第71話 どんなことをしても解決へ導いてあげる
「もう一つでしょうか…?」
フリードは、アキレウスの問いに戸惑いながら質問で返してしまう
「そうだ。グラント司祭とお前らには今回協力者がいたんだろ?そいつが一体何者か吐いてもらおうか。それによっては父上もお前たちの処遇を少し軽くすることも考えなくもないだろう」
「彼女のことですか!!そんなことは容易です。彼女の名は 、あれ…名前が出てこない…。姿形は思い起こせるのに…」
「…外見の特徴は黒の長髪で黒色のドレスを着ている少女で間違いないか?」
「その通りです。それで名前が…おかしいな…名前が…なぜだ。出てこない…」
「父上!彼女は ですよ。ってあれ…」
「これはグラント司祭の時と同じことが起こっているな。アナト姉」
「ええ。おそらく忘却の魔法がかけられているわね。名前を喋ろうとしたら発動するよう仕掛けられているのね。姿形について消されていないのは、以前守の前に直接姿を晒しているからでしょうね」
「それにしても忘却魔法か…。これを扱えるということは…」
「精霊や妖精のような類のものでありながらも、魔族に近しい存在ということね。考えようによってはとても危ない存在だわ」
「あの戦争での敵側に生き残りがいるとでもいうのか?」
「可能性は0とは言えないな。吸血族の里では俺を邪魔に思う獣人族の子のサポートをしながらも俺を殺す気はないといい、今回はこいつらに手を貸しながらも途中で裏切る。おそらく彼女の計画通りなんだろうが、こいつらが捕まって名前を吐くことを見越して忘却魔法で吐かせないようにする。一体何が目的なんだ…?」
「わからないけれど、一つだけわかっているのは、守に固執しているということかしら?今後も気を引き締めていかないといけないわね」
「そうだな…。今の所守が絡む大ごとであちらさんも仕掛けてきているようだ。もうじき行う質問会でも仕掛けてこないとはいえないしな。全力でサポートできるようにしておかねば」
「もうあのイベントを行うのか…。体育祭から本当にあっという間だったな…」
「あ、あの〜ところで我々の処遇は軽くなるのでしょうか?」
話が質問会に脱線しようとしていた場面で、刑が軽くなるかどうかでビクビクしているフリードが痺れを切らして質問してくる
「ま、その判断は父上が下すことだからな。どうしますか?」
「うむ。先代までのハワード家の活躍を考えれば、重刑を負わすものも多少の減刑をと思ったのじゃが、守くんにもそうじゃが、何よりアディリシアに刃を向けたというのは父親としても許すわけにはいかぬ。そういうわけで、今回はアディリシアの判断に委ねてみよう」
「終身刑でどうでしょうか?」
「そ、そんな…」
「これではお家が断絶してしまう…」
「この即答っぷりを見るに完全に私刑だな…」
「お兄様、何か文句でも?」
「…ございません」
「お父様は私に判断を委ねました。私の判断では、私に刃を向けたことなどはどうでもよいのですが、守様の意思を無視し、勝手に逆召喚魔法で元の世界に戻そうとしたこと。この一点が何より許すわけにはいきません。これはグラント様にも同じことが言えます。それに、今後同じようなことをする輩が現れた際に同じ末路を辿るという示しをつけるためにも終身刑でよいと思います」
「…なんて笑顔でおそろしいことを…」
「終身刑か。これで完全に終わったなハワード家も」
「守殿、どうかどうか慈悲をいただけないだろうか?対立候補が減ると刺激的な生活も送れぬだろ?」
「自分から対立候補なんて言い出しているよ…。はぁ〜そこのバカ息子に聞いてなかったのか?あいにく俺は平穏な生活を望んでいるんだ。対立候補なんてもんは減るに限る」
「そ、そんな…」
「では、判決は下された。こいつらを連れて行け!!」
アキレウスが叫ぶと数名の兵がフリードとラーズを連れて行くのであった
二人のその姿は嘗て権力を振りかざしていた貴族のそれとは違い、今にも朽ち果てそうな生気のない顔つきであった
「…哀れじゃな。先代は国のために動く重鎮じゃったのに…。代々三大貴族を維持してきたお家もこうなってしまってはおしまいじゃ。…ご先祖には儂から伝えておこう」
「他の貴族は…ファントム家は言うまでもなく、オリビア家は守の加護にあるようなものだし、ガルト家は…まぁ…うん…心配だが、あの従者がいれば大丈夫だろう」
「まぁハワード家の件はこれでよしとして、グラント司祭はどうするんだ?」
「国への反逆罪として指名手配しておく。それよりも父上」
「そうじゃな…空いた司祭の後任を早急に決めなければならぬのじゃが…アナトくん駄目元で聞いてみるのじゃが、やってはくれぬか?」
「…今回ここにきた段階で頼まれるとは思っていました。駄目元でということを言われるに察しておられるのでしょうが、司祭の後任の話はお断りします」
「…やはり断られると思ったのじゃ。仕方ない、少し時間はかかるのじゃゆっくり後任を探すとしよう」
「なんでだアナト姉?教会のことも把握しているし、何よりあそこにいる人たちからの支持もあるだろ?」
「申し訳ないのじゃが、こればっかりは守くんに教えるわけにはいかんのじゃ。いつかアナトくんから直接教えてもらうとよい」
「…よくわかんないけど、それでいいのかアナト姉?」
「これに関しては、唯一頂いた終戦後の報酬みたいなことなのよ♪だから、守は何も気にする事はないわ」
「そ、そうか…ならしょうがないか」
戦後、勝利に貢献した聖騎士団はヴェルヘルムから勝利の報酬として、国としてできる範囲内ではあるがそれぞれの要求に応えるというものがあった
全員が呼ばれたその場では、アキレウス以外特に何かを要求することはなかったが、守がジャンヌ絡みの事件を起こしたその後にアナトは一人ヴェルヘルムを訪ね、一つ願うのであった
「…今回の事は儂たちにも非があるのじゃ。守るべき若者の、何より世界のために尽くしてくれた二人の未来を守れなかったのじゃから…」
「教会に近しい私でも防ぎきることが叶いませんでした。まさか強行手段をとるなんて…」
「いや、誰かのせいというわけではないのじゃ。それよりも起こってしまった以上はこれからを考えなければ…」
「被害者であるはずの守が、この先英雄である反面悪の汚名を被ってしまう。本人はそれでもいいと考えるでしょうが、私たちにとってこれは一番最悪な事態です」
「畏怖の存在として言い伝えられる事だけは避けねばならん。なんとかしなければならぬが…」
「そこで今回は願いを言うために訪れました。召喚された時からずっと守のことを見続けてきましたが、この先も何が起ころうとも私は常に守の姉として見守っていくことを願うというのはダメでしょうか?」
「それはこちらとしては願ってもないことじゃが…」
「常に守の最善になるように動く。そのためには、敵が増えようともどんなことをしても解決へ導いてあげる。こんな人がいればあの子はこの先もやっていけると信じています。表ではアディリシア姫が守に対して全力を尽くすと思います。裏では私が全力を尽くしましょう」
「うむ…。しかし、アナトくんが報われないのではないじゃろうか?」
「いいえ、守と直に接する表では姉として最後まで面倒を見るという体を装えるわけですから」
「…なるほど。よかろう。アナトくんにしては珍しい照れ隠しも見れたことじゃしな」
「ヴェルヘルム様♪」
「な、なんでもないのじゃ…」
アナトの明かされていない願いにより、アナトが司祭の後任を務めるわけではなく、後に新たに後任をつけると言うことで今回の騒動は終止符をうつのだった
グラント司祭はアキレウスの言う通り、国中から指名手配されることとなるが、その存在がこの世からすでに消えている事はこの後の出来事で明かされることとなる
これにて守のMVP編が終わりになります。MVPを獲得する元となる体育祭から含めて結構な話数を使ってきましたが、それぞれのキャラのことを少しでも掘り下げられたのではないかなと思います。過去編などで更に掘り下げることもありますが、現状はこんな感じになります。話は変わりまして、次回から別編になりますが、質問会編を先にやるか過去編(吸血族)をやるか悩み中です。




