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第七話「こんな素敵な方がお義姉様だなんて、私は幸せ者です」

 翌朝の朝食の席にもアッサムはいなかった。きっと婚約者を迎えに行っているのだろう。コスモの心は重く濁っていた。


 日中、コスモにはコブルスルツ国の歴史に関する書物が与えられた。しっかりと勉強しておかないといけないのに頭に入ってこないまま文字だけが流れていった。


 午後になった。コスモは気疲れですっかりくたびれてしまい、勉強をやめて借りた本を読んでいた。コンコン、と部屋のドアがノックされた。いよいよアッサムの婚約者が到着するという報告だろうか。コスモは「はい」と返事をした。


「失礼致します」


 聞き慣れない声がして、入ってきたのは豪華なピンク色のドレスを纏った少女だった。


「初めまして、コスモ様。私は本日コブルスルツ城に到着いたしましたアッサムの婚約者のミーティア・マクラードと申します。どうぞ宜しくお願いいたします」


 その少女は優雅にお辞儀をした。コスモと同じく茶色いのにコスモよりもサラサラとしていて綺麗な髪の毛。コスモとは対照的な青く透き通った瞳。白い肌を少し赤く染めたぷっくりとした頬。どこからどう見ても可愛らしい美少女だった。


 コスモは予想外に突然やってきたミーティアと、そのあまりの可愛らしさに言葉を失って棒立ちになっていた。ミーティアが何も言わないコスモを不安げな瞳で見上げたのを見て、コスモは慌てて口を開いた。


「わざわざ挨拶に出向いてくれてありがとう。私はケンリウム国の姫…ラッサムの婚約者のコスモ・モラガウスです。宜しくお願いします」


 コスモが上ずった声でそう言うと、ミーティアはその顔を柔らかく綻ばせた。


「コスモ様。私は初めての王宮で至らないことも多々あると思いますが婚約者同士、仲良くしていただけると嬉しいです」


「えぇ、そうね」


 ミーティアを見ていると息苦しい。ミーティアは瑞々しく輝いて見えた。


「不安が多かったのですが、コスモ様が優しそうなお方で安心いたしました。こんな素敵な方がお義姉様だなんて、私は幸せ者です」


「お義姉…様……」


 コスモは頭がクラクラしてきた。


「あ、すみません、挨拶に伺っただけでしたのに、こんなに長く。それではこれからよろしくお願いいたします。また夜に」


 ミーティアはまた優雅に礼をしてコスモの部屋を出ていった。どんな子だろう、と思っていたアッサムの婚約者。とても可愛かった。アッサムはああいう子がタイプなのだろうか。それともラッサムのように何か理由があって婚約させられたのだろうか。


***


 夕食はコスモがコブルスルツ城に来た時と同様に豪華なものだった。


「いやぁ、家族が増えて私も嬉しいよ」


 そう言って笑うセントラ国王はとても機嫌が良さそうだった。この前までコスモに気を使っていた様子のアッサムも嬉しそうに笑っている。コスモは可愛らしいミーティアとアッサムが並んで座っているところを直視できなくて終始俯き気味だった。しかし、時折目をやると二人はとても仲が良さそうで、その度に剣を胸に突き立てられたかのような痛みを感じた。ラッサムはというと普段通り口数少なくただ食べているだけだった。仲のいい二人と対照的すぎて、それにもコスモは惨めさを感じた。


 食事が終わるといつものように紅茶が出てきたが、ラッサムはそれを断って立ち上がった。


「なんだラッサム。今日くらい皆で紅茶を飲んでもいいじゃないか」


「いえ、今日は私も職務が忙しくコスモ姫との時間を取れておりませんので、申し訳ございませんがこれにて退席させていただきます」


 一刻も早くこの場から立ち去りたかったコスモは助かった、と思い、同じく立ち上がって礼をした。そんな二人の様子を見たミーティアは「まぁ」と小さく言って頬を赤くしてコスモを見ていた。仲がいい、と勘違いされている気がするが、今はそんなことを気にしている余裕はない。


「そうか、なら仕方がないな」


 国王は残念そうな顔をしたが、普段自分の意志を強く主張しないラッサムがそこまで言うことに少し嬉しさも感じたようで、笑顔で見送ってくれた。


 今日はコスモの部屋で紅茶をいただくことになった。ロロも下がって二人きりになると、コスモは小さく溜息をついた。辛かった。これが毎日続くとなると胃が痛くなるような思いだ。


 それにしても、何故ラッサムは皆で食後の紅茶をいただくことを断ったのだろうか。ラッサムにもあそこにいたくない理由があったのだろうか。


「明日は一日休みをもらえそうだ」


「そうなの。よかったわね」


 コスモはまだ半分以上考え事をしながらそう答えた。そういえばここに来てからラッサムが休みをもらうなんて初めてのことだ。


「何かしたいことや行きたい場所はあるか?」


「え?」


 ラッサムにそう問いかけられてコスモはようやく気がついた。ラッサムはコスモを誘っているのだ。婚約者なのだから休日に一緒に過ごすことは当たり前、だろうか。


「そうね……」


 時間ができたら本でも読んで過ごそうかと思っていたが、せっかくの休みに部屋に篭もるというのも面白くはないだろう。コスモは頭を捻らせた。


「ラッサムは休みの日は何をして過ごすの?」


「そうだな……本を読んでいることが多いかな」


 アイディアが得られれば、と思って聞いたのに私と同じじゃない!コスモは頭の中で突っ込んだ。

 コブルスルツ国の城下町が見てみたいような気もするけれど、急に行ったら街は混乱するだろうし、警備の兵士も大変だろう。うーん、とコスモは唸った。


「観劇には興味があるか?」


「観劇?えぇ、ケンリウム国にはそういった劇場はないのだけれど、一度だけ城で催し物があってその時に観たわ。とても美しくて素敵だった……」


 コスモはその様子を思い出すと今でもときめきを覚える。間近で奏でられる生の演奏に合わせて演者達が綺麗な歌声を聴かせてくれる。そして、昔の神話を情熱的に演じていた。コスモはその日、あまりに興奮して眠れなくなったくらい素敵な思い出だ。


「コブルスルツには専用の劇場がある。前々から誘われてはいたのだが、行ってみるか?」


「え、本当に!?いいの?」


 コスモは顔を輝かせた。


「あぁ、それでは明日観に行くと言っておこう。夜から始まるから、それまでは部屋で本でも読んでいればいいだろう」


「ありがとう、ラッサム!」


 コスモは身を乗り出してお礼を言った。ずっとまたあのような劇が観たいと思っていた。それが叶えられるなんて!

 ミーティアが来てこれでもかというくらい心にダメージを負っていたのに、それが嘘みたいに心が踊っていた。コブルスルツ国に来て、ラッサムの婚約者になってよかったわ!そう思うくらいに。


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