第68話 さらばだ、異世界人よ!!
「---あれ?なんだ、ここは?」
魔法陣を眺めている今この時より四年と少し前の話
いつもと同じ何気無い実家の風景の中で、高校の初登校を控えていた聖守は、新たな環境に向けテンションを上げながら登校の準備をしていた
入学が決まっていた高校は実家からかなり離れた位置にあったために、登校するには始業の2時間ほど前から家を出発しなければならなかった
その日、家族に出発の挨拶をした守は、家の玄関をあけると謎の光に包まれるのであった
「-----ふぅ。どうか成功してください…」
召喚魔法を使用し、魔力と緊張の糸が途切れたアディリシアは魔法の成功を祈りながら、その場に崩れ落ちる
「あれ?なんだ、ここは?」
守は周りを見渡すが眩しい日差しなどを見ることはなく、薄暗くも広い空間の中に倒れ込む一人の少女とそれを支える二人のご老体がその場に居合わせる
「姫様!!召喚魔法は成功ですぞ!!」
「…よかった…異世界なので召喚までに時間のズレがあったのですね」
「お主!!名前はなんというのじゃ」
「(なんか言ってるが、全くわからないぞ…)」
「…おそらく伝わっていないと思われます。誰ぞ、アナトを呼んできてくれ」
一人の老体がそう言うと、聖装を身にまとった一人の女性が現れる
「…本当に召喚してしまったのですね、異世界の人を。はぁ〜やってしまったものはしょうがないですね…。そこの子には、おそらく伝わってないと思うけど、少し待っててね」
女性は一瞬守を見るとすぐに老体達に呆れごとを言い放ち、その後すぐに守に笑顔で述べながら魔法をかける
「うぉ、俺の体が光ったぞ!!どうなってるんだ?」
「どうかしら?これでお話は通じる?」
「…やっと話している内容がわかった。ここはどこで、これはどういうことなんだ?俺は高校に向かうために自宅の玄関を開けて----」
「混乱しているのはしょうがないと思うけれど、少しだけお話をさせてね。私の名前は、アナト=アルカ。あなたのお名前を聞いてもいい?」
「アナトさんというのか。俺は聖守といいます。それでいったいここは?それに今俺の体が光っていたけど…」
「今あなたの体が光ったのは私が魔法を使ったからよ。自動翻訳という魔法なのだけど、会話が通じているのはこれのおかげってわけ」
「なるほど…って魔法?なんだかファンタジーみたいな話だけど」
「あら?魔法がわからない。守がいた世界には魔法がなかったのかしら?」
「俺がいた世界?魔法?いかん…理解が追いつかないぞ」
「ここからは私がお話致します。私は、アディリシア=アストンと申します。アストン皇国の王・ヴェルヘルムの娘です。お見知り置きを」
「こいつはご丁寧にどうも。俺は、聖守。その疲れ切った表情を見るにあんたが俺になんかしたみたいだが」
「貴様!!姫様になんたる態度を」
「いいのです。守様を召喚したのは他でもない私です。この世界はテスタオロスと言いまして、守様がいらしてた世界とは別の異世界になります。守様を召喚した理由は、この世界をお救いして欲しかったからです」
「異世界?救う?ああ…数年前に流行ってた異世界転移ってやつか。って異世界転移!?俺が?」
「はい、無理やり連れてきて本当に申し訳ありません。ですが、どうか、どうか…この世界をお救いください」
この出来事を経て、守はテスタオロスのこと、魔法、剣技を学んでいき、仲間とともに魔族討伐を果たすこととなる
「あの時の俺とは全く違う今だからこそ言えるんだけど、周囲を見てもアディリシアがこれを発動させるために、テスタオロスのために頑張ったんだということがよくわかる」
「そうね。…あの当時は異世界の者に頼らなければならない罪悪感に蝕まれながら、それでもテスタオロスに生きる全ての者のために行動を起こさなければという気持ちが強かったのが側で見ていてもよくわかったわ」
「あの立場で考えれば、共感できるものも多いだろうな。それにしても、この世界に来て、幾多の魔法を見たり、覚えたりしたけど、こんなに大きな魔法陣を描いて発動させる魔法は後にも先にもこれを置いて他にないだろうな」
「ええ。それには同意しかないわね。私たち戦闘者が極めている空間魔法とは違い、このような魔法陣を描いて発動させる設置魔法のタイプでも正に最上級魔法といわざるをえないわ。なんて言ったって異世界の人間を呼ぶほどのものですもの」
「俺も本当にこの世界にいい意味で毒されていると思っちゃったよ。これを見てさらに魔法を研究しようと思い始めているんだから」
「あら?それはこないだの変身魔法の件が絡んでいるのかしら」
「それもだけど、魔法使いの観点としてここまで大きい魔法陣を見るとまだまだ勉学をってね」
「解明できるといいわね」
魔法陣を真剣な顔つきで眺めている守の邪魔をしまいと、その場を後にするアナトと入れ違うように、グラントが静かに守の方へとやってくる
「いい雰囲気の中でタイミング悪く戻ってくるとはな」
「最後の挨拶に時間をやろうと思っただけのこと」
「最後の挨拶?薄々気づいていたが、やはり今回の件には裏があったか」
「そうでもなければ、私がお主に対して色々協力をするわけもあるまい。…そろそろ良いだろう」
グラントが告げるとその後ろからラーズとハワードがようやくかと待ち焦がれたかのように現れる
「久しぶりだな、ただの平民。いや、聖騎士団大魔法剣士聖守様と呼んだ方がいいのかな?」
「ラーズ…にその父親のフリードか。揃いも揃って俺相手に何かするってことか」
「大魔法剣士聖守殿、久しいな。息子の件も含め、ハワード家は散々苦痛を味わさせられたが、それも今日まで」
「何をしでかすつもりかわからないが、いいのか?自分で言うのはなんだが、世間では英雄とまで持ち上げられている俺を消そうとしてもあんたらに見返りはないはずだが?そもそもの話、三人がかりでも俺を消すなんて不可能だろ」
「ふふふ…その点は心配に及ばん。もちろんテスタオロスの英雄殿に対し、我々が実力行使で消そうなど不可能な話。だが、我らに被害が出ず、大魔法剣士殿をこの世から消し、我々が賞賛される方法は既に完成間近なのだよ。条件はこの大聖堂に放置されている召喚魔法に用いた魔法陣、ここにあるハワード家が用意した聖水、そして聖職者たる我が血。ここまで述べれば察しがつくだろう?」
「腐っても水を司るお家。聖水を用意するのは簡単ってことか。ここまで準備万端ということは、本当に逆召喚魔法を行う術を見出したってことか?」
「その通りだ。お前が学園生活などというのうのうとした生活を送っている間に、我ら反異世界人は日々お前を消すための努力を怠らなかった。実行に移れる今日という日を我々はどれほど心待ちにしていたことか…」
「…なるほどな。その努力を別のことに向けられればあんたらとも仲良くできたと思うんだが…。それにしても、ハワード家の連中が容易にこの場にいるところをみるにあの番兵も協力者か?」
「今回の件には、ハワード家はもちろんのこと協力者が多数いてだな。名は明かさない約束だが、その協力者の魔法で番兵を操っていたのだ」
「…なるほどな。つまるところこの計画における主体者はお前ら三人だけということだな。なら安心だ」
「ふん。言い残すことはそれだけでいいのか?我々との会話でおろそかになっているようだが、既に魔法陣が起動しているのだぞ」
「随分早漏なことで。せっかちな男は嫌われるぞ?」
「なんと言われようと我々の勝利は揺るがない!!もう一度聞くぞ?言い残すことはないか?」
「…じゃあお言葉に甘えて。お前らに言おう。魔法というものはそんなに甘くはないってな」
「ふん。言われんでもわかっておるわ」
「そうか。ならせいぜいお得意の高笑いでもしているといい」
「フハハ!!これで、これで我々の勝利だ。さらばだ、異世界人よ!!」
魔法陣の光が強くなり出し、その上にただ一人追いやられている守を見て、勝利を確信したグラントは高らかに笑いながら告げるのだった
守MVP編三話目でございます。前半に守が召喚されたときの回想を少しだけ入れていますが、本格的なことは過去編で後に触れていくために薄くしています。後半の逆召喚魔法機動に対して守が慌てていない理由などは次回になります。




