期待させないで!!
人殺し。
そうだった。
私、自分のしたことを忘れていた。
私は晃から大切なものを奪った張本人。
そんな人間に、告白なんてするわけない。
そもそも私のような人間が、晃と釣り合うはずがない。
そう思うと嬉し涙は消えて、どんどん乾いていく。
私、本当に大バカ。
本来なら近づくことさえも許されないのに・・・。
私はただ・・・。
そこまで考えて、もう一度自分に問質す。
アイサレタカッタ??
自分の愚かさを改めて思い知らされる。
私なんかが愛されるわけない。
現に、叔母さんは私を嫌っている。
晃も、嫌がっているに違いない。
私が・・・私が人殺しだから。
私は力の抜けた手足で、重い腰を立たせる。
“・・・いいよ”
本当に?
本当に私にはあなたを愛する資格があるの?
あなたは付き合っていた頃のように、私を愛してくれるの?
真相を突き止めなければ。
私は覚悟すら決めてもいないのに、その答えを自ら求める。
早く、晃のところに・・・。
「きゃはは!!」
ドアノブを握った瞬間、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
穂乃夏だ。
私は思わず手を離す。
何を笑っているの・・・?
「柳瀬君、本当はそう思ってたんだね」
本当・・・思ってた・・・?
誰の話・・・?
「ん。
さっさと消えりゃあ、楽なのに」
心臓が痛い。
まるで、誰かに握りつぶされているような感覚に陥った。
「勘違いとか、まじでうざい」
「きゃはは!!
そこまで言っちゃ、可哀相じゃん!!」
私は耐えられなくなって、無意識のうちに走り出していた。
行き先は・・・。
「ちょっと、廊下は走らないでください!!」
看護婦さんに怒られても、この足は止まらない。
この足が止まった時。
私は何をするんだろう。
ひたすら走り、非常階段を駆け上る。
最上階のドアを開くと。
曇天の空に、灰色のコンクリート。
その先の、2mは越えているフェンス。
足が、やっと止まった。
「はぁはぁ」
私の荒い息遣いだけが聞こえる。
涙は乾ききっていて、先程まで泣いていたとは思えないほど。
私は立ったまま、しばらく呼吸を整えた。
そして、考える。
もう、生きていくことは叶わない。
誰も私の生存を願ってなんかない。
“親が死んでまで守った命・・・。
アンタはそれを粗末にするの?”
わかってます。
でも、私にはあなたに心配してもらう資格なんてないんです。
日向さん。
“頑張んなさいよ!!”
晃と付き合い始めたという報告をしたときに、言ってくれたよね。
でも、もう頑張る必要なんかない、私は憎まれるべき存在だから。
琴音。
“め、芽衣ちゃん、正気?”
正気です。
だから、もう気にしないでください。
悟さん。
“泉川の両親が亡くなったのは、晃のせいじゃねぇだろっ!!
な、そうだよな、泉川?”
その通り。
犯人は私です。
村上君。
“芽衣”
初めて名前を呼んでくれた時。
体中に、あなたの温かさが広がったよ。
あなたからいろんなものをもらったよ。
嬉しくなるから・・・期待してしまうから。
もう、呼ばないでください。
それなのに。
“芽衣”
“芽衣!!”
“芽衣・・・”
瞬きするたびに、晃のいろんな表情が鮮明に蘇る。
「もうやめてよっ!!」
私は頭を掻き毟り、ひざまずく。
急に座ったため、膝を打った。
痛みすら感じない。




