第33話 アストン皇国の姫様に誓うよ
骨董品店へ入るとアンティークな雰囲気が漂う店内に白毛という毛で顔のパーツがろくに見えない腰の曲がったおじいさんが二人を出迎える
「おや?姫様に…本日はこないだのお付きの子じゃなくて男をお連れなのじゃな?」
「こんにちわ、お爺様。こちらの方は聖騎士団の大魔法剣士、聖守様です」
「おぉ!!これはこれは…姫様だけにあらず、世界の英雄様までもがわざわざこのような古びた店にお越しいただけるとは…」
「ご老体、無理はされるな。目当ての物を探したらそちらまで持っていくので、そのまま座っててくださいな」
杖をつきながらもその足は震えている店主を見ていられなくて、守は店の奥へ戻るよう勧める
「いやはや…アストン皇国内にいるという噂は予々伺っておりましたが、この老体は目が悪くてそのお姿を遠目で拝見することが叶いません。長年この店を営んでおりましたが、姫様と英雄様が同時にお越しいただける、こんなに素晴らしい日はございません」
「そんなに持ち上げないでください…今はただの学生にすぎないので」
「私も本日は"普通の女性"として守様とこのお店に来ております。どうぞいつも通りにしていてください」
店主は二人の好意に甘え、店奥へゆっくりと戻っていく
以前に来店したことがあるアディリシアは目的の物の場所へ向かっていく中で、初めて入る骨董品店に興味津々の守は一通り店内を回り始める
「へぇ〜骨董品店というのは日本にいた時ですら入ったことなんてなかったけど、結構色々な物があるもんなんだなぁ…。オリビア家の芭蕉扇ほどの最上級品はないが、魔法具なんかもあるんだな」
「若い頃は、魔術師をしておりまして…魔法具はその時に趣味で集めていたのですよ。今となっては必要ない物なので、こうして店に並べております」
「なるほどな〜。学園を卒業したら魔法具探しの旅に出るのもいいかもなー」
「その時はお連れしていただけるのでしょうか?」
「い、いや…いくら平和な世になったと言ってもさすがにヴェルヘルムさんが許可しないだろ…」
「その時が来ましたら全力でお父様を説得いたします!!」
「(ヴェルヘルムさんの泣き顔が目に浮かぶ…)と、ところでさ、以前ニースと来たって話だったけど、いつ来たんだ?」
「…守様が私たちを差し置いてロベルタと街へ来ていた時ですよー」
「お、おう…。そんな笑顔で威圧しながら言わなくても」
「あっ、い、いえ…守様に何かってわけではないのです。その…アストン皇国内でデートをされるのは初めてだったと聞いたので、ロベルタに嫉妬してしまいまして…」
「ま、まぁデートと言ってもあの時は服屋に行っただけだしな〜。こうして色々見て回るという意味でのデートは本当の意味で初めてなんだがな」
「とても良いことを聞きました」
一瞬笑顔の裏に魔を見せながらも、守の初という言葉にアディリシアは嬉々とした表情を見せる
守が一通り魔法具を見たところで、店に入る前にアディリシアが話していた守に贈ってほしい物についての本題へ入ることとする
「一通り店内を見て俺は満足したんだが、そろそろアディリシアの欲しいものを聞いてもいいか?」
「はいっ!実はこちらになるのですが…」
そう言って守の元へ持って来たものは、赤色の宝石がついた指輪と青色の宝石がついた指輪のセットであった
守はそれが魔法具であると見抜いてはいるものも、何に扱うものかの予想がついてない点
また、ペアリングと言っても過言ではない代物に嫌な予感が拭えないのだった
「い、いや…指輪はその…ねぇ?さすがにどうでしょうか?」
「どうしてもこちらが欲しいのです!」
「ほらやっぱり…そういうのって体裁とかが…」
「ご安心ください。婚姻を結ぶためという意味ではございません。こちらの指輪は右の人差し指にはめるものになりますから…」
「そ、そうか…ちなみにこれはなんの魔法具になるんだ?」
「そちらに関しましては、すぐに効果をお見せすることができます。ですから…その…ダメでしょうか?」
「はぁ〜…まぁ即効性のある何かということか。呪いの魔法具でないことだけ願うとするか」
嫌な予感は拭えていないものも婚姻道具ではないと聞き、油断しきった守は魔法具を購入する
その際に守は店主へこれが何かを尋ねるも店主はニヤニヤしながらも問いに答えることはなかった
その後、店を出た二人は指輪を填めたくてうずうずしているアディリシアの要望により、アストン皇国を出てすぐの人気のない高原へ向かう
「…こんなところまで来たはいいけど、どうするつもりだ?」
「さすがに街の人たちに見られながらは恥ずかしいので…」
「うん?どういうことだ?」
「先ほど買っていただきました指輪です。…それでは守様、右手を出してください」
アディリシアに言われるままに右手を出した守はその人差し指に青色の宝石がついた指輪を嵌められる
次に、自身の人差し指に赤色の宝石がついた指輪を嵌めたアディリシアはこの瞬間を待っていたかのように魔法を唱える
「契約」
「ちょっ!?」
魔法が発動すると両方の指輪が光り、契約完了を告げるかのように一瞬で消える
「よ、ようやく念願が叶いました!!」
「…買う時から嫌な予感はしていたんだが、一応聞いていいか?この外せない指輪について」
「この魔法具は、永遠の縛りという呪いの魔法具でして、赤い指輪を指輪をつけた者はその生涯を青い指輪をつけし者に隷属するという効力があります」
「魔法解除も効かないぞこれ…」
「ただの魔法ではなく、呪いの魔法具で効力が高まっていますので、魔法解除では契約解除はされません」
「お姫様を隷属したなんて広まったらもはや終わりだぞ、俺…。今になってどうして形ある契約を?」
「…最近少し不安になったのです。私は常々守様の所有物と言ってきましたが、守様は否定されますし、本妻でも愛人でも恋人でも奴隷でも…どんな立ち位置でも良いですので、守様に所有物としての私を正式に受け入れてもらう状況が欲しかったのです」
アディリシアの返答に対し、守は真剣な声色で言葉を突き詰める
「こういった話が出てきていた度に冗談程度に受け止めてきていたが、ここまで踏み切ったのだから詰めるが…」
「はい」
「昔から話してきたつもりだったが、アディリシアのその気持ちは俺をこの世界に召喚した義務感も混じっているのだろ?ニースたちとは立場が違うんだから、もっと自分を大切に…」
「違いますっ!!…す、すみません。確かにこの世界の荒事のために守様を召喚してしまったことへの罪悪感はあります。しかし、私が守様をお慕いしているこの気持ちには、罪悪感や責任感は一切ございません。一目見た時から好意をもち、共に過ごしていくうちにこの人に一生を捧げたいと思いました。ジャンヌ様と恋仲になった話を聞いた時は、悔しくて一日中、泣いたこともありました。あの件でジャンヌ様と無理やり別れさせられて凹んでいる守様を見て、私だけはどんなときでも何が起ころうとも守様の側にいたい…必ずいるとそう決意したのです。こう思うのは私自身の確かな気持ちであり、守様が決めていいものではありません!!」
アディリシアの怒号にびっくりしながらも今までの出来事を振り返りながら、確かなものを感じた守は冷静になりながら口を開く
「…俺もダメな男だよな…。こんなにいい女に慕われていたのに気づいてすらなかったんだもんな。思い返せば、嬉しい顔、辛い顔、どんな顔もアディリシアに見せてきた気がするよ」
「戦争のことがあったのです。私の好意が一方通行であったのは仕方がありません。しかし、守様の色々なお顔を知っている。その点だけはジャンヌ様にも誰にも負けていないと思います。失礼ながら、今の守様が恋に臆病になられているのはわかっております。守様からのご寵愛という高望みは致しませんので、せめてお側にいることだけは許して頂けないですか?」
「恋に臆病になっている、か…。確かにそうかもな。それに、思えばこんなに俺に対して声を荒げたアディリシアを見たのも初めてだな。アディリシアは形にしてまで俺の"所有物"を主張したんだ。これからは俺も覚悟を持ってそれを背負っていくことをアストン皇国の姫様に誓うよ」
「フフフ…今日だけは"ただの女"のアディリシアですよ。ですが…今ほど王女であったことをよかったと思ったことはありません」
守から正式に側にいることが許可されたアディリシアは涙を流しながら本日一番の笑顔でそう言うのであった
アディリシアMVP利用編パート2でした。ヒロインズの中で本編内で正式に守側から認可された二人目がアディリシアでした。右の人差し指である必要などの細々とした理由はのちの内容で触れるため、大した内容ではありませんが、現状では意味があるものと踏まえてもらえればと思います。
アディリシアMVP利用編はもうちょっとだけ続きます。




