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第十四話 『少しずつ』



その後も。


ショーは何度か開催された。


俺は、

毎回会場へ足を運んだ。


最初の頃みたいに、

前列へ行くことはまだできない。


ステージへ上がるなんて、

もっと無理だ。


だから、

後方の席。


帽子を深く被って。


静かに見るだけ。


でも。


それでも、

ショーの時間は好きだった。


会場の空気。


笑い声。


ちーちゃんの声。


全部が、

少しずつ、

止まっていた心を動かしていく感じがした。



「こんばんはー、心理誘導ショーへようこそ」


拍手。


照明。


ステージ中央のちーちゃんは、

やっぱり楽しそうだった。


昔より落ち着いていて。


でも、

楽しそうに人の反応を見る癖は変わっていない。


客席が笑う。


驚く。


戸惑う。


その流れを、

柔らかく作っていく。


その姿を見ていると。


不思議と、

安心した。


“ああ、

まだここあるんだな”


って思えた。



そして。


最近は、

ショー以外でも話すことが増えていた。


最初は、

カウンセリングの延長みたいな感じだったと思う。


「調子どう?」


「今日はご飯食べた?」


そんな、

短いやり取り。


でも。


いつの間にか。


ただのビデオ通話をするようになっていた。



『見てこれ』


画面の向こうで、

ちーちゃんがコンビニスイーツを掲げる。


「なんだそれ」


『新作』


「また甘いの食ってる」


『心理士って糖分使うから』


「絶対関係ないだろ」


ちーちゃんが笑う。


昔みたいだった。


ショーでも。


カウンセリングでもない。


ただ、

普通に話している時間。


それが、

思ったより心地よかった。



『そういえばさ』


ある日の通話。


ちーちゃんが、

少しだけ悪戯っぽく笑った。


『最近、

ショー中の顔、

前より柔らかくなったよね』


「……見てんのかよ」


『そりゃ見る』


「怖」


『心理療法士だからね』


「便利な肩書き使うな」


ちーちゃんは、

楽しそうに肩を揺らした。


そして。


少しだけ声を柔らかくする。


『でも、

ちゃんと楽しめてるならよかった』


その言葉に。


少しだけ、

胸が温かくなる。



また別の日。


『ねえ』


「ん?」


『ちょっとだけ、

昔みたいなのやる?』


その瞬間。


昔のショーを思い出す。


連想。


誘導。


“読まれる感じ”。


少しだけ、

胸がざわついた。


「……ステージはまだ無理」


『うん』


ちーちゃんは、

すぐ頷く。


『だから通話で』


静かな声だった。


急かさない。


無理に引っ張らない。


でも。


“君が嫌じゃないなら”

という空気だけ、

ちゃんとある。


「……少しだけなら」


ちーちゃんは、

そこで少し笑った。


『じゃあ今日は、

軽いやつだけ』



『最近、

夜ちゃんと眠れてる?』


「前よりは」


『そっか』


『じゃあ今、

ちょっとだけ目閉じてみて』


「急だな」


『別に催眠じゃないよ』


笑いながら言う。


『ただ、

疲れてる人って、

頭の中ずっと動いてるから』


『少し、

休む練習』


静かな声。


昔、

ショーで聞いていた声とは少し違う。


もっと近い。


もっと穏やか。


『深呼吸して』


『吸ってー』


『吐いてー』


自然と、

呼吸を合わせていた。


『うん』


『そんな感じ』


ちーちゃんは、

少し間を置いて続ける。


『頑張って起きてようとしなくていい』


『ぼーっとするくらいでちょうどいいから』


その言葉を聞くと。


少しだけ、

身体の力が抜ける。


『最近の君、

ずっと“ちゃんとしなきゃ”

が残ってる感じするし』


「……まあ」


『だから今くらい、

少し委ねていい』


静かな声。


優しい言い方。


でも。


その言葉を聞くと、

不思議と安心した。


“委ねる”


昔の自分なら、

その言葉に抵抗していたと思う。


でも今は。


少し違った。


ちーちゃん相手なら。


少し力を抜いてもいいかもしれない。


そんな風に、

思えてしまう。


『うん』


『今、

ちゃんと力抜けてる』


その声を聞きながら。


気づけば。


昔ショーで感じていた、

“身を任せる楽しさ”

を、

少しずつ思い出していた。


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