空が敵になった日
戦場で一番恐ろしいものは、銃弾ではない。
砲弾でもない。
戦車でもない。
少なくとも――今、この国では違った。
空だった。
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首都から東へ百二十キロ。
かつて麦畑だった平原には、焼け焦げた装甲車と民間車両が点々と転がっていた。
道路には巨大なクレーター。
送電線は切れ、街灯は倒れ、遠くの村から黒煙が何本も立ち上っている。
その上空を、小さな黒い点が飛んでいた。
羽音すら聞こえないほど高い。
だが、それを見た九条ホオズキは足を止めた。
「伏せて」
小さな声だった。
三人が即座に従った。
御影サヤ。
篠宮レイナ。
神代レンジ。
ヤタガラス作戦部の中でも、迅速な移動と潜入任務に慣れた人間だけを選んだ救出班。
四人は崩壊した農家の石壁へ身体を滑り込ませた。
ホオズキは双眼鏡をわずかに持ち上げる。
空に浮かんでいた黒点が、ゆっくり旋回している。
レンジが囁く。
「偵察型?」
「たぶん」
レイナが双眼鏡を覗いた。
「高度高いですね」
サヤは空を見ず、周囲を見ていた。
「見つかった?」
「まだ分からない」
ホオズキは答えた。
そして数秒後。
遥か南。
ドン。
地平線付近に土煙が上がった。
続けてもう一発。
ドン。
レンジが顔をしかめる。
「観測してますね」
ホオズキは双眼鏡を下ろした。
「この地域そのものを」
彼女は時計を見る。
救出対象との合流まで、残り四十分。
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三日前。
内戦状態に陥っていた共和国政府は、突如として日本との外交関係を断絶した。
大使館員の大部分は直前に退避していた。
しかし一人だけ、取り残された日本人がいた。
戦場ジャーナリスト。
名前は片桐修平。
四十七歳。
二十年以上、世界各地の紛争地帯を取材してきた男だった。
今回も政府軍と反政府武装勢力の戦闘を追っていた。
だが前線が想定外の速度で崩壊した。
空港は閉鎖。
道路は封鎖。
国境付近では双方の部隊が検問所を設置。
そして問題はもう一つ。
日本政府が公然と軍や警察を送り込める状況ではなくなっていた。
その日の深夜。
ヤタガラス本社に一本の暗号化通信が入った。
『報酬は払う』
画面の向こうで片桐は言った。
痩せた顔。
伸びた髭。
背後では爆発音がしていた。
『二千万。それで足りなきゃ三千万』
一乗寺アカネが少し眉を上げた。
「個人の救出依頼としては破格ですね」
片桐は苦笑した。
『二十年間稼いだ金だ。死んだら使えない』
ホオズキは質問した。
「現在地は?」
片桐が地図を送った。
古い工業都市。
前線から約十五キロ。
ホオズキの表情が変わる。
「ここはもう包囲されている」
『知ってる』
「どうして逃げなかった」
『取材してた』
神代レンジが後ろで呟いた。
「ジャーナリストってのは頭のネジ飛んでんのか」
通信越しに片桐が笑った。
『よく言われる』
ホオズキは黙っていた。
数秒。
「報酬は後でいい」
『え?』
「生きて帰ってから払ってください」
ホオズキは立ち上がった。
「ヤタガラスが迎えに行く」
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救出作戦は単純だった。
潜入。
接触。
脱出。
ただし問題がある。
戦場そのものが、以前とは変わっていた。
道路を走れば発見される。
無線を使えば位置を探られる。
建物に隠れても赤外線センサーに見つかる。
そして何より。
空には無数の目がある。
ホオズキたちは森沿いを移動した。
走らない。
密集しない。
長時間同じ場所に留まらない。
十五分後。
サヤが拳を上げた。
全員停止。
前方の道路。
一台のトラックが横転している。
その横に三人の兵士がいた。
死体だった。
レンジが目を細めた。
「銃撃じゃない」
車体上部が大きく抉れている。
レイナが静かに言った。
「ドローン」
ホオズキは周囲を確認した。
「急ぐ」
そこから先。
戦場の様相はさらに異様になっていった。
放棄された戦車。
破壊された自走砲。
道路脇に転がった数十台の車両。
だが、歩兵の姿はほとんどない。
まるで巨大な墓地だった。
レンジが呟いた。
「昔なら、こういう場所には狙撃兵を警戒したもんだけどな」
「今でも警戒して」
「はい、代表」
突然。
レイナが止まった。
「音」
全員が耳を澄ます。
ブーン。
小さい。
蚊のような音。
だが急速に大きくなっている。
ブウウウウン。
サヤが空を見る。
「来る!」
黒い機体が木々の隙間から飛び込んできた。
低空。
速い。
レンジが叫ぶ。
「FPV!」
「散開!」
四人が左右へ飛ぶ。
小型ドローンは地面すれすれを突っ切った。
ホオズキの数メートル横を通過。
そのまま木へ衝突した。
閃光。
爆発。
土と枝が吹き飛ぶ。
レンジが転がりながら叫んだ。
「完全に見つかってるぞ!」
ホオズキが立ち上がる。
「移動!」
そこからだった。
空が敵になったのは。
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一機。
二機。
三機。
どこから飛んでくるのか分からない。
木の間。
道路の向こう。
廃屋の窓。
まるで意思を持った蜂の群れだった。
サヤが走りながら叫ぶ。
「右!」
レイナが壁の向こうへ飛び込む。
直後。
ドローンが角を曲がって追尾してきた。
「うそでしょ!」
レンジが近くの瓦礫を投げつける。
機体がわずかに進路を変える。
レイナが横へ飛ぶ。
爆発。
「レイナ!」
「生きてます!」
粉塵の中から声。
レンジが笑った。
「元気そうだ!」
「笑ってる場合!?」
ホオズキだけは走りながら冷静に周囲を見ていた。
ドローン。
単体ではない。
こちらの逃走方向を読んでいる。
「誘導されてる」
サヤが答える。
「キルゾーンへ?」
「たぶん」
ホオズキが進路を変えた。
「市街地へ入る」
レンジが驚く。
「開けた場所よりマシってことですか」
「違う」
ホオズキが言う。
「相手に選ばせない」
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片桐修平は地下室にいた。
外では砲撃が続いている。
カメラ。
ノートPC。
衛星通信機。
大量の記録媒体。
荷物のほとんどが取材機材だった。
片桐はカメラを抱えた。
「これだけは持っていく」
ホオズキは即答した。
「駄目です」
「これは一年分の記録だ」
「重い」
「俺の仕事だ」
「死んだら記事にできません」
片桐は黙る。
ホオズキは小さなSSDを指差した。
「データだけ」
片桐は苦い顔をした。
そしてカメラを置いた。
「……二十五年使ってきた」
レンジがその巨大なカメラを見た。
「生きて帰ったら新しいの買えばいい」
「簡単に言うな」
「三千万払えるなら買えるだろ」
片桐が初めて少し笑った。
「違いない」
その時だった。
サヤが天井を見る。
「……来ます」
遠くから。
ブーン。
一つではない。
ブウウウウウウン。
片桐の顔色が変わる。
「何だ、この音」
レイナが窓の隙間から外を見る。
「いっぱい」
レンジも覗く。
そして笑顔が消えた。
空に。
黒い点が十数個。
こちらへ向かっていた。
「これは……まずい」
ホオズキが短く命じた。
「全員移動」
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裏口を出た瞬間、一機目が突っ込んできた。
サヤが片桐を押し倒す。
爆発。
窓ガラスが一斉に吹き飛ぶ。
「走って!」
ホオズキが叫ぶ。
五人は路地を駆けた。
二機目。
三機目。
建物すれすれを飛んでくる。
片桐が息を切らす。
「こんなの……今の戦場は……!」
レンジが腕を掴む。
「感想は帰って記事にしてください!」
「俺より走るの速いな!」
「こっちは仕事なんで!」
交差点。
ホオズキが一瞬止まった。
右。
左。
正面。
空。
判断は一秒。
「地下鉄!」
「使えるんですか?」
「入口まで行く!」
全員が方向転換。
その背後。
ドローンが一機降下してくる。
レイナが叫ぶ。
「後ろ!」
サヤがホオズキの肩を掴んだ。
「代表!」
二人が飛ぶ。
爆発。
轟音。
ホオズキの耳から音が消えた。
世界が白くなる。
地面に倒れる。
砂埃。
唇が動いているサヤ。
何も聞こえない。
ホオズキは立とうとした。
右脚が一瞬もつれる。
それでも立つ。
サヤが肩を貸そうとする。
ホオズキは首を振った。
「……走れる」
自分の声すらほとんど聞こえない。
だが走った。
前方に地下鉄入口。
百メートル。
七十。
五十。
片桐が転ぶ。
レンジが引き起こす。
「まだ撮りたいものがあるんだろ!」
「山ほどある!」
「なら走れ!」
三十メートル。
突然。
レイナが止まった。
「前!」
地下鉄入口の屋根。
一機。
小型ドローンが待っていた。
飛んでいない。
着陸している。
まるで蜘蛛のように。
こちらを待ち伏せていた。
レンジが呟く。
「……そこまでやるか」
ドローンが浮上した。
ホオズキが片桐を掴む。
「脇道!」
五人は再び走った。
その瞬間。
地下鉄入口が爆発した。
コンクリート片が雨のように降った。
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逃げ道がなくなっていく。
空。
道路。
地下。
すべて監視されている。
片桐が息を切らしながら呟いた。
「これが……新しい戦争か」
ホオズキが答える。
「違う」
「え?」
「戦争は昔から同じです」
銃声が遠くで響く。
ホオズキは走り続ける。
「見つけて」
角を曲がる。
「追い詰めて」
廃墟を抜ける。
「殺す」
再びドローンの羽音。
「道具が変わっただけ」
片桐は、その横顔を見た。
二十六歳。
自分の娘ほどの年齢。
だがその目は戦場を知りすぎている。
片桐は思った。
この女も。
戦争に人生の一部を奪われた人間なのだ、と。
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脱出地点まで二キロ。
サヤが無線を確認した。
「回収車両との通信が切れました」
レンジが顔をしかめる。
「妨害?」
「可能性があります」
レイナが言った。
「じゃあ向こうも私たちの位置分からない」
ホオズキは答えた。
「予定地点へ向かう」
「車が来なかったら?」
レンジ。
「歩いて国境まで行く」
「七十キロですよ」
「いい運動になる」
レンジが笑った。
「代表がそれ言うと冗談に聞こえないんですよ」
その時。
ホオズキが止まった。
静かすぎる。
先ほどまで聞こえていた羽音がない。
砲撃もない。
銃声もない。
不自然な静寂。
サヤも気づいた。
「……嫌な感じですね」
ホオズキが空を見る。
高空。
偵察ドローンが一機。
旋回している。
「走る」
レンジが聞く。
「どっちへ?」
ホオズキは答えた。
「どこでもいい」
「え?」
「走れ!」
直後。
遠くで何かが発射される音。
数秒後。
建物の向こうが爆発した。
砲撃。
二発目。
さっきまで彼らがいた道路。
片桐の顔が引きつる。
「ドローンが砲撃を誘導してるのか?」
「そうです!」
レイナが叫ぶ。
三発目。
四発目。
道路が次々と吹き飛ぶ。
五人は瓦礫の間を走る。
敵兵は一人も見えない。
戦車もない。
砲兵も見えない。
ただ空に浮かぶ、小さな一点だけ。
それだけで五人が追い詰められていく。
片桐が走りながら空を見上げた。
「こんな戦争……」
ホオズキが叫んだ。
「空を見るな!」
「!」
「足元を見て走って!」
砲弾着弾。
世界が揺れた。
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夕暮れ。
五人はようやく脱出地点へ到着した。
だが。
誰もいない。
レンジが呆然とする。
「マジかよ」
回収車両がない。
サヤが時計を見る。
「予定時刻まで五分」
ホオズキは道路を見る。
来ない。
三分。
二分。
レイナが小さく言った。
「代表」
空から。
また、あの音。
ブーン。
一機。
さらに。
二機。
三機。
四機。
片桐が空を見上げる。
「まだ来るのか……」
レンジが笑った。
乾いた笑い。
「人気者ですね、俺たち」
サヤが片桐を建物の陰へ誘導する。
ホオズキは道路を見続けている。
「あと一分」
ドローンが接近する。
五十秒。
四十。
一機が急降下。
サヤ。
「来ます!」
ホオズキ。
「まだ」
三十。
羽音が大きくなる。
二十。
レンジが叫んだ。
「代表!」
十五。
道路の向こう。
エンジン音。
十。
黒い四輪駆動車が角を曲がって現れた。
ホオズキが叫ぶ。
「乗れ!」
車両が急ブレーキ。
ドアが開く。
片桐。
レイナ。
サヤ。
レンジ。
最後にホオズキ。
ドアを閉めた瞬間。
運転手がアクセルを踏み抜く。
背後からドローン。
レンジが後方を見る。
「来るぞ!」
車が廃墟の道路を猛烈な速度で走る。
一機。
二機。
三機。
追ってくる。
片桐が窓から空を見る。
「速い!」
ホオズキが怒鳴る。
「頭を下げて!」
車が左折。
ドローンも曲がる。
右折。
追ってくる。
もう一機。
さらに一機。
片桐は理解した。
今や彼らは兵士から逃げているのではない。
機械から逃げている。
疲れない。
恐れない。
躊躇しない。
小さな機械。
レンジが笑った。
「映画ならそろそろ味方の戦闘機が来る場面なんですけどね!」
レイナが怒鳴る。
「そんな予算あるわけないでしょ!」
「夢がない!」
ホオズキ。
「喋ってる暇があるなら後ろ見て!」
「はい!」
車両は猛スピードで橋へ突入した。
前方。
国境まで続く幹線道路。
後方。
ドローン。
一機が距離を詰める。
百メートル。
八十。
五十。
二十。
サヤが叫ぶ。
「衝突します!」
その瞬間。
ブツッ。
追跡していたドローンが突然大きく傾いた。
地面へ激突。
二機目も墜落。
三機目。
四機目。
次々と制御を失う。
片桐が目を見開く。
「何が起きた?」
運転席横の無線から声。
『聞こえるか、代表』
久世冬馬だった。
ホオズキが無線機を取る。
「遅い」
『こっちは数分前から必死です』
「援護ありがとう」
『請求書送ります』
レンジが叫ぶ。
「社内じゃねえか!」
ノイズ。
久世が珍しく笑った。
『帰ったら聞きます』
通信が切れる。
ホオズキは後部窓を見る。
遠ざかる戦場。
夕焼けの中。
まだ無数の黒い点が浮かんでいる。
---
翌日。
隣国。
ヤタガラスが確保したセーフハウス。
片桐修平はノートPCの前に座っていた。
救出された翌日だというのに、すでに記事を書いている。
レンジが呆れる。
「寝ないんですか?」
「寝た」
「二時間ですよ」
「十分だ」
「やっぱり頭のネジ飛んでるな」
片桐は笑った。
机の横には、救出時に持ち出したSSD。
数千枚の写真。
数百時間の映像。
そして。
昨日の体験。
片桐がキーボードを打つ。
タイトル。
――『空が敵になった日』
背後からホオズキが覗く。
片桐が言った。
「一つ聞いていいか」
「どうぞ」
「怖くなかったのか?」
ホオズキは少し考えた。
「怖かったですよ」
片桐が振り向く。
意外そうな顔。
「そう見えなかった」
「怖くない人間は、長生きできません」
ホオズキは窓の外を見る。
静かな青空。
昨日とはまるで違う。
「怖いから隠れる。怖いから考える。怖いから仲間を連れて帰ろうとする」
片桐は黙って聞いている。
「恐怖は悪いものじゃありません」
そしてホオズキは少し笑った。
「逃げるべき時に逃げるための、大事な感覚です」
片桐はしばらくホオズキを見ていた。
それからキーボードへ向き直った。
数行を書き加える。
---
二週間後。
日本。
ヤタガラス本社。
ホオズキの机に封筒が置かれていた。
差出人。
片桐修平。
中には契約通りの報酬支払い証明。
そして雑誌が一冊。
表紙には戦場の写真。
巨大な夕焼け。
壊れた都市。
その空に浮かぶ、小さな黒い点。
特集記事のタイトル。
『空が敵になった日――ドローンが変えた戦争』
ホオズキはページをめくった。
最後の文章で指が止まる。
そこにはこう書いてあった。
«戦争を取材して二十五年になる。
だが私は初めて、「空そのものから逃げる」という経験をした。
兵士の姿は見えなかった。
砲兵の姿も見えなかった。
それでも我々は殺されかけた。
戦争は変わった。
英雄が消えたわけではない。
勇気が不要になったわけでもない。
ただ、戦場を見る目が人間だけのものではなくなったのだ。»
ホオズキは雑誌を閉じた。
窓際。
猫の少佐が日向ぼっこをしている。
平和だった。
少なくとも、ここは。
榊原宗一郎が入ってくる。
「読みましたか」
「ええ」
「良い記事ですな」
ホオズキは少し考えた。
「……怖い時代ですね」
榊原は窓の外を見る。
「戦場が怖くなかった時代などありません」
「そうですね」
「ただし」
榊原はホオズキを見る。
「怖さの形は変わる」
ホオズキは机の上の雑誌へ目を落とした。
表紙。
夕焼け。
廃墟。
黒い点。
「だったら――」
彼女は言った。
「私たちも変わらないと」
榊原が笑う。
「それでこそ代表です」
その時。
本部の廊下からレンジの声がした。
「うわああああああ!」
二人が振り向く。
レイナの声。
「どうしたの!?」
「ドローンだ!」
一瞬。
本部全体に緊張が走った。
ホオズキが飛び出す。
サヤも拳銃に手を掛ける。
久世まで部屋から顔を出した。
廊下の先。
レンジが窓を指差している。
「ドローン!」
ホオズキが外を見る。
飛んでいた。
小さなドローンが一機。
全員が硬直する。
数秒後。
久世がぽつりと言った。
「……宅配ですね」
沈黙。
ドローンの下には、小さな箱。
配達用だった。
レンジが咳払いする。
「いや」
誰も何も言わない。
「ほら」
まだ誰も何も言わない。
「最近の戦場を経験するとですね……」
レイナがレンジの背中を思い切り叩いた。
「紛らわしい!」
「痛ぇ!」
サヤが深いため息をつく。
久世は無言で部屋へ戻る。
榊原だけが肩を震わせていた。
ホオズキは額を押さえた。
「……神代」
「はい」
「今日の訓練、二倍」
「なんで!?」
猫の少佐だけが、
窓の向こうを飛んでいくドローンを、
何の恐怖もなく眺めていた。
そして。
ヤタガラス本部の空には今日も、
静かな青空が広がっていた。
――了――




