第21話 守様のことを慕う者として
対戦を終えた守とジルの二人は次の対戦のために、控えているアディリシアの元へ向かう
「守様、ジル様お疲れ様でした」
「ジルの動きに対応するだけで精一杯だった。それに紙の剣のハンデも結構きつかった。おそらくジャンヌも手こずるだろうからさ、アディリシアも頑張れ」
「ハンデ盛り盛りでも引き分けるので精一杯だったのじゃ。姫さんよ、ジャンヌが勝つのはアキレウスが粋がるのも含め癪じゃから我は姫さんを応援させてもらうのじゃ」
「ありがとうございます。ロベルタに教えを頂いています、守様の妹弟子としても頑張らせていただきます」
「相手はジャンヌだからな。頑張りすぎて無理だけはするなよ?」
「相変わらず守はわかっていないのじゃ。女という生き物はのう、好いておる男にいいところを見せたいのじゃ。全力でジャンヌを討ち取ってやるといいのじゃ」
「はいっ!」
守の心配はよそに、ジルに鼓舞され意気込んだアディリシアは既にジャンヌが待ち構える舞台へ上がる
「ふふ〜ん、姫様が相手でも守がかかっているこの勝負は手を抜いてあげられないんだからっ!」
「ジャンヌ様に課せられている制限だけで充分に負荷が大きいと思います。その中での全力ではありますが、守さんの願いを聞いてしまった以上、私も負けるわけにはいかないのです」
「…やっぱりさっきの守の発言が姫様も気になっていたんだね…。ひょっとして姫様も同じことを考えている?」
「皇国が全力でサポートするほどの賞品で行きたい場所というのはおそらく"元の世界に帰りたい"だと私は思っております。こちらの世界の都合で召喚し、長いことこの地に拘束してしまったのです。悲しいですが、守様のことを慕う者として、私はその願いはなんとしても叶えるべきだと思います。ですが、そうであるならばこそMVPを獲って最後の思い出くらいは二人っきりで作りたいと考えております」
「やっぱりそう考えるよね〜。でも、その話を直接聞いてしまった以上、私も絶対に負けるわけにはいかなくなったよ」
"守が行きたい場所"
騎馬戦のMVP獲得の際にこの話が出た時、二人は真っ先に"元の世界に帰りたい"という願いをするのではないかとずっと考えていた
逆召喚の方法は現時点でも判明していないが、地形を操るレベルの魔法力を持つ守に皇国の全力のサポートがつくとなるとそう遠くない未来でそれが実現できるかもしれない
そう考えていたジャンヌとアディリシアは誰にも邪魔されずに少しでも守と関わる時間を増やすためにMVPを獲ることに関してのこだわりを強めるのであった
「ジャンヌ様に少し遅れてアディリシア様も壇上に上がられました。いよいよ皇国の代表同士の戦いになられますが、ジャンヌ様がお一人で動かれるのは今競技が初になりますので、ロベルタ様に剣士としてのジャンヌ様についてお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか?」
「うむ。剣の腕のみで競うことが今後もあるとすれば、制限なしのジャンヌに単体で勝てる者は現在のこのテスタオロスには誰もいないだろう。悔しいが皇国女騎士団団長の肩書きを持っている私や守、アキレウス王子でもせいぜい追い詰めるところまでが精一杯だろう。それくらいジャンヌは剣に関しては天才と言ってもいいだろう」
「やはり、聖騎士団を率いていた団長であり、この世界を救った勇者という肩書きは伊達ではないということですね。そのジャンヌ様と戦うアディリシア様ですが、先ほどのロベルタ様の発言ではいい勝負ができるとおっしゃっていましたが…」
「その発言に間違いはない。第一にジャンヌに課せられるハンデの大きさだが、守の動きを見てて思っておったのだが、武器が相当な貧弱さのようだ。一撃必殺を狙うには相手の隙を読み切らないといけない。私が教えたアディリシア様がその辺りの者たちと違うのは当たり前の話でだな、隙はそうそう見せないだろう。それに合わせてだが、ジャンヌは守と違いバカだ。剣の腕がすごいだけで実際は単純であるから対人戦で守程繊細な戦いはできないであろう。そして、この戦いの勝敗に守が絡んでいることも大きい。アディリシア様はそれこそここにいる誰よりも早くから守を慕っていたと言ってもいい。それだけ守とのことに思い入れが強いアディリシア様がただただ負けるはずがない」
「なるほど。聞いてはいけなかった内容まで含め、解説ありがとうございます」
「ぶ〜!!ロベルタにバカって言われたよっ!!確かに昔から守ほど考えて戦ってはいなかったけど、当時から平和にしたいって思いは誰にも負けてなかったよっ!!」
「さらっと私のことも皆様にべらべらお喋りしていますけど、またお説教が必要なようですね、ロベルタ」
「ひぃぃっ!?ま、またアディリシア様のお説教が…ガクブル」
「やれやれ…こっちのシリアスな雰囲気がぶち壊しだよね〜」
「そうですね…ですが…」
「そうだね」
「「勝負です(だよ)」」
二人が言い放つと共に駈け出す
持久力がないアディリシアは短期で決したいと思い正確にジャンヌの風船を狙うも、全て躱される
ジャンヌは先の対決で自身の武器が貧弱であることを把握しているので、守同様躱しながらも完全に仕留められるタイミングを見測る作戦に出る
「守よ、完全にやり方パクられておるが、持久力のない姫さんではこのままではまずいのではないか?」
「そうだな…。だが、アディリシアの本気の動きを見てわかったことがある。本人も言っていたが、ロベルタさんが教授した内容が力技以外に特化しているのならこの勝負わからないぞ」
アディリシアの動きを剣士が戦う姿としても真剣に見つめる守と同じくして解説席の方では、ヴェルヘルムは皇国最強の剣士に立ち向かう娘の姿に言葉を発することなく戦いを真剣に見つめる
守は勝負の行方がわからないというが、繰り出す攻撃が当たらないアディリシアはとうとう疲れにより動きが鈍るのであった
「はぁ…はぁ…、ハンデがあってもやはりジャンヌ様はお強いですね…。狙っていても全て躱されてしまいます」
「そう言いながらもこちらが打ち込む隙を作らせないあたり、さすがロベルタの弟子ってところだよね。だけど持久力が勝敗を決するといった感じだね。これで決めさせてもらうよ!」
疲れ切っているアディリシアに勝負を決しようとジャンヌが紙の剣を振り下ろす
「アディリシアー頑張れ!!」
「!?」
守の応援する声に反応したアディリシアは振り下ろされる紙の剣に最後の力を振り絞り模造刀を当てにいく
とっさの出来事に対応しそこねたジャンヌは躱すことができず、耐久度が低い紙の剣は瞬く間に剣の形が保てなくなる
「ありゃりゃ〜武器が使い物にならなくなっちゃった。剣で風船が割れないってことはルール上の負けってことだよね?」
「…守様の応援のおかげでとっさに反応できました。やはり私には守様がいないとダメなようですね」
「ぶ〜ぶ〜!!私には応援してくれないのにっ!?ま、まぁ?まだ最終種目があるし、今回は姫様の隠れた努力に勝利を素直に譲るとするよ」
「ありがとうございます!」
「勝者、アディリシア=アストン!!」
誰もがジャンヌが勝利すると思われたこの対決はアディリシアが勝利する形で決着がつくのであった
「え?あれ?俺とジャンヌのエキシビジョンマッチは?お、おいおい…アディリシアが勝ったって?う、嘘だろ…?」
解説役もこなさず、妹の勝利を信じず、ジャンヌと戦うために体を温めていたアキレウスは何も残さずにこの種目が終わるのであった
ジャンヌVSアキレウスのエキシビジョンマッチを期待している方がいましたら申し訳なかったのですが、この種目の勝者はアディリシアということで決着しました。本編中で守の願いは元の世界に帰ることと想定していますが、果たして…?未解決のままとなりますが、次回より魔法コンテストに入りたいと思います。




