第48話 どこまでも不憫な男よ
「あの〜…ジルさん?」
カリンと一旦別れ再び街へ戻った守とジルは先ほどとは違い、吸血鬼たちが賑わう街の中深くへと向かっていく
その道中で触れて置かなければならない物が目についてしまう
それはいつかのオリビア領で見たような、明らかに守を模したような銅像が建っており、その傍らにはどう見てもジルにしか見えないような少女が銅像の主役に抱き寄せられているのであった
困惑しながらジルを見る守の顔が面白いのか、ジルは計画通りと言わんばかりのドヤ顔で告げる
「まさかオリビア領に建っているのは許せて、ここに建てているのは許さない。なんてことは言わないじゃよな?」
「ぐっ…。一体どこから情報が漏れているんだ…」
「人間と友好な関係を築いているのは何も我だけじゃないのじゃ。当然守が救ったあの森に行く同胞もおる」
「まさかこの短期間ですぐに造ったというのか…?」
「カリンに手配させたのじゃ。吸血鬼の力を持ってしまえば、一日もかからぬ。ちなみにじゃが、この銅像にはまだ名前をつけておらぬ。せっかくじゃから守に名前をつけてもらおうと思ってじゃな…」
「いやいや…」
「お主が名付けぬのなら"英雄と姫の恋"と名付け…」
「"旅人と吸血鬼の友情"でお願いします」
「つれないのじゃ…。自身を英雄と言わず、旅人と称すところが何とも言えんのう」
「この地においては、ジルのいう英雄だと人なのかがわかりにくいからな。人と吸血鬼の友好を示すための象徴にしたいのであれば、これがいいだろう。それに過去にこの地に来ているのは全て旅の最中であったしな」
「じゃが、友情か。いつかこの地もこの銅像の名のように完全に手を取り合えれば、いいのじゃが…」
「俺とジルでも…いや、俺たち聖騎士団と吸血族でも手を取り合えたんだからそう遠くない未来で成し遂げられるさ」
「…そうじゃな。守の言う名を後でつけさせておくのじゃ」
「それは別としてだ。さっきから吸血鬼の子供たちからの熱視線がすごいが…」
「おぉ!!そうじゃった。先に言おうと思っておったのじゃが、守は今子供人気が凄いのじゃ。こっちに行けば、その理由はわかるのじゃ」
銅像が建っている場所から逆の場所へと案内される
するとそこには、以前守がジルとジャンヌの三人で見たタイム・プレイの劇場に酷似した建屋があるのだった
「おい…まさかっ!?」
「気づいたようじゃな。もちろん、本家には話を通しているのじゃ。少し脚色が強めじゃが、内容も吸血鬼視点の聖騎士団との共闘が描かれており、向こうとは差別化しておる」
「本当にそれだけか?それだけだと子供から大人気なんてならないと思うが…」
「その…じゃな。脚色の部分がちぃーとばかし強くてじゃな…」
「おまえ…もしかして…」
「我が話を提供したのじゃが…。劇の内容がのぅ…。守の英雄度合いが本家よりも強めで、結ばれるのがジャンヌではなく、我になっているのじゃ…」
「なんだか、さっきの銅像の名前まで遡ることができたわ。ジル…自分の願望に正直すぎないか?」
「流石の我も少し反省はしているのじゃが、恋する乙女は常に自分が一番でありたいのじゃ」
「…ここでのお前は言わば、アディリシアだもんな。そりゃあ姫様を助ける英雄で、その英雄部分も脚色されていれば、子供からの人気がすごいだろうさ…」
「一応話を通せば、見ることもできるのじゃが」
「いや、今日はいいよ…。したいことがあるんだろ?」
「そうじゃな。またいずれの機会に…(まだ時間的には大丈夫じゃな…)」
「あ、一個だけ聞いていいか?」
「なんじゃ?」
「劇中でのアキレウスの扱いがどうなのかなって?」
「…」
「あっ(アキレウス、どこまでも不憫な男よ)」
カリンたちに任せている件にはまだ時間があると、ジルはこの機会に以前とは変わった吸血族の里の案内を続けようとする
しかし、このタイミングで里の入り口付近で騒ぎが起きていることに気づき、二人はすぐに向かうこととなる
「何を騒いでおるのじゃ!!」
「ああ。よかったジル様、ウンディーネとノームが中に入れろと騒いでいまして…」
「ウンディーネとノームじゃとっ!!な、なんでこんなタイミングに…」
「うん?さっきの違和感はこれか?いや、ウンディーネは確か旅に出るって話をしてたよな…。まぁ本人たちに聞けばいいか、ちょっと失礼」
吸血鬼たちの群れをかき分けて前に進むと一部の吸血鬼たちとウンディーネが口論している
「だからここを通せって言っているじゃない。あんまり抵抗するのなら、溺れさせるわ…って守?」
「こないだぶり。ちょっと冷静にな?」
「皆の者も、少し控えているのじゃ」
騒ぎを納めたい二人はそれぞれに声をかけていく
一方、騒ぎを起こした本人であるウンディーネは、情報の正確性が高いと判断したのかハイテンションでノームに喜びを現す
「やっぱりここにあるみたいよ!!ノーム、遠征した甲斐があったわ!!」
「わ、わかりましたので、落ち着いてください〜(ボソッ」
「ここにあるってなんのことだ?」
「ほら、前に言ったじゃない。他の女に取られないように常駐する術を探すって」
「旅をするってそれのことだったのか…。確かにこの魔法具たちに魔力を吸われている気配がないが、どういうことだ?」
「旅の道中で聞いたのよ。この吸血族の里に契約者が対価とした魔法具を介さなくても契約主と一緒にいられるものがあるって」
「そんな話俺が旅をしている時は聞いたこともなかったけどな…。魔法剣士としては、確かに気になる話ではあるが…」
「と、ところで…守さんはどうしてこちらに?(ボソッ」
「ああ。実はな…」
守が今回吸血族の里にいる経緯を二人に話す
前回の顔合わせでは、体育祭MVPのことを話題には出さなかったために今までのことを聞いたウンディーネは激怒する
また、表情には出していなかったものも地面が揺れるほどにノームも動揺するのであった
「お、落ち着けって!!」
「聞いてないわよ、そんな話っ!!何よ、許せないわ!!」
「……(ボソッ」
「はぁ〜…よしよ〜し…、ジルに頼んで一緒に探してもらうから、頼むから落ち着いてくれ」
「「はぅ〜」」
守は二人の頭を撫でながら諭し、ようやく二人の妖精は平静を取り戻す
「し、仕方ないわね。ま、守がそこまで言うのなら、許してあげなくもないのよ?いい、頭を撫でられたからじゃないわよ?私はそんな安い女じゃ…」
「わかっているから。ノームもいいね?」
「は、はい!!(ボソッ」
守側が落ち着いた頃合いに、ジルの方でも騒ぎが落ち着き、守の方へやってくる
ジルは毛嫌いしているノームを目に、うんざりした様子で守に妖精たちの目的を尋ねる
二人がきた経緯について話をする守は二人の入里の許可を求めるのであった
「ここで断れば、どうせまた騒ぎを起こすのじゃ。もうよい…」
「ごめんな、いつか埋め合わせはするよ。それで、これは俺の興味心でもあるんだが、魔法具に魔力をこめなくても召喚対象を常駐させておくものがここにはあるのか?」
「いや、知っての通り、我も最近はここにいることが少ないのでな。カリンに聞いてみるのじゃな」
「じゃあもう一回カリンちゃんの元へ戻るか」
「そうじゃな…。時間的にもそろそろじゃろうし」
「時間?」
「行ってからのお楽しみなのじゃ。目を話すと怖いので、お前たちもついてくるのじゃ」
頃合いだろうと踏んだジルは、守、ウンディーネ、ノームの三名を連れ、再びカリンの元へ向かう
その姿を離れからみていた不穏な影は
「あらあら、英雄様の元に守護者が二名追加されてしまいましたね〜。これは狼女の娘も終わりでしょうか?うふふ…」
自身の計画が崩れそうになりながらも、それはそれでと様子を見続けるために四人の背後をおっていくのであった
前話までの要素を少しずつ取り入れた回になりました。そして、妖精'sと合流しました。次回はホロと謎の影との間で行われていた計画の会になります。影の正体が判明するのか否か…。妖精'sの求めているものの正体とは…?
最後に年内最後の更新です。この一年たくさんの方に読んでいただきました。本当にありがとうございます。
次回は時間が取ることができれば1月の初週にと思っておりますが、基本的には第二週の更新になると思います。
皆様よいお年を。




