第65話 栄光の食卓
王都の繁華街から少し離れた一角に立つ、重厚な石造りの特別貴賓館。
今夜、この大ホールを貸し切って開かれるのは、レオンたちが主催する完全招待制の極上晩餐会『ガストロノミー・サロン』だった。
整然と並ぶ豪華な馬車から降り立ってきたのは、王都の最高級貴族や王室の重鎮たち。そして、その華やかさとは対照的な、異様な存在感を放つ一団の姿もあった。
この国の武の頂点に君臨する『Sランク冒険者』たちだ。
「おいおい……こんな凄まじい会場に俺たちを呼ぶなんて、どんな風の吹き回しだ?」
屈強な男、Sランク冒険者パーティーのリーダー・グレンが、慣れない正装の首元を少し緩めながら、物怖じする様子もなく会場を見渡す。
「静かにしなさい、グレン。ここは今、王都で最も噂されているシェフの特別会合よ。あの『ル・シェル』の白砂糖やカルピスを生み出したレオンシェフの料理が味わえるのよ」
隣を歩く最上級魔導師の女性・セリアが、緊張と期待を交ぜた眼差しで大ホールの重厚な扉を見上げた。
一方、会場の敷地外では、招待状を一枚たりとも手に入れられなかった商業ギルドの幹部たちが、青ざめた顔で遠巻きに眺めることしかできなかった。
どれほど金を積もうが、権力を振りかざそうが、ここに集まった顔ぶれの前では嫌がらせどころか近づくことすら許されない。
* * *
天井のシャンデリアが柔らかな光を投げかける会場内で、第一皿目の料理が静かに運ばれてくる。
レオンが振るう至高のコース料理、極上の出汁と厳選された食材、そして緻密な調理理論が織りなす圧倒的な美食の数々に、貴族たちだけでなく、過酷な戦場を潜り抜けてきた最高ランク冒険者たちからも言葉が消えた。
「なんだこれは……っ! 体にスーッと染み渡るのに、腹の底から爆発的なエネルギーが湧き上がってくるような感覚だ……!」
グレンが肉料理を一口食べるなり、目を見開いて低く唸った。
「ただ美味しいだけじゃないわ。身体の中の魔力の循環が、信じられないくらいスムーズになる……。調理の手間と技術だけで、食材のポテンシャルをここまで引き出しているというの!?」
セリアもまた、驚愕に震える手でフォークを握りしめていた。
そしてコースの締めくくりには、リゼが自ら仕込みを率いた『ル・シェル』特製の白銀デザートが登場した。
爽やかなカルピスの酸味と白砂糖の上品な甘みが口いっぱいに広がり、会場全体が割れんばかりの称賛と満足の溜息に包まれる。
* * *
「レオンシェフ! 我が王室および貴族会は、貴殿の『ガストロノミー』ならびに『ル・シェル』を、王国の公式な至宝として全面的に保護・後援することをここに宣言する!」
王室使者の高らかな宣言とともに、大ホールに鳴り響く惜しみない拍手。
この瞬間、商業ギルドが裏で画策してきた営業停止や妨害工作は、すべて「王国に対する反逆行為」と同義となり、彼らの敗北が完全に決定したのだった。
宴が最高潮を迎え、客たちが満足げに歓談する中、グレンが熱い眼差しを向けながらレオンへと歩み寄ってきた。
「なあ、レオンシェフ。最高のメシだったぜ。……ところで、ひとつ不躾な相談なんだがよ」
グレンは周りに聞こえないよう少し声を潜め、真剣な表情で切り出した。
「俺たちSランク冒険者は、何日も過酷なダンジョンや魔境に潜る。だが、持ち込める食糧なんて味のしないパサパサの干し肉やカチカチのパンばかりだ。……今日の料理や、あの『ル・シェル』の甘くてエネルギーの詰まった菓子を食べて確信した。お前たちの技術で、過酷な現場でも美味しく食える『最高の携帯食』を作ってくれないか?」
グレンの提案に、レオンの瞳がすっと細められる。
「冒険者用の……携帯食、か」
「ああ! 長持ちして、軽くて、一口食えば疲労が吹き飛んで元気になる……そんな夢みたいな食糧だ。資金なら冒険者ギルドを挙げていくらでも出す!」
貴族や王室の庇護という『表の完全勝利』を掴むと同時に、最高ランク冒険者から持ち込まれた新たな可能性。
レオンの脳内で、商業ギルドの残党すら置き去りにする、次なる『美食と流通の革新』が静かに動き始めようとしていた。




