表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

第九話 『しばらくのお別れ』



それからも、

ショーは続いた。


言葉遊び。


連想。


選択。


催眠。


時には会場全体を巻き込みながら。


時には、

俺がいつものように読まれながら。


「また来てる」


「今日は勝つ」


「毎回言ってるよねそれ」


そんなやり取りを、

何度も繰り返した。


気づけば、

ショー会場へ来るのが、

もう日常みたいになっていた。



「こんばんはー、心理誘導ショーへようこそ」


その日も、

いつも通り始まった。


いつも通り、

ちーちゃんが笑って。


いつも通り、

会場が笑って。


いつも通り、

俺が読まれて。


「だからなんでわかるんだよ!」


「顔」


「ずるい!」


会場、

笑い。


何も変わらない。


そう思っていた。


ショー終盤。


終了十分前のチャイムが鳴る。


ちーちゃんは、

マイクを持ったまま、

少しだけ静かになった。


「……えーっと」


その空気に、

会場も少しざわつく。


ちーちゃんは、

少し困ったように笑った。


「今日は最後に、

ちょっとだけ話があります」


さっきまでの、

軽いショートークとは違う声。


「実は」


少し間。


「そろそろ、

就職活動が本格的に始まります」


会場が静かになる。


「なので、

このショーもしばらくお休みになります」


その瞬間。


胸の奥が、

少しだけ変な感じになった。


ちーちゃんは、

会場を見渡しながら続ける。


「元々、

大学の間だけのつもりだったし」


「いつかは区切りつけなきゃって思ってました」


少し笑う。


「まあ、

心理学科って、

レポートと実習と就活で急に人間らしい生活消えるので……」


会場から、

少しだけ笑いが起きる。


でも、

空気は静かなままだった。


ちーちゃんは、

その空気を壊さないよう、

ゆっくり言葉を選ぶ。


「でもね」


「私は、

このショーやって本当に楽しかったです」


「人の反応見たり」


「“え、なんで?”

って顔見たり」


「悔しがってる人いたり」


そう言って。


少しだけ、

こちらを見る。


「毎回来てくれる人いたり」


「……」


ちーちゃんは、

小さく笑った。


「だから、

終わりっていうより」


「“しばらくお休み”

くらいに思ってくれたら嬉しいです」


「また、

余裕できたら帰ってきたいし」


「やっぱり、

こういう場所好きだから」


会場が、

静かにその言葉を聞いている。


ちーちゃんは、

少しだけ照れくさそうに笑った。


「なので」


「今日は、

“最終回”じゃなくて」


「“またね”

って感じで終わります」


その瞬間。


会場から、

自然に拍手が起きた。


大きくはない。


でも、

温かい拍手だった。



ショー終了後。


客たちが少しずつ帰っていく。


俺は、

なんとなく席を立てずにいた。


ステージ上では、

ちーちゃんが機材を片付けている。


「……」


何か言おうとして。


でも、

うまくまとまらない。


すると。


ちーちゃんの方から、

先に気づいた。


「あ、まだいた」


「……まあ」


「なにその返事」


少し笑う。


でも。


いつもみたいな、

軽い空気だけじゃなかった。


「……しばらく会えなくなるのか」


言ってから、

思ったより寂しそうな声が出て、

少しだけ後悔する。


ちーちゃんは、

一瞬だけ手を止めた。


そして。


ゆっくり笑う。


「まあ、

世界の終わりではないし」


「連絡先知ってるでしょ、私たち」


「……そうだけど」


「それに」


ちーちゃんは、

少し悪戯っぽく笑った。


「君、

たぶん忘れた頃にまた来るよ」


「なんだそれ」


「だってもう、

結構ハマってるし」


「まだ負けてないし!」


反射的に言い返す。


その瞬間。


ちーちゃんは、

少しだけ安心したみたいに笑った。


「うん」


「それ聞けて安心した」


静かな会場。


片付け途中の照明。


その中で。


ちーちゃんは、

少しだけ優しい声で言った。


「じゃあ、しばらくお別れ」


「……またね」


その言葉が。


思ったより、

胸の奥へ残った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ