が荒い呼吸を繰り返し、独り言のように呟く。
その目の前には、塵一つ立てずに佇む水希とその背後に顕現している黄金の威光を放つ者…聖天六神のヒュペリオンの姿があった。
紫苑の傍らでは、契約悪魔だったヒュドラが、幾つもの首を無惨に斬り落とされ、どす黒い霧となって霧散しかけていた。
低級悪魔の分際で、聖天六神の頂点に挑んだ報いは、あまりにも残酷な拒絶を表していた。
紫苑の指先が絶望に震えるほど、勝ち誇る隙すら与えられない完封だった。
水希は構えることすらなく、ただ静かに憐れみすら含んだ瞳で紫苑を見下ろしていた。
「これで終わりです。あなたの力では、私とヒュペリオンの前では通用しません」
水希の語りかける声が、その場の静寂を切り裂く。
「残念だったね。君たち程度の力では、僕や流華を倒すことはできないってことさ。相手を見てから戦いを挑むべきだったね」
背後にいるヒュペリオンも余裕の表情を見せながら目の前の紫苑に語り掛けるが、その言葉は直接紫苑の存在を拒絶するかのように、彼の内心に響くものだった。
紫苑は二人の力の前に恐怖で顔を歪ませながらも、同時に激しい屈辱と怒りをその内側に宿し始めた。
「くそっ…なんだその目は…貴様のような小娘如きが、この俺を見下したように言うな!!」
まるで「掃除すべきゴミ」を見るかのような視線に激しい屈辱を覚えた紫苑が、水希を睨みつけながら怒りに震えた声を上げる。
「私があなたを蔑んでいるように見えているのでしたらごめんなさい…悪魔に憑りつかれた人間とその元凶である悪魔と戦い、倒すことが私とヒュペリオンの使命です。でも、安心してください。あなたの命までは取ったりしません」
紫苑の傍らで消えゆくヒュドラの残骸を見つめながら、目の前の紫苑に対して水希が情けをかけるように語り掛ける。
「流華は相変わらず優しいね…悪魔使いなんて悪魔と同じみたいなものなんだから、この場で倒しちゃったらいいんじゃない?」
敵に情けをかける姿を見て、ヒュペリオンが不服そうに水希に語り掛ける。
「私は争いごとはあまり好きじゃありません。それに彼だって、ただ悪魔に利用されていただけかもしれないじゃないですか。もう決着はついたのだから、これ以上の戦いに意味はないと思います」
「流華がそう言うんだったら、僕もそれに従うまでだけどね…まぁ、悪魔が消えたら、そこの男の記憶も消えるから問題は無いと思うけど」
水希の言葉に素直に従うヒュペリオンは、まるで子供のように茶けた振る舞いを見せる。
二人のやり取りを目の前に紫苑は何も言い返せず、ただガチガチと歯を鳴らし、目の前の絶対的な存在に圧倒されながら、暗い地面に視線を落とすことしかできなかった。
「分かったのなら行きましょうヒュペリオン。これ以上抗う力のない者の相手をする必要はありません。あなたもこれからは悪魔に憑りつかれないように心を改めてくださいね」
水希が紫苑に去り際の一言をかけると、ヒュペリオンと共に静かにその場を去って行った。
絶対的な強者が弱者に与える慈悲…それは紫苑にとって死よりも残酷な屈辱を与えたのだった。
水希とヒュペリオンが去った後、夕焼けは深い黒へと沈み、夜の帳が訪れる。
二人の気配が消えた後、廃工場の静寂の中で一人残された紫苑の荒い息だけが響き渡る。
「ふ…ふざけるな…!最後に止めすら刺すこともなく見逃しただと…あんな小娘如きに情けをかけられたというのか…」
紫苑はコンクリートに爪を立てる。
怒りに任せて力を込めると剥がれた爪から血が滲み出すが、その痛みすら胸の奥で煮えくり返る怒りには及ばなかった。
本来であれば契約した悪魔が消滅した瞬間に紫苑も意識を失い、その記憶を失うはずであったが、内側から湧き出てくる強い怒りと憎悪の感情が、彼の意識を辛うじて保っていた。
「殺せよ…!憐れむくらいなら、ここで俺を殺せよ!あいつらは…俺を敵としてすら認めていなかったのか…!!」
一人その場で怒りと屈辱に震えながら、感情を爆発させる如く声を上げる紫苑。
その瞬間、その場の大気が凍りついたように重く沈み込む。
紫苑の激しい怒りと水希流華への復讐心…そのどす黒く純粋な負の感情に呼応するように、空間が歪み、漆黒の亀裂が目の前に走る。
亀裂の中から溢れ出てきたのは、先ほど倒されたヒュドラとは比較にならないほど、濃密で吐き気を催すような魔瘴気の気配だった。
「…な、なんだこの気配は…!?」
紫苑が顔を上げると、そこに現れたのは禍々しい毒を象徴とした体色に妖艶な女性の姿をした悪魔の存在だった。
「ククク…我が眷属が倒された痕跡を追って様子を見に来たと思えば、激しい怒りと憎しみの狂気に満ちた良き叫びが響いてきた。なるほど、これほどまでに純粋な怒りと憎しみの瘴気…貴様の中の神滅が覚醒したことによるものだったか」
悪魔は紫苑を見下ろしながら、口角を上げてニヤリと微笑む。
「…お前も…ヒュドラと同じ悪魔なのか…!?」
「あぁ、わらわの名はアスタロト。毒竜の王にして六天魔王の名を持つ悪魔ぞ。貴様が契約していた悪魔ヒュドラも、わらわが毒竜の眷属の一体であったが…神使いの人間如きに敗北するとは…所詮は眷属の恥さらしだったか」
紫苑に名乗ったアスタロトは、既に消滅している同族のヒュドラに対して、憐みと嘆きの言葉を投げ捨てるように言う。
「つまり…その眷属を無碍にした俺に…一族の長が直接制裁に現れたということか…?」
同族の仇討に現れたものと思い、震える声でアスタロトに問い返す紫苑。
「アハハハハ、確かにそれも面白いかもな…だが、同族の報いとしてお前ごときの命を奪ったところで、わらわに何のメリットもない。それよりも今の貴様の内に宿る神滅の力、そちらの方が実に興味深い代物よ。ここで腐らすには実に惜しい…」
紫苑の問いかけに面白おかしく嘲笑うアスタロトだったが、それ以上に紫苑の内側から溢れ出る瘴気の力に興味を示す。
「力を…もっと…力を…」
目の前のアスタロトが自分に興味を示していることを察した紫苑は、何かを懇願するようにその場でブツブツと呟くように言う。
「ほぉ…貴様はわらわに何を求める?」
返ってくる答えは既に分かりきっているが、アスタロトは紫苑の望むものを改めて問いかける。
「力を!!あいつらを…あの光の存在を地獄の底に引きずり落とす力を…俺に与えてくれ!!」
紫苑の声に呼応するように体から強い瘴気が溢れだす。
自分を哀れんだ水希とヒュペリオンへの激しい憎悪を燃やしながら、目の前のアスタロトに懇願する紫苑。
「ふふ、よかろう。貴様の願い、わらわが叶えてやろう。だが、わらわとの契約の代償として、貴様の命、貴様の憎悪を糧にわらわの毒を受け入れるのだ。毒は貴様の体を蝕み、毒によって蝕まれた貴様の体は、もはや人間と呼べる理から外れることになるが、その見返りとして貴様に絶大的な力を授けることを保証しよう。貴様にその覚悟があるか?」
「あぁ…俺を見下したあいつらへの復讐が叶うというのなら、この命、いま一度悪魔にでも何でも捧げてやるさ!!」
紫苑の思いは変わることなく、ただただ復讐の炎を燃やすように決意をアスタロトに向けるのだった。
「ならばよい、契約成立だ。これより貴様にわらわの力を授ける儀式を行う」
アスタロトが右手の人差し指をゆっくりと紫苑の胸元に向けると、その指を容赦なく紫苑の胸の中心に突き刺す。
「がはっ!!」
いきなりの出来事に思わず苦痛の声を上げる紫苑。
「この程度で弱音を吐くつもりか人間よ?」
苦痛の表情を見せる紫苑に追い打ちをかけるように、アスタロトが突き刺した指から紫苑の体内に自らと同等の毒の力を注入する。
「っ…が…あああああッ!!」
アスタロトの毒が流れ込んできた瞬間、体中を蝕むような激痛が走る。
普通の人間であれば、ショック死しても可笑しくないレベルの激痛だった。
「ぐっ…ああぁ…ククク…ぎゃあははははは!!」
しかし、紫苑はその痛みですら憎悪の感情で凌駕し、苦痛の悲鳴ではなく、狂ったような笑い声をあげながら、アスタロトの力をその身に受け入れることに成功した。
「儀式は成功だ。これで貴様もわらわが眷属の一人となった。ところで…まだ貴様の名を聞いていなかったな人間よ」
儀式を見事に耐え抜いた紫苑を見たアスタロトは、不敵な笑みを浮かべながら紫苑に名を問いかける。
「紫苑だ。力が…これまでと見違えた力が抑えきれずに溢れ出てくる…アスタロト、この俺に今一度のチャンスを与えてくれたこと、礼を言わせてもらう」
力を受け入れた紫苑がゆっくりと立ち上がり、アスタロトに視線を合わせるよう顔を上げる。
「この力さえあれば…見ていろ水希流華、次に貴様とあった時こそ…貴様への復讐をその身に刻み込んでやろう」
月明かりの下、新たに六天魔王のアスタロトと契約を結んだ紫苑は、その体が毒によって支配されていることを象徴するように青白く変色し、アスタロトと同じ金色の瞳を片目に宿した姿へと豹変し、人間という存在の理を拒絶する者へと成り代わっていた。
紫苑が自身の回想を語り終える。
「貴様に敗北したあの時の怒りや憎しみが、あの時の屈辱的な記憶を失うことを拒むよう俺の中の神滅と呼応し、新たな悪魔使いとしての素質に目覚めることができたのだ」
過去に水希とヒュペリオンに与えられた屈辱を思い出した紫苑は、再びその憎悪を噛みしめるような表情で、勇飛たちを睨みつける。
紫苑の過去でも明かされた様に、稀に悪魔使いだった者の強い憎悪や恨みが体内の神滅と共鳴することで、より高度な神滅の力が生み出され、新たな悪魔使いとしての素質を持って生まれ変わることがあるのだった。
「あの時、貴様に与えられた屈辱…それを今ここで貴様が大切にするものと一緒に葬り去ることが、貴様への復讐なんだよ」
紫苑が水希の髪を強引に掴み上げ、無理やり自分の隣に引き寄せる。
強引に髪を掴まれた水希は苦痛に顔を歪ませるが、その瞳は紫苑に対する恐怖よりも、彼が抱える底知れない闇に対する悲しみの色が浮かんでいるようだった。
「なんだその目は…この状況においてまだ貴様は俺を憐れむような目で見るのか!貴様は無意識のつもりかもしれない。だが、それが気に食わないんだよ!!」
紫苑が水希に手を下そうとする。
「やめろ…紫苑! 水希を放せっ!」
勇飛が己の肉体を蝕む劇毒の痛みに抗い、震える右手を無理やり動かす。
蛇の鱗が食い込み、骨が軋むような音が鳴り響くが、構わず力を込める。
「ほう、まだ動けるのか。貴様も往生際が悪いな」
勇飛の声に気づいた紫苑が冷ややな視線を向ける中、勇飛は残った神魔の力をヘラクレスとガブリエルの魔具に集中する。
「ヘラクレス…ガブリエル…俺に力を貸してくれ!」
勇飛が自信を縛り付ける毒蛇の抱擁の隙間から右手を突き出すと、その右拳に神魔の力を集約させる。
集約した神魔が光の粒子となり、その粒子が鋭利な光の刃を形成する。
右拳を覆うように形成された光の刃を振り下ろし、ガブリエルとヘラクレスを取り巻く毒蛇に対して光の斬撃を放つ。
放たれた斬撃が毒蛇の頭部を切断し、ガブリエルとヘラクレスの拘束を弾き飛ばした。
「…何ッ?」
勇飛が放った攻撃に不意を突かれた紫苑が驚愕する。
「よくやった勇飛!」
毒蛇の抱擁から解放されたヘラクレスが、予備で装備していた剣を使って勇飛を取り巻く毒蛇を切り刻み、拘束から解放させる。
しかし、その一撃に力を使い切ってしまったのか、ヘラクレスが剣を地面に突き立てながら、片膝を地面に着く。
「勇飛様…一体この力はどうやって…!?」
これまで神魔に力を利用したことのなかった勇飛が、突然その力に目覚めたことにガブリエルが驚く。
「はは…何事もやってみるってのはよく言ったもんだな。龍夜や亜理紗や轟たちが、お前たち神様と契約したことで、それぞれの神の力に対応した能力を得られたんだ…俺にだって何かあるだろうって咄嗟にイメージした結果がこれってわけだ」
『闘光の具現化』…ガブリエルの持つ光の力とヘラクレスの持つ闘神の力を神魔を通じて具現化した結果、光の闘気を纏った力を形成することができたのだった。
「思い付きで新しい技が目覚めたみたいだが…くっ、正直もうこれ以上は…神魔の力が残ってないか」
ふら付きながらも何とか立ち上がる勇飛だが、すでに反撃の余力は使い切り、立っているだけで限界の状況まで追い詰められていた。
ガブリエルとヘラクレスも残った力を振り絞って何とか立ち上がることしかできない様子だった。
「まさかそんな切り札を隠していたことには驚いたが、もはや限界のようだな。今すぐに楽にしてやる。さぁ、アスタロト。奴らの残り僅かな命の灯火を腐らせて塵にしてやるがいい」
「フフ…神の一族が、目の前で無様に朽ち果てていく姿は実に見ものね。わらわの毒より永遠の苦しみを刻むがよい!」
アスタロトの放つ禍々しい殺意が、勇飛たちの命を刈り取ろうとしたその瞬間…
「やめてええええええええッ!!」
鋭い叫び声とともに、水希が紫苑の体に飛びつき、勇飛への攻撃を妨げる。
「なにっ…放せこの小娘が…アスタロト、この邪魔な女を早くどけろ!!」
「…まったく仕方ないの」
紫苑の叫びに攻撃を中断したアスタロトは、紫苑に抱き着いた水希を右手で跳ねのけるように吹き飛ばした。
「きゃあああ!」
吹き飛ばされた水希が勇飛たちの目の前で倒れる。
「水希!!」
「…だ、大丈夫です。これくらい、勇飛君たちの痛みに比べたら…」
倒れた衝撃で吸い込んだ土埃を吐き出すように咳き込み、勇飛の目の前でゆっくりと立ち上がる水希。
「そんなに死に急ぎたいなら、まずはお前から消してやるよ水希流華。あの時の恨みもこれで終わりだな!!」
紫苑が再びアスタロトに命令すると、それに呼応するようにアスタロトが禍々しい毒の殺意を水希に向けて解き放った。
迫りくる毒の殺意を前に、水希が一歩も引かない強い意志を瞳に宿しながら、勇飛を庇うように目の前に立ちふさがる。
「何やってるんだ水希!?…早く逃げろ!」
「嫌です!これまで勇飛君が私を守ってきてくれたように、今度は私が勇飛君を守る番です!!」
目の前の水希に逃げるよう促す勇飛だったが、それを聞き入れようとしない水希。
彼女の背中越しに聞こえる声は、これまでにないほど覚悟を決めたものを感じた。
「ははは、滑稽だな! 無力な女が盾になったところで何ができる?このまま二人まとめて地獄に送ってやるよ」
紫苑が嘲笑い、アスタロトもまた、その結末を見届けるように冷たい笑みを浮かべる。
「…ダメだ水希…やめてくれ」
自らを盾にしようとする水希を前に悲嘆の声をあげることしかできない勇飛。
「大丈夫です勇飛君…あなたは…私が…」
悲嘆の表情を浮かべる勇飛に優しく語り掛けるように水希が囁く。
目の前に迫る禍々しい毒の殺意が放つ紫光が、水希の体に届こうとしたその刹那…
悪魔の聖域を突き破り、天から降り注いだ一筋の真光が、水希に迫りくる毒の殺意を真っ向から打ち砕いた。
光が降り注いだ衝撃派により、周囲の毒沼が吹き飛ばされ、紫苑とアスタロトすらを後退させる。
「わらわの毒を一瞬で…一体何者が?」
すさまじい光の波動により毒の殺意が打ち破られたことに驚愕するアスタロト。
「…この光…まさか!?」
紫苑が腕で顔を覆い、毒づくように言いながら光の柱へと視線を向ける。
光の柱がゆっくりと収束していく中、その中に一人の青年のような男の姿が立っていた。
艶やかな黒髪は清潔感のあるクリーンマッシュに整えられ、その隙間から覗く双眸は全てを見透かすような知性と穏やかな慈愛を湛えているようだった。
身に纏っているのは夜の闇を溶かし込んだような漆黒と深いワインレッドを基調とした気品溢れる執事服であり、その上から羽織ったコートの裾が風に吹かれるように優雅に翻っている。
「やれやれ、流華がこれほどの覚悟を決めたんだ。これ以上、天界で大人しく寝ていろって言う方が無理な話だね」
青年のような見た目の神…聖天六神の長ヒュペリオンが水希の窮地に駆け付けるように姿を現したのだった。
「ヒュペリオン…来てくれたのね」
目の前に現れたヒュペリオンの姿を見て、安堵した水希が目に涙を浮かべる。
「ここまでよく頑張ったね。流華の大切なものを守りたいというその覚悟が、僕の力を呼び戻してくれたんだ」
ヒュペリオンは振り返ることなく水希に優しく語り掛けながら軽く指先を弾くと、悪魔の聖域により生み出された瘴気の壁が、まるでガラスが割れるように一瞬にして砕け散った。
瘴気の空間が晴れ、元の湖と夜空の景色が姿を現す。
「流華、今の君なら大切なものを守る力があるはずだよ」
ヒュペリオンが水希に促すと水希の持つ契約の魔具が、再び光を取り戻し共鳴する。
「…ありがとうヒュペリオン。今度は私が…大切なものを守る番だから!!」
契約の魔具から放たれる暖かく優しい光を包み込むように抱きしめる水希。
その瞬間、翡翠色に輝く優しい光が水希から放たれ、後ろに居座る勇飛たちを包み込む。
「何だこの優しい光は…傷が治っていく」
光に包まれた勇飛たちの体から、先ほどまで受けてきた傷が癒されていった。
「勇飛君たちはそこで休んでいてください。あとは私とヒュペリオンに任せてください」
ヒュペリオンとの契約の力が戻ったことにより、完全に覚醒した水希は、これまでに勇飛たちが見たことのない強者の風格を現していた。
「さぁ、第二ラウンドと行こうか。僕の大切なパートナーを泣かせ傷つけた罪。懺悔の準備はできているんだろうね?」
静かな怒りを込めた声と共にヒュペリオンは腰に帯びていた杖のような武器をゆっくりと引き抜くと、その切っ先を紫苑とアスタロトへと向けた。
絶望に支配されていた戦いに、今、反撃の狼煙と希望の光が切って落とされたのだった。




