第78話 物事に遅すぎるなんてない
「それでは、先ほど逸れてしまった台本の内容に戻しまして、アディリシア様。ご登壇の方をお願い致します」
アキレウスの降段に合わせてカスターはアナウンスする
呼ばれたアディリシアは、守に笑顔で挨拶を交わし、壇上へと向かっていく
「…正直な話、アディリシアは俺がこっちに来てからの全てを知っているような物だから、本日一で怖い」
「う〜ん…今までの流れからすると絶対守さんの話が振られますからねー。姫様は守さんが絡むとちょっとおかしくなる傾向がありますから、否定のしようがありません」
「あそこで守が震えているわね♪進行役に変わってお姉さんがいっちゃうのだけれども、ここからは飛び入りもOKだそうよ♪」
「…そういえばアキレウスが最初に飛び入りがどうのって言ってたな」
アナトの悪戯めいたアナウンスに守は来賓に見知った顔も多くあるだけに一抹の不安を抱く
「アナト様に言われてしまいましたが、アディリシア様の質疑応答より飛び入り枠も設けるとアキレウス様から事前に言われておりますので、途中で挟みたいと思います」
「…自分の時には何もいわなかったあたり実にお兄様らしいです」
「飛び入りもおそらく多くくるでしょうが、事前にきている質問も多くあります。さっそく移りたいと思います。"異世界からの救世主を召喚する召喚魔法に全てをかけてきたというのは本当でしょうか"」
「はい。皆様ご存知の通りかとお思いですが、私たちが生まれた時には既に魔の進行が激しく、数々の勇士はいましたが、抑えるのが精一杯でした。私も何かしたいと考えていたのですが、お兄様とは違い、剣を振るう才もなければ、魔法を駆使するための才もありません。ですが、テスタオロスのために何かしたいという思いだけは、いつ如何なる時も忘れず、他の人の頼りにはなってしまったのですが、異世界の方を…守様を召喚するためにこの魔法だけはと全てをかけてきました」
「異世界の人間を呼び出すという賭けにも近いことは、当時反発も大きかったのよね。当然私も最後まで反対したのだけど、結果から言えば良かったと」
「はい。守様のお姿を見た瞬間、罪悪感に蝕まれましたが、私の今までは間違っていなかったと確信しました」
「召喚された当時はまだ何もできなかったと伺っていますが、それでもでしょうか?」
「はい。何と言っても私が一目惚れした方ですから」
最大限の笑顔でアディリシアは答えるとどこにいるかわからないアディリシアファンの圧力が集中して守の方へと向けられるのであった
「無心…。俺は無心だ…」
「こ、これはまぁ予想できる範囲の展開となってしまいましたね」
「すみません、ここで私からの質問になってしまいますが、体育祭の時に剣を振るわれてましたよね?」
「守様を召喚して、協力していただけることになった際に、剣の腕も、魔法を扱う技量もない、全くの素人の守様をずっと見てきました。今までは、他の人に頼るのものに全てを捧げてきましたが、何も関係のない守様がたとえゼロであったとしてもこの世界のために頑張る姿を見て、物事に遅すぎるなんてないと、私も変わらないと思い、ロベルタにお願いしたのです。もちろん、最初は反対されたのですが、押し通しました」
「それで国王に迫って七大罪剣のうちの一つを所有するまでに至ってるのだから変わったものよね♪」
「未契約ですので、本来の力は発揮できませんが、その時がくれば…」
「その時?…何かあるのでしょうが、次に行きましょう。"大魔法剣様にご執心なのは理解していますが、聖騎士団の旅時代には、同行していませんでしたよね?とても不安だったのではないでしょうか?"」
「当時は色々な感情を抱いておりました。心配で毎日無事をお祈りすることもありましたし、その反面で報告の際の守様のお話を聞くのを楽しみにしていたり、戦傷を見て悲しくなったりと情緒不安定でした。ですが、一番に思っていたのは、守様はこの世界を救ってくださるに違いないという信念であったことは間違いありません」
「姫様はああ言っていますが、じつは王宮仕えの時にこっそり見てしまったことがありまして…守さんが旅で出ている間お祈りで一睡もしないなんて時もあったんですよ」
「…ああ、当時薄々感じてはいたよ。顔をよく見ると隈ができてたこともあったし。ジャンヌと恋仲になった時なんかは、アディリシアを裏切った気分で穏やかじゃなかったもんだ」
「あの時は私も心穏やかではありませんでしたが…」
「それは…まぁ…なんとも言えないが…申し訳ない」
「こうやって少し聞いただけでも、守様に対する信頼度が高いことが伺えますね…。"今まで受けた報告がショックだったことはなんでしょうか?"」
「二つあります。一つは、終戦の際にお亡くなりになった方々のお話を聞いた時です。この世界のために戦った勇士たちを胸に留め、これからを守っていこうと強く思いました。もう一つは、守様とジャンヌ様の仲を引き裂くこととなってしまったあの事件です。私の口から語るべきものではありませんが、ジャンヌ様はもちろん、この世界の全てが恩返ししなければならない筈の守様に対し、最悪の結果になってしまったことを何よりも悲しいです」
「あの件についてはお姉さんも止められなかった責任があるから、ジャンヌにも守にも申しわないと思っているわ。元凶は既にいないけど、今後二度と若い子たちの幸せを奪うようなことがあってはならない」
「ジャンヌは負い目に感じているようだが、俺はもう大丈夫だよ。あの後のケアを誰よりも熱心にしてくれたあの二人には本当に感謝しかない」
「それを言葉にして言ってあげればいいじゃないですか」
「弱っている時の姿を蒸し返すのは、好きじゃないんだよ男ってもんは」
「はぁ〜…」
守の変なプライドに心の底から呆れのため息が漏れるニースだった
「世界が平和になっと思ったら国内で大騒動が起きたと当時は大混乱でしたよ。直近の事件を考えるに司祭の暴走と国民にも理解が深まったかと思いますが」
「はい。守様に対する国民の目が変わったことは良かったと思います」
「次の質問ですが、結構の方からあったそうです。"休日とかは何をされているのでしょうか?"」
「なるべく守様と共にできるようにしております。基本的には、守様の空くタイミングに合わせて私もスケジューリングを見ております。守様とどうしてもご一緒できないときは、守様にいただいた物などを眺めています」
「うわぁ…重いよ…重いよ」
「こないだの変身魔法の件で姫様が貸した服なんかは厳重に保管されていたりもしますからね」
「…あまり深入りしてはいけない内容だと察知しましたので、次に行きましょう。"今まで聞いたアキレウス王子のナンパ談でうんざりしたものはなんでしょうか?"」
「ここにきて俺関連の話を入れるのかよー!!」
唐突にきた兄の話に関係者はニヤニヤしながらアキレウスの方へと視線を向ける
「うんざりしたのは全てです。聖騎士団の中でそれこそ国を代表していると過言でもないお兄様が、他の皆様が情報収集を行っている間にナンパ、現地のお偉いさんが女性と知るとナンパ。他に良い話があれば良かったのですが、ナンパの失敗話しか報告に回ってこなくて呆れたものです」
「おかしい…心が痛いぞ…」
「ぷっ…ダメだ…笑いが止まらねぇ…」
「まぁこればっかりはアキレウスが悪いわよね♪ちなみに、ナンパの勝敗も然ることながら、敵とのタイマンの勝敗もそこまでだったわよ」
「ぐはっ!!」
アナトのトドメの一言に血反吐を吐きながら崩れ落ちていくアキレウスだった
アディリシアパートに入りましたが、軽くでも触れておきたい件が結構ある関係上、少し長くなりそうです。最初から触れてなかった"飛び入り枠"がここから導入されていくのには、訳があるのですが、回収は、次からになります。




