↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/117

第22話 冒険者と新たな素材


 石造りの店舗改修は順調に進み、手押し車二台の営業もすっかりスラムの日常に溶け込んでいた。


 だが、レオンの思考はすでにその先「本店舗で出すべき料理」へと向かっていた。


「単発の焼き肉やホルモン串だけじゃダメだ。この店で提供すべきは、前菜からメイン、そして締めまで完璧に計算されたフルコース……一皿ごとに物語を繋ぐ料理だ」


 だが、そのためには今の「オーク肉」だけでは限界がある。より噛みごたえと旨味の強い、上位の魔獣肉が必要だった。



     * * *



 そんなある日の夕刻。二号店の店じまいをしていると、スラムの重苦しい空気を切り裂くように、重厚な金属鎧の擦れる音が響いた。


「おい、ここか? 大通りの商人どもが『スラムにバカ美味い肉を出す屋台がある』って騒いでたのは」


 現れたのは三人組だった。


 使い込まれた傷だらけの甲冑、背中に背負った大剣、そして体から漂う独特の血と獣の匂い。スラムの荒くれ者とは明らかに一線を画す、場数を踏んだ高ランクの冒険者たちだ。


 列の後ろで警戒するゴルドを制し、レオンが静かに一歩前へ出る。


「いらっしゃい。だが、あいにく今日はもう完売だ」

「あぁん? 売り切れだと?」


 大剣を背負った大柄な男、冒険者パーティのリーダーであるガルムが、不機嫌そうに眉をひそめた。


「俺たちは『大樹海』の深部から三日三晩走り通しで帰ってきたんだ。腹が減って死にそうなんだよ。金ならある。銀貨でも金貨でも払ってやるから、何か食わせろ」


 ガルムがジャラリと腰の革袋を揺らす。中から覗くのは、眩しい光を放つ本物の「金貨」だった。スラムでは滅多に見かけない、圧倒的な購買力を持つ客だ。


「金の問題じゃない。食材がないんだ」

「チッ……つれねえガキだ。まあいい、オークの肉なんてどのみち大したことねえしな。……なぁガキ、お前、もっと『手ごわい肉』は捌けるか?」

「手ごわい肉?」


 レオンが問い返すと、ガルムはニヤリと下品に笑い、脇に抱えていた大きな麻袋をドンと地面に叩きつけた。


 中から現れたのは、凍りつくような冷気を纏い、硬質な鱗に覆われた見たこともない肉塊だった。


「深部に生息する上位魔獣、『霜降り角竜(フロスト・ワイバーン)』の腿肉だ。肉質が引き締まりすぎてて硬えし、獣臭さと冷気が抜けねえ。街の高級店の料理人に持っていっても『焼き縮みしてゴムみたいになる』って投げ出された代物さ」


 ガルムは挑発するようにレオンを見下ろした。


「金を払う気はある。だが、この頑固な肉を喰える代物に変えられるなら……の話だ」


 血生臭さと強い冷気が漂う肉塊を見つめ、レオンの瞳にすっと鋭いプロの光が宿った。


(霜降り角竜……。筋繊維が異常に緻密で、体温を下げる特殊な脂(脂肪分)を蓄えているのか。普通に焼けば水分が飛んで不快な硬さになり、臭みだけが残る。だが……)


「仕込みに一晩もらう」


 レオンは迷いなく肉塊を引き取ると、ガルムの目をまっすぐに見つめ返した。


「明日、最高の状態で味わわせてやる。……それと、あんたたち冒険者に頼みたい『交渉』もある」

「……ほう? 威勢のいいガキだ。いいぜ、明日の夕方、また来てやる!」


 高笑いと共に去っていく冒険者たちの背中を見送りながら、レオンは持ち込まれた竜肉へそっと手を触れた。


 極上の旨味を秘めた、難攻不落の上位素材。

三つ星シェフの挑戦心が、静かに、そして激しく燃え上がり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。