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第50話 予選突破


「第一回戦……勝者、『ガストロノミー・レオン』!!」


 司会の宣言が広場に響き渡ると同時に、会場を揺るがすほどの地鳴りのような歓声が上がった。


 観客席から投げかけられていた嘲笑は完全に消え去り、あるのは圧倒的な美味に対する驚嘆と賞賛の眼差しだけだった。


「ハッ……! 見たかよ、あの大げさな料理人どもの青ざめた顔!」


 バルトが腕を組んでニヤリと笑い、ルカも無骨な顔をほころばせる。


「あいつらの鼻柱を完全にへし折ってやったな」


 だが、レオンは浮かれることなく、静かに包丁を手拭いで拭った。


「まだ予選の第一回戦が終わっただけだ。……気を緩めるな」

「了解です、シェフ」


 リゼが真剣な面持ちで頷き、使った調理器具の洗浄と次の仕込みの準備へと素早く取りかかる。ヴォルフもまた、余ったハーブや出汁の管理を完璧にこなしていた。



     * * *



 一回戦の終了後。選手控室となっている天幕へと戻る道中、レオンたちの前にひとりの男が立ち塞がった。


 金糸の刺繍が施された白銀のコックコートを纏い、冷ややかな眼差しを向けてくる男、王室お抱え筆頭料理長、ジャン=ポールだった。


「……スラムの浅知恵にしては、上出来なパフォーマンスだったね、チビっ子シェフ」


 ジャン=ポールが薄く嘲笑を浮かべる。


「だが、素材の野蛮な力に頼る料理が通用するのもここまでだ。次の二回戦では、王室伝統の『真の技術』というものを教えてあげよう」

「伝統……ですか」


 レオンは足を止め、まっすぐに男の目を見返した。


「高価な特製蜜や果汁で素材のクセを塗りつぶすのが伝統なら、俺たちには必要ない。俺たちが示すのは、素材そのものの声を聴くことだ」


「……フン、生意気な口を。二回戦で泣きを見ることになるぞ」


 ジャン=ポールは不快そうに鼻を鳴らすと、優雅に背を向けて去っていった。



     * * *



 その夜。スラムの店舗に戻ったレオンたちは、翌日の二回戦に向けたミーティングを行っていた。


「二回戦のテーマは、先ほど発表された通り『魚介と野菜』だ」


 レオンが調理台の上に羊皮紙を広げる。


「王都の料亭や宮廷料理人は、魚介の生臭さを消すために大量の濃縮果汁や特製蜜、甘口の輸入酒をぶち込んでくるはずだ。……だが、それでは魚本来の繊細な旨味が完全に殺される」

「魚の解体と血抜きなら、俺に任せてくれ」


 ルカが無骨な手を叩く。


「川魚でも魔魚でも、エラと血合いを綺麗に削ぎ落とせば臭みなんて一切残らねえ。解体職人の意地を見せてやる」

「私も、野菜の切り込みと食感の揃えで絶対に遅れは取りません」


 リゼの目にも力強い光が宿る。

 レオンは仲間たちの顔を見渡し、静かに頷いた。


「……王室料理人どもの鼻を、もう一度へし折るぞ」

「「「おう!!」」」


 スラムの小さな厨房で研ぎ澄まされた職人たちの絆が、さらなる激戦となる二回戦に向けて、静かに、そして力強く燃え上がっていた。

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