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第十九話 『本音』



通話ボタンを押したあと。


“やっぱやめようかな”


と、

三回くらい思った。


でも。


切る前に。


『もしもーし』


ちーちゃんの声が聞こえた。


その瞬間。


胸の奥が、

少しだけ落ち着く。


「あ……」


『どうしたの、

こんな時間に』


いつもの声。


少し眠たそうで。


でも、

ちゃんと柔らかい。


「……なんとなく」


『ふふ』


ちーちゃんが、

小さく笑う。


『なんとなくで通話してくる頻度、

最近増えたね』


「悪いか」


『別に悪くない』


その返事に。


少しだけ、

安心する。



最初は、

本当に何気ない雑談だった。


今日のショーの話。


帰り道で見た猫。


コンビニの新作。


そんな、

どうでもいい話。


でも。


頭の片隅には、

ずっとあの催眠回が残っている。


“ちーちゃんが好き”


あの言葉。


本当に覚えてないのか。


どこまで覚えてないのか。


聞きたい。


でも。


怖くて聞けない。


もし。


“催眠中だから”

で終わったら。


そう考えるだけで、

妙に胸がざわつく。



『そういえば』


通話の向こうで、

ちーちゃんが頬杖をつく。


『今日のショーどうだった?』


「っ」


心臓が跳ねる。


思わず、

画面を見る。


ちーちゃんは、

こちらの反応を不思議そうに見ていた。


『……?』


少しだけ首を傾げる。


その仕草が。


どうしようもなく、

愛おしかった。


昔から知ってる顔。


でも。


今はもう。


“幼馴染”だけじゃない気がする。


胸の奥が、

じわっと熱くなる。


逃げたくなる。


誤魔化したくなる。


でも。


今日は。


もう、

誤魔化したくなかった。


「……楽しかった」


『うん』


「でも」


ちーちゃんが、

静かにこちらを見る。


その目を見た瞬間。


頭より先に、

言葉が出た。


「俺、

ちーちゃんのことが好きだ」


静寂。


通話越しなのに。


空気が止まった気がした。


ちーちゃんが、

完全に固まっている。


『……え』


小さな声。


耳が熱い。


心臓もうるさい。


でも。


不思議と、

今は逃げたくなかった。


「……催眠の時、

少し覚えてた」


『っ』


ちーちゃんの顔が、

一気に赤くなる。


「最初は、

催眠だからだと思った」


「でも、

家帰ってからもずっと考えてて」


「なんか、

声聞きたくなって」


そこまで言って。


ようやく、

自分がとんでもないこと言ってると気づく。


「……あーもう、

なんかごめん」


顔を覆いたくなる。


でも。


ちーちゃんは、

すぐには何も言わなかった。


数秒。


本当に数秒。


ただ、

こちらを見ていた。


そのあと。


小さく、

息を吐く。


『……ずるいなあ』


「え」


『催眠中なら、

“暗示だから”

って誤魔化せたのに』


困ったみたいに笑う。


でも。


その顔は、

少し嬉しそうだった。


『そんな真面目な顔で言われたら、

逃げ道ないじゃん』


「……いや、

逃げていいけど」


『そこは逃がさないでよ』


ちーちゃんが、

少しだけ笑う。


その笑い方が。


ショーの進行役でも。


カウンセラーでもなく。


ただの、

ちーちゃんだった。


『……私ね』


静かな声。


『昔から、

君が来るとちょっと嬉しかった』


『毎回、

負けず嫌いなくせにちゃんと参加してくれるし』


『反応わかりやすいし』


「悪口?」


『褒めてる』


ちーちゃんは、

小さく笑う。


そして。


少しだけ目を伏せた。


『でも』


『社会人になって、

急に来なくなって』


『あの時、

結構寂しかったよ』


その言葉が。


胸の奥へ、

静かに落ちる。


『だから』


ちーちゃんは、

少し照れくさそうに笑った。


『また最前列戻ってきた時、

ほんとはかなり嬉しかった』


画面越しに、

目が合う。


心臓が、

またうるさくなる。


ちーちゃんは、

そんなこちらを見ながら。


少しだけ困ったように。


でも。


優しく笑った。


『……ねえ』


「ん?」


『これ、

心理誘導じゃないよね?』


思わず、

吹き出してしまった。


「違う」


『そっか』


ちーちゃんも、

つられて笑う。


その空気が。


どうしようもなく、

心地よかった。


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