第67話 冒険者の命糧
「な、なんだこれは……っ!?」
一口かじり取った瞬間、グレンの目が丸くなり、そのまま大きな顎を激しく動かした。
ガリッとした力強い歯ごたえの直後、口いっぱいに広がったのは、香ばしく煎られたナッツの風味とピリッと効いたスパイスの刺激。そしてそれを包み込む、まろやかで上品な甘みだった。
「固い干し肉みたいに顎が疲れない……! それに噛めば噛むほど、口の中にさらっと上質な脂と旨味が溶け出して、喉がまったく渇かねえぞ!?」
「ちょっとグレン、大げさすぎ……って、んっ……!?」
隣で呆れていたセリアも、手渡されたバー状の固形食を小さくかじり取った途端、言葉を失った。
「……信じられない。白砂糖とカルピスの濃厚な甘みなのに、後味が驚くほど爽やか……。それになにより、口に入れて数秒で、頭の奥の重たい疲れがサーッと引いていくのが分かるわ。体の中の魔力の巡りまで速くなってる……!」
二人のあまりの驚愕ぶりに、調理台の脇で腕を組んでいたヴォルフが、照れくさそうに頭をかいた。
「へへ……シェフの理論通りに、ナッツの脂質と白砂糖の即効性のある糖分、それにカルピスの酸味を絶妙な比率で練り込んだからな。過酷な移動中でも片手でサッと食べられて、即効で体力が戻るように計算してあるんだ」
「ヴォルフ、スープの方も試させてやれ」
レオンが顎で促すと、ヴォルフは「はい!」とうなずき、小さな羊革の袋から茶色いサイコロ状のキューブを取り出した。それを木製のカップに入れ、沸かしておいた湯を静かに注ぐ。
シュワシュワと音を立ててキューブが解けていくと、途端に厨房へ、超低温乾燥させた肉の深いコクとハーブの芳醇な香りが立ち上った。
「湯を注ぐだけで、こんな深みのある肉スープができるだと……!?」
一口すすったグレンの顔が、感無量といった様子でクシャッと歪む。
「冷え切ったダンジョンの最深部でこれが飲めたら……どれだけの冒険者が命を救われるか。なあレオンシェフ、ヴォルフ! これはただの飯じゃねえ、現場で戦う俺たちの『命糧』だ!」
グレンは興奮冷めやらぬ様子で、ヴォルフの肩をバシバシと力強く叩いた。
「ヴォルフ、シェフの秘伝をしっかり叩き込んで、この携帯食のラインはお前が責任を持って守れよ! 冒険者ギルドを挙げて、作れる分は全部買い取らせてもらうからな!」
「え、俺が……!?」
不意を突かれたヴォルフが目を白黒させると、レオンは静かに微笑み、その背中をポンと押した。
「そうだ、ヴォルフ。この『冒険者用携帯食』の事業は、試作から量産、冒険者ギルドとの調整まで、すべてお前に任せる。お前の真面目さと食材への探求心、そして丁寧な仕事なら、現場の命を預かるこの重責を十分にやり遂げられる」
「シェフ……」
ヴォルフは自分の大きな手を見つめ、それからしっかりと力強く拳を握りしめた。
「……分かりました! 俺、やってみます。過酷な現場で戦う冒険者たちが、一口で生き返るような最高の携帯食……俺の手で守り、作り続けてみせます!」
『ガストロノミー・レオン』の技術と精神を継承し、冒険者たちの命を支える新たな「食の領域」を担う職人が、また一人、力強く立ち上がった瞬間だった。




