第20話 想い人を攻めるのも快感なのじゃ
"アディリシアが剣を扱える"という今種目一の驚きの展開から、ジルとアディリシアの二強と言わんばかりにトーナメントは二人の勝利でどんどん進んでいき、いつしか守とジャンヌのシード枠が動く準決勝へと至るのであった
準決勝の第一カードは守vsジルと共に魔族との戦争でテスタオロスを救った英雄同士で行われるものの守と違いハンデのないジルがかなり有利な状態で試合に臨むこととなる
「アディリシア様が剣を扱えると驚きの展開こそありましたが、あっという間に準決勝までやってきました今種目。準決勝第一カードは大魔法剣士・聖守様vs吸血王女・ジルさんのこの対決。解説のお二方はどうみますか?」
「今までは学生相手で本気のほの字も出していなかっただろうが、ジルは好きな人だからという理由で妥協したりしないからな。今回はさすがに全力で挑むだろう。それに対してハンデで制限された守がどれくらい対処できるかが見所だろうが…」
「私と剣を交える前に敗れてもらっては困るからな。守が勝つことを信じたいところ。だが、吸血王女の動きも侮れないことは確かだろう。これで剣をまともに扱えるようであれば守の敗北確定まで言いきれるのだが…」
「剣士のお二方でも読めない、そんな対戦ということですね」
シード枠に課せられたハンデの制限がどれほどのものかが読めない解説二人は今までとはことなり、対戦の展開について断言することができないでいる
一方当事者たちは、道を違えていれば、戦争時代に戦っていたやもしれぬ相手にお互いが嬉々としてこの対決に挑むのであった
「戦争時代ですら吸血一族に剣を向けたことなかったのに、まさかこんな形でジルと戦うことになるとはな。勝敗関係なくこの試合がちょっと楽しみでもある」
「あの時、守たちに助けられていなければ、戦場でこういう展開もあったのかもしれぬのじゃ。模造刀での対決じゃが、一方的に守を痛めつけることができると思うと胸が高鳴るのじゃ」
「言ってろ。簡単にやられるつもりは一切ないからな。こういう時のためってわけではないが、利き腕じゃなくても剣は扱えるようにしていたんだ」
「ふふふ、今までは守が放つSっ気にゾクゾクしておったのじゃが、想い人を攻めるのも快感なのじゃ」
ジルが新たな快感に目覚める中、審判が対戦開始の火の玉を打ち上げる
「「いざ、勝負だ(なのじゃ)」」
対決が始まった瞬間にジルが猛スピードで守の風船を割りに向かう
守は応戦しようとするが、紙の剣では模造刀の攻撃を防げないために、風船を割られないようにジルの攻撃をひたすら躱す
「避けてばかりじゃ勝負にならぬのじゃ!!打ってこぬのか?」
「どうやら俺らに与えられた武器は一撃しか叩き込めないくらい貧弱らしいからな。確実に仕留めることができるチャンスを伺っているんだよ」
「いい情報を聞いたのじゃ。そのチャンスを掴ませる前に討ち取ってやるのじゃ」
「やらせねーよ。動きは見えているからなっ!」
守に避けられているがひたすら猛攻を続けるジル
ジルの動きは見えているが、それでも攻撃ができず苦戦している守
決定打がない硬直状態だが、その状況ですら二人は楽しくてしょうがないのであった
「お二方は楽しそうに試合をしているように見えますね。その中で、ジルさんの一方的な攻めを守様は躱しながらも反撃する好機を伺っているように見えますが、どうでしょうか」
「吸血一族っていうのはどちらかといえば魔族に近い存在だからな。俺たちが壊滅の危機にあった吸血一族を救ってこちらの味方になった部分があるが、それがなければ戦場で戦っていたかもしれない。きっと二人はそれを想定して今を楽しんでいるのさ」
「守が回避しかできていないのはおそらく与えられた武器が模造刀に対処できないからだな。叩き込む一撃をいまかいまかと見極めているに違いない」
「だが、潜在的な身体能力の高さはジルが圧倒的だ。隙を見せずジルが猛攻で勝利を勝ち取るのが先か、守がチャンスを掴み取り反撃するのが先か」
楽しんで対戦を臨んでいる二人に対し、他の女性陣はというと
「二人とも楽しそうだな〜。あんなにジルが楽しそうにしているのをみると私も守と戦いたいって思っちゃうよ」
「そうですね。ですが、私も簡単には負けませんよ、ジャンヌ様」
「我が儘なだけの年増だと思っていたのですが、さすがに吸血王女なだけはありますね」
「忘れていましたけど守様と共に戦争経験をしているのですから、実力はあるに違いありませんわ」
「お二方何げにひどいですね…」
決まらないジルと紙一重で躱す守の攻防に会場で見ている方も固唾を飲む中で、ジルの攻撃パターンを読み切った守が打ち込む好機と感じる瞬間が訪れ、反撃の一撃を打ち込む
守が動いたのを攻撃を仕掛けながらも感じたジルも取らせまいと機転を利かせ、無茶な体制ではあるもののこれに応じる
「試合終了!!両者風船が割れているため、共に敗北のドロー試合とする」
審判が宣言する
守の右腕の風船とジルの頭の風船が共に割れているのであった
「最後避けそこねっちゃったか。いけると思ったが、この反応速度。さすがはジルってところだな」
「こっちもなのじゃ。悔しいのじゃが、ハンデがあってもやはり大魔法剣士には引き分けにするのが精一杯だったのじゃ」
「勝利こそできなかったが、楽しい試合だった」
「同じくなのじゃ」
勝敗こそつかぬ試合結果になったが、笑顔で握手を交わす二人に会場は大盛り上がりを見せるのであった
「守との対戦はなくなってしまったが、吸血一族の戦いも見れたことだし、私は大満足だ。もう一人の弟子の戦いを楽しませてもらうとしよう」
「いい試合だったのは認めよう。だが、守には悪いが、やっぱりジャンヌの対戦カードで俺にしといてよかったぜ。妹じゃジャンヌに勝てんだろうからな、ウォーミングアップでもさせてもらおう」
「…アキレウス王子、解説だけはこなしてくださいねってどこかに行ってしまいました。それは置いておき、素晴らしい準決勝第一試合でした。英雄同士の戦いがみれただけでも私は感謝しかありません。続いては皇国の顔同士の対決と言っても過言ではない姫様vs勇者様。これも大変見所ある対戦カードだと思います」
「どこかへ行ったバカ息子に変わり、解説は儂が引き継ごう。やれやれ、奴は落ち着きがなくて敵わない」
「ありがとうございます、ヴェルヘルム様。せっかくなのでヴェルヘルム様にもお尋ね致しますが、準決勝第一試合はどうでしたか?」
「儂も吸血一族の戦う姿を知らぬのでな。ジルくんが戦う貴重な試合をみることができたというのは大きい。そして、守くんは制限が厳しい中で相手の動きをよく見極めたといったところじゃのう。これに関してはさすがと言わざる負えないのぅ」
「引き分けたのも妥当と言ったところでしょうか。お次はアディリシア様がジャンヌ様と対戦されますが、どう見ますか?」
「いくらロベルタに師事したからと言っても娘ではジャンヌくんの足元にも及ばないじゃろう。じゃからと言ってただただ負けるのではなく、努力してきた結果を見せたい相手に見せられれば本人も満足するじゃろうよ」
「ヴェルヘルム様もアキレウス王子もわかっていませんな。私が剣を教えたのですから、ハンデのあるジャンヌにだってアディリシア様は負けませんよ?」
会場で唯一いい勝負ができると断言するロベルタの話を誰もが信じない中で、この世界の英雄である皇国最強の剣士と皇国の姫との対戦が始まろうとするのであった
(制約のない)吸血王女と(ハンデで縛られた)主人公のバトル回でした。この種目は完全にアディリシアに流れがきているために、このバトルを最初に持ってきました。次回で風船割りは終わりますが、勝者はどちらの手に渡るのか