第69話 名を呼んでいる筈なのに
〜アディリシア〜
少し時は遡り、守達が大聖堂を訪れている頃、宮殿にいるアディリシアは聖騎士団の旅時代のように守の安全をただただ祈り続けているのであった
「そんなに心配だったらアディリシアも一緒に行けるようにするんだったな」
「…おそらくグラント様がそれを容認されないと思います」
「だろうな。…たく、この時代になっても妹にここまでさせるような願いをいいやがって…。本当に罪な男だぜ、あいつは…」
「ふふふ…いつかお兄様にもこういった女性ができるといいですね」
「なんていう皮肉だこと…」
「「!?」」
アディリシアを安心させようとアキレウスが談笑を始めてすぐにそれは起こった
アディリシアの嵌めている指輪の一部が大きな音を立てて亀裂が入るのだった
「これってあれだよな…?」
「はい、守様との契約の指輪…。お兄様!!」
「ああ、あいつの身に何かあったってことだな。俺らが行くための正式な理由ができたってことだ。急ごう!!」
アディリシアとアキレウスは宮殿にいる兵を数名まとめて大聖堂へと急ぐのであった
〜守〜
グラントたちの魔法により、依然として青白い光に包まれている守は、自身の指に嵌めている指輪にいつの間にか亀裂が入っていることに気づく
「これは…アディリシアとの契約の指輪か。外せないのにヒビは入るんだな。ということはやはり…」
何かを察知した守は魔法解除ではなく、別の行動へと移ることにする
魔法陣の中にいる守の行動が気になるのか、グラントは不信に囚われる
「何かおかしいぞ。なぜあいつは、お得意の魔法解除を使わない。使えないのか?それとも本当にこの世界から帰りたいと望んでいるのか?」
「どちらにしても我々の勝利は揺るぎません。このまま奴が消えるのを見守りましょう」
「そ、そうだな…(なぜこうも嫌な予感がするのだ)」
「しかし、父上、グラント様、あの逆召喚魔法、何か様子がおかしくありませんか?」
ラーズがそう二人に告げた瞬間、時すでに遅しと言わんばかりにそれは大きな音を上げ、爆発する
爆風に巻き込まれた三人は大聖堂の端まで吹き飛ばされる
「ぐっ…な、なぜこんな爆発が起きるのだ…。召喚魔法の際にこうなったという話など聞いておらぬぞ…」
「なんでかって?教えてやろうか?」
グラントが立ち上がりに疑問を口にすると、逆召喚魔法で送り帰すはずだった守がそれに応えんとグラントに返す
「な、なんで貴様がまだここに存在しているのだ!!」
「はぁ〜…あの方法で本当に逆召喚魔法が行えると思っていたのだったら、とんだおめでたい頭をしてるんだな。俺にとってのある意味最大の敵はこんなにも短絡的なやつだったなんてと失望したぜ」
「逆召喚魔法が行えていないだと…!?」
「守くんの魔法解説講座〜なんて仰々しいものはしないが、今回の敗因はいくつかある。まずは、俺のつけているこの指輪だ」
「その指輪がなんだっていうのだ!?ただの指輪だろ?」
「逆召喚魔法で俺を消すことばかりを考えていたために、俺自身の調査が疎かになっていたようだな。これは呪いの魔法具だ。召喚魔法のような聖魔法に属されるものには不純物が混じっていてはならない。今回は対象者である俺自身がこの呪いの魔法具をつけているので不純な扱いというわけだ」
「それだと貴様はもう送り帰すことができないというわけではないか!!くそ…」
「この時点で逆召喚魔法と言われても焦りもしなかったし、魔法陣が起動した際にこいつにヒビが入ったのを見て改めて呪いの魔法具であると認識させられた。だけど、この逆召喚魔法これ自体、誰に聞いたか知らないが欠陥だらけだぞ。そうだよね、アナト姉?」
近場にいる筈なのにこれだけの大ごとにいっさい姿を出さなかったアナトに守は存在を確かめながら声をかける
「全部守が解説してくれても良かったのに〜」
「いや、俺が召喚されて良かったと言ってくれたアナト姉が逆召喚魔法というワードが出た時点で動いていないのはねぇ〜。今回の件がそもそも不発になるっていうのをすぐに察したんでしょ?」
「ええ。グラント司祭が用意していた聖水というワードを聞いた瞬間に全てを悟ったわ」
「聖水…?」
「魔法陣を描いて発動する魔法に触媒が必要になるのは間違いないのだけれど聖水だけはNGなのよ。なぜかというと聖水は描いてある魔法陣を消す際に用いるものだから」
「水を司るお家ながらそんなことも知らないからこそ、ハワード家は除名されて良かったという話さ。こんなの魔法の基礎を知っていれば、誰でも疑問に思うことだぞ?」
「くっ…!」
「ま、今回の魔法の失敗の要因は他にもある。魔法陣関連で言えば、勝利を確信しすぎてて気付いていなかったのかもしれないが、魔法陣が一部隠れていたことも要因だ」
「魔法陣が隠れていた?どういうことだ?」
「魔法陣を発動させる類の物はそれ全体が機能していなければならない。例えば描かれている線を塗りつぶしてしまうなどするとその魔法陣はもう機能しなくなる。今回は、どこぞのだれかが魔法陣を起動させないように介入していたようだぜ?もしかして、ここにはいない協力者が裏切ったんじゃね?」
「そんな… 、おい、 。あれ…名を呼んでいる筈なのに、 、くそ…我々は嵌められたということか…」
「ま、誰の手助けでとか裏切られたとかわかったもんじゃないが、御愁傷様ってこった。魔法の失敗がわかってしまえば、爆発するのも予想がつくからな。自分を守るための防御魔法を張ってその時を待つだけってこった」
「またしても…またしても夢潰えるというのか…」
敗北を悟ったグラント達はなすすべもないとその場に崩れ落ちる
それと同時に、兵を引き連れてアディリシアとアキレウスがやってくる
「守様…!!」
「お、アディリシアにアキレウスか。ちょうど今終わったところだ」
「だろうな。グラント司祭及びハワード家の領主フリード=ハワード、ラーズ=ハワード。裏で企てているアストン皇国乗っ取りの話はすでに調べがついている。また、今回の英雄に危害を及ぼした実行犯として、お縄についていただこう」
「ハハハ…全ては水の泡ってわけですか…」
「…いや、まだですよ、父上」
完全に戦意喪失しているグラントとフリードとは別にラーズは、アディリシアに向かって何かをしようとする
「罵られようと水を司るお家。伸縮自在のこの水の剣でせめて姫様だけでもーー」
アディリシアに向かって放たれた水の剣はアディリシアに届くこともなく、守の魔法解除で消え去る
「魔法で遅れをとるわけないだろ?」
「それは読んでいた。本当の狙いはこっちだ!!」
そう叫びながら、聖水が入っていた瓶の先をアディリシアに向けて走っていく
それを瞬間移動で制止し、左手の手刀でラーズを落とす
「ガッ…バカな…」
「だから遅いっての…」
「さすが守ってところだな…」
「いや、ラーズを落とすことよりもデウスでガードしているお前の拳の方がしんどいわ」
「そりゃあ殴り飛ばそうと力を込めているんだからな!!」
「別の意味で大聖堂が壊れるからやめとけ」
左手でラーズを落としながら、右手では同じく瞬間移動して殴り飛ばそうとしていたアキレウスの拳をデウスで封じていた
「さて…今度こそ三名を連行させてもらうって…フリードさんよぉ〜水を司るからってビビってお漏らしはどうよ?それが許されるのは女性だけだぞ?」
「あばばば…」
「ありゃりゃ…ってグラントのやつはどこに行った?」
「今の騒動の間に逃げたようね」
「兵の一部は急いで追ってくれ。それにしてもだ」
「ああ。そうだな。爆発してしまったものはしょうがない」
「解析はできたのかしら?」
「いや、これが全く。でも、この世界から帰るつもりはないんだからそもそも見に来たこと自体間違っていたのかもしれないな…」
「守様…。そうでした、指輪が…って」
「元に戻っているな。さすがは呪いの魔法具っていうところか…。奥深けぇ…」
こうしてグラント司祭とハワード家による聖守逆召喚魔法計画は失敗に終わるのであった
〜???〜
「ハァ…ハァ…まだだ…まだ終わるわけにはいかんぞ」
大聖堂を急いで後にするグラントは兵に見つかるまいと誰も使わないような経路を必死に走っていく
「あらら〜その慌てよう、どうやら計画は失敗に終わってしまったようですね〜」
「???、貴様ァ!!どこにいたというのだ」
「ずっと見ていましたよ?あなた方の計画が失敗に終わるのを見るために」
「そもそも貴様から得た助言を実行に起こしたのが今回だ。なぜ我々を嵌めた」
「いい玩具っぽかったからとでもいいましょうか?」
「くそ、クソがァ!!」
自暴自棄になり???に向かって突進していくグラントを軽く躱し、大きな黒い球を出現させグラントに投げつける
「ぐぎゃああああ!!」
悲鳴をあげているグラントを徐々に飲み込んでいく黒い球は、全てを飲み込んだ時、消えてなくなるのであった
「さて…概ね邪魔者を消し去ることはできましたでしょうか?次こそは戦場でお会いしましょうね♪」
大聖堂の方を見て、嬉しそうに告げた少女は自身も闇の中へと消えていくのであった
守を永久追放するつもりが、グラント自身が永久追放されるという結果でした。南無かませ犬…。
ということで逆召喚魔法は失敗に終わるのですが、この編はもう少し続きます。




