理不尽な都合
「あのな、晃」
村上君が静かに語り始めた。
晃が雅ヶ丘、通称・M校に受かったこと、
私と琴音と会った時のこと、
山本さんのこと、
私の声の事、
私達が付き合ってたこと・・・。
晃は黙って真剣な表情で、村上君の話に耳を傾けていた。
「どう?思い出せた?」
日向さんの問いかけに、晃は・・・
「やっぱ知らねぇ。
大体、俺、推薦通ってたんだ?」
「まーね」
ショックだった。
少しは思い出してくれるかなって・・・心の何処かで期待していた。
「っつ・・・」
突然、晃が頭を抱えた。
「晃?!どうした?!」
悟さんが俯く晃の顔を覗きこむ。
「・・・頭・・・イテェ・・・」
「本で読んだことある!」
琴音が興奮気味に言う。
「確か、記憶喪失した人が記憶を取り戻す際に、脳の血管が異常な働きをするから、すっごい頭痛に襲われるんだって!!」
「まじか?!晃、なんかわかったか?」
お母さんが目を輝かせる。
晃は顔に片手を当てて、
「・・・部屋戻る・・・」
とだけ言って、ゆっくり立ち上がった。
そのままふらふらとした足取りで部屋に向かう晃を、一人にできなかった。
「私、部屋まで付いて行きます!!」
私は彼を追った。
「・・・」
「あの・・・大丈夫?・・・じゃないよね」
部屋の入り口に来た時、晃が急にガクッと座り込んだ。
「!あき、」
「触んなっ!!」
すぐに駆け寄ったけれど、私の手は、晃に拒まれた。
「何なんだよ・・・お前」
頭痛に顔をしかめながら、指の隙間から私を睨む。
私は折れそうな心を奮い立たせ、もう一度晃に近づく。
「私はね・・・貴方に忘れられたくないの」
「はぁ?」
「恐ろしく理不尽だってことはもう十分承知してる。
それでも・・・」
私は言葉を続けた。
「貴方を愛しているから、忘れられたくないの」
晃は何も言わずに立ち上がった。
「そんなの、お前の勝手な都合だろ」
彼の冷たい眼差しは、氷よりも冷たく感じた。
だからこそ。
私はある決心を固めた。




