↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/134

第67話 冒険者の命糧


「な、なんだこれは……っ!?」


 一口かじり取った瞬間、グレンの目が丸くなり、そのまま大きな顎を激しく動かした。


 ガリッとした力強い歯ごたえの直後、口いっぱいに広がったのは、香ばしく煎られたナッツの風味とピリッと効いたスパイスの刺激。そしてそれを包み込む、まろやかで上品な甘みだった。


「固い干し肉みたいに顎が疲れない……! それに噛めば噛むほど、口の中にさらっと上質な脂と旨味が溶け出して、喉がまったく渇かねえぞ!?」

「ちょっとグレン、大げさすぎ……って、んっ……!?」


 隣で呆れていたセリアも、手渡されたバー状の固形食を小さくかじり取った途端、言葉を失った。


「……信じられない。白砂糖とカルピスの濃厚な甘みなのに、後味が驚くほど爽やか……。それになにより、口に入れて数秒で、頭の奥の重たい疲れがサーッと引いていくのが分かるわ。体の中の魔力の巡りまで速くなってる……!」


 二人のあまりの驚愕ぶりに、調理台の脇で腕を組んでいたヴォルフが、照れくさそうに頭をかいた。


「へへ……シェフの理論通りに、ナッツの脂質と白砂糖の即効性のある糖分、それにカルピスの酸味を絶妙な比率で練り込んだからな。過酷な移動中でも片手でサッと食べられて、即効で体力が戻るように計算してあるんだ」

「ヴォルフ、スープの方も試させてやれ」


 レオンが顎で促すと、ヴォルフは「はい!」とうなずき、小さな羊革の袋から茶色いサイコロ状のキューブを取り出した。それを木製のカップに入れ、沸かしておいた湯を静かに注ぐ。


 シュワシュワと音を立ててキューブが解けていくと、途端に厨房へ、超低温乾燥させた肉の深いコクとハーブの芳醇な香りが立ち上った。


「湯を注ぐだけで、こんな深みのある肉スープができるだと……!?」


 一口すすったグレンの顔が、感無量といった様子でクシャッと歪む。


「冷え切ったダンジョンの最深部でこれが飲めたら……どれだけの冒険者が命を救われるか。なあレオンシェフ、ヴォルフ! これはただの飯じゃねえ、現場で戦う俺たちの『命糧』だ!」


 グレンは興奮冷めやらぬ様子で、ヴォルフの肩をバシバシと力強く叩いた。


「ヴォルフ、シェフの秘伝をしっかり叩き込んで、この携帯食のラインはお前が責任を持って守れよ! 冒険者ギルドを挙げて、作れる分は全部買い取らせてもらうからな!」

「え、俺が……!?」


 不意を突かれたヴォルフが目を白黒させると、レオンは静かに微笑み、その背中をポンと押した。


「そうだ、ヴォルフ。この『冒険者用携帯食』の事業は、試作から量産、冒険者ギルドとの調整まで、すべてお前に任せる。お前の真面目さと食材への探求心、そして丁寧な仕事なら、現場の命を預かるこの重責を十分にやり遂げられる」

「シェフ……」


 ヴォルフは自分の大きな手を見つめ、それからしっかりと力強く拳を握りしめた。


「……分かりました! 俺、やってみます。過酷な現場で戦う冒険者たちが、一口で生き返るような最高の携帯食……俺の手で守り、作り続けてみせます!」


『ガストロノミー・レオン』の技術と精神を継承し、冒険者たちの命を支える新たな「食の領域」を担う職人が、また一人、力強く立ち上がった瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。