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第八話 『タネ明かし』



「こんばんはー、心理誘導ショーへようこそ」


会場に拍手が広がる。


舞台中央。


いつものように黒髪を揺らしながら、

ちーちゃんは軽く手を振った。


「今日はちょっといつもと違います」


テーブルの上には、

カードも、

箱も、

小道具もない。


「今日は“ショー回”というより、“解説回”」


「今までやってきたことを、心理学的に説明していこうかなって思います」


会場が少しざわつく。


「え、タネ明かし?」

「教えてくれるの?」


ちーちゃんは、

少し笑いながら頷いた。


「もちろん、“全部”を説明できるわけじゃないです」


「でも、“どうしてそう感じるのか”を知ると、もっと面白くなることもあるから」


そして。


客席を見る。


「特に、毎回来てる人とかね」


完全にこちらを見ていた。


「なんで俺毎回巻き込まれるんだ……」


会場、

くすくす笑う。


ちーちゃんは、

どこか楽しそうにマイクを持ち直した。


「じゃあまず、一番わかりやすいところから」


ホワイトボードへ、

大きく文字を書く。


> 『人は、意味を作りたがる』


「例えば、前に“月・鍵・花”のカードやったよね」


「あれって実は、どれ選んでもある程度解釈できるんです」


会場が少し驚く。


「え、じゃあ最初から読めてたわけじゃ……」


「ううん、“全部見抜いてる”というより、“その人がどう理由を作るか”を見てる」


ちーちゃんは、

ペンをくるりと回した。


「人って、“なんとなく”選んだあとでも、“自分なりの理由”を後付けしたくなるんだよね」


「しかもその理由に、その時の気分とか性格が結構出る」


少し笑う。


「例えば、“月”を選んだ人が、“今日は満月だったから”って答えたとしても」


「“なんでその理由を選んだのか”

を見ていくと」


「“深読みされたくない”

とか」


「“シンプルな理由にしておきたい”

とか」


「そういう心理が見えたりする」


客席から、

「おおー……」という声。


ちーちゃんは、

その反応に満足そうに頷いた。


「次」


ホワイトボードに、

新しく文字を書く。


> 『禁止されると、逆に意識する』


「これは有名だね」


「“白いクマを想像しないでください”

って言われると」


「逆に白いクマ浮かぶやつ」


会場から笑い。


「人の脳って、“考えないようにする”

ためには、一回その対象を確認しなきゃいけない」


「だから、“読まれたくない”

って意識するほど」


「逆にそこへ集中しちゃう」


そして。


ちーちゃんは、

またこちらを見る。


「毎回、“絶対乗せられない”

って言ってる人とかね」


「うっ」


会場、

爆笑。


ちーちゃんは、

完全に面白がっていた。


「でもこれ、

別に弱いって意味じゃないんだよ」


「むしろ、ちゃんと考えてる人ほど引っ張られやすいこともある」


「“対策しよう”

って意識するほど、そこへ集中するから」


少し間。


「だから心理誘導って、“操る”というより、“意識の向きを作る”に近い」


会場が、

静かに聞き入っている。



「じゃあ次、催眠について」


その言葉だけで、

会場が少しざわついた。


ちーちゃんは、

苦笑しながら肩をすくめる。


「でもまず言っとくと」


「催眠って、よくある“完全洗脳!”

みたいなのじゃないです」


「むしろ、“想像に入りやすい状態”って感じ」


ホワイトボードへ、

また文字を書く。


> 『安心』

> 『集中』

> 『イメージ』


「この三つが結構大事」


「例えば、この前やった“笑っちゃう暗示”」


「“笑っちゃダメ”

って思うほど、逆に意識しちゃう」


「しかも周りも笑ってる」


「さらに、“今自分笑いそう”

って考え始める」


「そうすると、どんどん入りやすくなる」


会場から、

「なるほど……」という声。


ちーちゃんは、

少しだけ真面目な顔になる。


「あと、催眠で一番大事なの」


少し間。


「“この人相手なら大丈夫”

って思えること」


会場が静かになる。


「安心してる相手だと、人って力抜きやすいんだよね」


「逆に、怖いとか警戒してると、全然入らない」


その時。


ふと。


ちーちゃんと目が合った。


ほんの一瞬だけ。


でも。


その視線が、

妙に柔らかかった。


「だから私は、あんまり“支配”とか、“無理やり”みたいな催眠好きじゃないです」


「“安心して反応できる”

の方が、ずっと面白いから」


会場が、

静かに聞いている。


ちーちゃんは、

そこで少し笑った。


「まあ、とは言っても」


「ちゃんと反応返してくれる人がいると、術師側はめちゃくちゃ楽しいんだけどね」


またこちらを見る。


「特に、毎回わかりやすく反応してくれる人とか」


「……なんか最近ずっとサンプルにされてない?」


会場、

大爆笑。


ちーちゃんは、

笑いながらマイクを持ち直す。


「でもほんとに」


「心理学って、“人を操る学問”じゃなくて」


「“人って面白い”を知る学問だと、私は思ってます」


少し間。


「だからこのショーも」


「勝ち負けというより、“人間って不思議だな”を一緒に楽しめたら嬉しいです」


会場から、

いつもより少し長い拍手が起きた。


その中で。


ちーちゃんは、

少しだけ照れくさそうに笑っていた。


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