第九話 『しばらくのお別れ』
それからも、
ショーは続いた。
言葉遊び。
連想。
選択。
催眠。
時には会場全体を巻き込みながら。
時には、
俺がいつものように読まれながら。
「また来てる」
「今日は勝つ」
「毎回言ってるよねそれ」
そんなやり取りを、
何度も繰り返した。
気づけば、
ショー会場へ来るのが、
もう日常みたいになっていた。
◇
「こんばんはー、心理誘導ショーへようこそ」
その日も、
いつも通り始まった。
いつも通り、
ちーちゃんが笑って。
いつも通り、
会場が笑って。
いつも通り、
俺が読まれて。
「だからなんでわかるんだよ!」
「顔」
「ずるい!」
会場、
笑い。
何も変わらない。
そう思っていた。
ショー終盤。
終了十分前のチャイムが鳴る。
ちーちゃんは、
マイクを持ったまま、
少しだけ静かになった。
「……えーっと」
その空気に、
会場も少しざわつく。
ちーちゃんは、
少し困ったように笑った。
「今日は最後に、
ちょっとだけ話があります」
さっきまでの、
軽いショートークとは違う声。
「実は」
少し間。
「そろそろ、
就職活動が本格的に始まります」
会場が静かになる。
「なので、
このショーもしばらくお休みになります」
その瞬間。
胸の奥が、
少しだけ変な感じになった。
ちーちゃんは、
会場を見渡しながら続ける。
「元々、
大学の間だけのつもりだったし」
「いつかは区切りつけなきゃって思ってました」
少し笑う。
「まあ、
心理学科って、
レポートと実習と就活で急に人間らしい生活消えるので……」
会場から、
少しだけ笑いが起きる。
でも、
空気は静かなままだった。
ちーちゃんは、
その空気を壊さないよう、
ゆっくり言葉を選ぶ。
「でもね」
「私は、
このショーやって本当に楽しかったです」
「人の反応見たり」
「“え、なんで?”
って顔見たり」
「悔しがってる人いたり」
そう言って。
少しだけ、
こちらを見る。
「毎回来てくれる人いたり」
「……」
ちーちゃんは、
小さく笑った。
「だから、
終わりっていうより」
「“しばらくお休み”
くらいに思ってくれたら嬉しいです」
「また、
余裕できたら帰ってきたいし」
「やっぱり、
こういう場所好きだから」
会場が、
静かにその言葉を聞いている。
ちーちゃんは、
少しだけ照れくさそうに笑った。
「なので」
「今日は、
“最終回”じゃなくて」
「“またね”
って感じで終わります」
その瞬間。
会場から、
自然に拍手が起きた。
大きくはない。
でも、
温かい拍手だった。
◇
ショー終了後。
客たちが少しずつ帰っていく。
俺は、
なんとなく席を立てずにいた。
ステージ上では、
ちーちゃんが機材を片付けている。
「……」
何か言おうとして。
でも、
うまくまとまらない。
すると。
ちーちゃんの方から、
先に気づいた。
「あ、まだいた」
「……まあ」
「なにその返事」
少し笑う。
でも。
いつもみたいな、
軽い空気だけじゃなかった。
「……しばらく会えなくなるのか」
言ってから、
思ったより寂しそうな声が出て、
少しだけ後悔する。
ちーちゃんは、
一瞬だけ手を止めた。
そして。
ゆっくり笑う。
「まあ、
世界の終わりではないし」
「連絡先知ってるでしょ、私たち」
「……そうだけど」
「それに」
ちーちゃんは、
少し悪戯っぽく笑った。
「君、
たぶん忘れた頃にまた来るよ」
「なんだそれ」
「だってもう、
結構ハマってるし」
「まだ負けてないし!」
反射的に言い返す。
その瞬間。
ちーちゃんは、
少しだけ安心したみたいに笑った。
「うん」
「それ聞けて安心した」
静かな会場。
片付け途中の照明。
その中で。
ちーちゃんは、
少しだけ優しい声で言った。
「じゃあ、しばらくお別れ」
「……またね」
その言葉が。
思ったより、
胸の奥へ残った。




