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第十八話 『正直になる催眠』



それからも。


ショーは何度か開催された。


連想。


心理誘導。


会話。


時々、

軽い催眠。


最前列へ戻った俺は、

もう毎回のように参加していた。


そして。


気づけば。


“見る側”より。


“かかる側”の方が、

好きになっていた。



「こんばんはー、心理誘導ショーへようこそ」


会場の拍手。


ステージ中央。


今日のちーちゃんは、

どこか楽しそうだった。


「今日は、

久しぶりの催眠回です」


会場がざわつく。


「おおー!」

「待ってました!」


ちーちゃんは、

笑いながら手を振った。


「でもいつも通り、

怖いことはしません」


「“人ってどれくらい雰囲気やイメージに引っ張られるか”

を遊ぶ感じ」


その声を聞いた瞬間。


胸の奥が、

すっと静かになる。


最近。


家で。


通話で。


何度も、

あの声を聞いていた。


“力抜いていい”


“ぼーっとしてていい”


その時間を、

何度も繰り返していた。


だからだろうか。


今日のちーちゃんの、

少しゆっくりした喋り方だけで。


もう、

頭がぼんやりしかけていた。


「じゃあまず、

会場全体で被暗示性テストからいきます」


会場が静かになる。


「両手を前へ」


「右手は重たい」


「左手は軽い」


いつもの誘導。


でも。


今日は違った。


“テスト”というより。


声を聞いた瞬間から、

身体がその空気を思い出している感じ。


「……」


ちーちゃんが、

一瞬こちらを見る。


そして。


ほんの少しだけ、

吹き出しそうになる。


「……反応早」


会場、

少し笑う。


「まだ何もしてないよ?」


「うるさい……」


でも。


もう、

少し頭がぼんやりする。


ちーちゃんは、

そんなこちらを見ながら、

楽しそうに肩を揺らした。



その後。


被暗示性の高かった三人が、

ステージへ上げられる。


もちろん。


その中に、

俺もいた。


「もう常連だね」


「不本意だ」


「でも来る」


会場、

笑い。


ステージ中央へ座る。


照明。


静かな空気。


ちーちゃんの声。


その全部が、

自然と意識を落ち着かせていく。


「じゃあ今日は、

“正直になる催眠”やってみます」


会場がざわつく。


ちーちゃんは、

笑いながら説明する。


「別に、

秘密を暴くとかじゃないです」


「ただ、

“取り繕う前の言葉”

が出やすくなる感じ」


少し間。


「“これ言ったら変かな”

ってブレーキが弱くなる」


会場が、

興味深そうに静かになる。


ちーちゃんは、

ゆっくり三人を見る。


「今から、

頭の中で考え込むより」


「先に言葉が出やすくなる」


「素直な方が、

楽になる」


静かな声。


「取り繕わなくていい」


「誤魔化さなくていい」


「思ったこと、

そのまま口にしていい」


その言葉が、

不思議と深く入ってくる。


ちーちゃんは、

一人ずつ軽く質問していく。


「最近食べて美味しかったもの」


「ラーメン!」


会場、

笑い。


「今やりたいこと」


「寝たい!」


さらに笑い。


そして。


ちーちゃんの視線が、

こちらへ向く。


「じゃあ最後」


少しだけ、

悪戯っぽく笑う。


「今、

一番思ってること」


その瞬間。


頭より先に、

言葉が出た。


「……ちーちゃんが好き」


静寂。


数秒後。


会場が、

一気に沸いた。


「おおおお!?」

「えええ!?」

「うわー!!」


歓声。


拍手。


ざわめき。


でも。


その中で。


俺だけは、

妙に真剣だった。


自然と、

ちーちゃんを見ていた。


ちーちゃんは。


完全に固まっていた。


「……え」


顔が、

みるみる赤くなる。


会場はさらに盛り上がる。


「青春だー!」

「言った!!」


ちーちゃんは、

数秒止まったあと。


慌てたように、

咳払いした。


「……は、はい!」


「えーっと!」


明らかに動揺している。


会場が、

逆に盛り上がる。


ちーちゃんは、

こちらを見ながら、

必死に進行を戻そうとしていた。


でも。


耳まで真っ赤だった。



「……じゃ、じゃあ」


少し早口になる。


「今の言葉は、

心の奥へしまっておきます」


「今は、

“催眠中の言葉”

として」


「恥ずかしさも、

忘れて」


「自然に、

落ち着いていく」


その声を聞きながら。


頭が、

少しぼんやりしていく。


「今言ったことは、

今は思い出さなくていい」


「ただ、

楽しかった感じだけ残る」


「はい、

ゆっくり戻ってきて」


指が鳴る。


ぱちん。


頭の霧が、

ゆっくり晴れていく。



ショー終了後。


会場は、

まだざわついていた。


ちーちゃんは、

少しぎこちない笑顔でマイクを持つ。


「えーっと……」


「今日もありがとうございました」


会場、

まだニヤニヤしている。


ちーちゃんは、

ちらっとこちらを見る。


「……た、楽しかった?」


恐る恐る。


そんな聞き方だった。


「……うん」


自然と頷く。


「楽しかった」


ちーちゃんは、

少しだけ安心したように息を吐いた。


どうやら。


本当に、

覚えていないと思っているらしい。


でも。


俺は。


少しだけ、

覚えていた。


“好き”


確かに、

そう言った。


思い出した瞬間。


顔が熱くなる。


“観衆の前で何言ってんだ俺!?”


頭を抱えたくなる。


でも。


それ以上に。


胸の奥が、

ずっと落ち着かなかった。



家へ帰っても。


全然眠れなかった。


ベッドへ横になっても。


頭の中で、

何度もあの瞬間が再生される。


“ちーちゃんが好き”


催眠中だった。


正直になっていた。


でも。


あれは、

本当にただの催眠だったのか。


「……」


胸がうるさい。


考えれば考えるほど、

答えがわからなくなる。


でも。


一つだけ、

確かだった。


今、

ちーちゃんの声が聞きたかった。


気づけば。


スマホを手に取っていた。


通話ボタンを押す。


呼び出し音。


その間ずっと。


心臓が、

うるさいくらい鳴っていた。


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