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第二話 『言葉は、思っているより顔に出る』



「というわけで、前回来てくれた人も、初めての人もこんばんはー」


小さな拍手が会場に広がる。


照明に照らされた舞台の中央。

黒髪の進行役――ちーちゃんは、前回と同じように柔らかく笑っていた。


大学帰り。


結局また来てしまった。


別にハマったわけじゃない。


ただ、一回くらいならもう一度見てもいいと思っただけだ。


……たぶん。


「お、来てる」


ちーちゃんが俺を見る。


その瞬間、周囲の視線まで飛んできて少し居心地が悪い。


「なんかもう常連っぽい顔してる」


「2回目なんだけど」


会場が少し笑う。


ちーちゃんは楽しそうに肩を揺らした。


「今日は“言葉の選び方”の話をします」


テーブルの上に三枚のカードを並べる。


静か。

自由。

秘密。


「人ってね、自分では適当に選んだつもりでも、“今の状態”が結構出るんだよ」


ちーちゃんはカードを軽く指で叩いた。


「じゃあひとつ選んで」


「自由」


選んだ瞬間。


ちーちゃんは、すぐには何も言わなかった。


ただ少しだけ、

俺の顔を見る。


「……へえ」


「な、なんだよ」


「今、“読まれる前に理由考えた”でしょ」


「は?」


会場がざわつく。


「選んだあと、一瞬止まったんだよね」


「“なんでこれ選んだんだろ”って、自分で理由作ろうとした顔」


「うっ」


「しかも、“変に思われない理由にしよう”って考えてた」


「くっ」


「図星っぽい反応」


「うるさい」


笑いが起きる。


ちーちゃんは完全に面白がっていた。


「人って面白くて、“自由に選んで”って言われるほど、逆に“正解”探し始めるんだよ」


「だから今のひな――」


一瞬止まる。


「……じゃなかった、君も」


少しだけ言い直して笑う。


「“変じゃない選択”しようとしてた」


「そんなこと――」


「でも、その時点で結構誘導に乗ってる」


「いやいや、そんなわけ――」


「今、“乗せられてるの悔しい”って思った?」


「むぅ」 


「顔」


会場、爆笑。


俺は思わず顔を逸らす。


なんなんだこいつ。


昔からこうだった。


人の表情見るのが異常に上手い。


でも。


昔よりひどい。


「じゃあ次、もっと簡単なのやろっか」


ちーちゃんは、椅子に軽く腰掛けた。


「今から、白を想像しないでください」


「し……っは!」


「……はい、もうした」


「してないし!」


「今、頭の中で“白ってなんだっけ”って確認した」


「してない!」


「否定早い時、だいたい本当なんだよね」


また笑い。


悔しい。


なんか悔しい。


でも。


会場の空気は嫌じゃなかった。


見世物にされてる感じというより。


“反応を拾われてる”

みたいな感覚。


ちーちゃんは、そんな俺を見ながら小さく笑う。


「ねえ、君さ」


「なに」


「ほんとは結構、こういうの好きでしょ」


「は?」


「心理とか、人の反応とか」


「いや別に」


「でもさっきから、“見破ろう”としてる顔してる」


「興味ない人って、そんな真剣に考えないんだよね」


言い返そうとして――少し止まる。


ちーちゃんは、その一瞬を見逃さなかった。


「ほら」


「今、“言い返せなかった”」


「ぐ……」


会場から笑いと拍手。


ちーちゃんは、どこか嬉しそうに笑う。


「うん、やっぱり面白い」


「昔より反応わかりやすくなってるかも」


ショーが終わる頃には、

最初の“どうせ雰囲気だけだろ”は、

かなり崩れていた。


もちろん、

まだ信じてるわけじゃない。


でも。


少なくとも。


“また来たい”

とは思っている。


帰り際。


受付横の次回案内を見ながら、俺は小さく呟いた。


「また、来るか」


ちーちゃんは、それを聞いていたみたいに笑う。


「次は勝てるといいね」


その笑い方が、

なんか悔しかった。



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