お年寄り
ふとカレンダーに目をやると、明後日は初雪予定日。
クリスマス・イヴは、もう目の前まで迫っている。
「うーん・・・」
一応、プレゼント用意してた方がいいのかな??
ガラガラ
ドアの開く音が聞こえる。
帰ってきたみたい。
「で、聞いてくださいよ瀬尾さん!!」
「はいはい」
晃と病室に入ってきたのは、瀬尾さん。
今年で75歳になるおじいさんで、隣の病室の患者。
なんで入院してるかは知らないけど、晃と仲良くしてくれてる。
深いしわが刻まれた顔は、瀬尾さん自身の優しさを表している。
「瀬尾さん、こんにちは」
「ああ、芽衣ちゃん。
こんにちは、今日も寒いね」
瀬尾さんの笑顔は、本当にほっとする。
晃は興奮気味にバスケの雑誌を広げながら、瀬尾さんに何かを伝えている。
あの日以来、晃の楽しそうな顔を見ることはなくなっていた。
だからこそ、晃を笑顔にしてくれる瀬尾さんの存在は、不可欠。
2人を見ていると、孫とおじいさんが仲良くしているみたいで、心があったかくなる。
「うわー、興奮するっ!!
俺ちょっと小便行って来ます!!」
一刻も早くさっきの話の続きをしたいのだろう。
晃は病院内だというのに、ダッシュで部屋を出て行った。
「ところで芽衣ちゃん」
私は瀬尾さんにみかんを渡した。
「はい?」
「晃君には、君以上に気にかかる人はいないようだ」
私は全身の力が抜けそうになった。
「はい・・・」
気になる、というより、いつ消えてくれるのだろうか?
と思っているのはわかっているつもりだった。
「そういう意味じゃないんだ。
例えるなら・・・」
瀬尾さんはしばらく辺りを見回し、一つに視線を集中させた。
「晃君も健全な男の子だ。
女性の裸体に興味を持ってもおかしくない」
「あっ、それは・・・」
晃は隠れてバスケ雑誌を読む。
私にはバスケの話をしてはくれない。
「それと同じように、彼は君に興味を持っていて、特別な感情を抱いている」
「特別な感情?」
瀬尾さんは、私を見つめる。
細められた目の奥の瞳に、全てを見透かされたような気がした。
「それがなんなのか・・・今は定かではない。
だが、明確にするのも、今ではない」
「??」
お年寄りの言葉は、現代っ子の私には難しい。
「今はまだ、辛抱の時だ。
耐えろ、耐えて耐えて、耐え抜くんだ」
戦争を経験した瀬尾さんは、その一言一言にすごく重みがある。
「はい」
私は、大きく頷いた。




