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三つ星シェフ、街角の屋台から始める異世界グルメ  作者: Green Rabbit
第二部・世界航海&魔境ダンジョン編
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第45話 氷結晶のグラニテ


 地下水脈の湿った岩棚を登り詰め、古代の建造物を思わせる重厚な石門をくぐり抜けると、周囲の空気の質が劇的に変化した。


 ついさっきまで全身を包んでいた地熱の熱気とまとわりつくような湿気がすっと引いていき、代わりに硬く研ぎ澄まされた冷気が肌を刺す。


「ここから先が第三層への連絡通路ね。地熱エリアから一転して、古代遺構の冷気が吹き込んできているわ」


 エレナが測量ゴーグルを首にかけ直し、冷えた息を白く吐き出しながら通路の奥へ視線を向けた。足元の岩盤は古びた石畳へと切り替わり、壁面のくぼみには青白く光る氷晶がこびりついている。


「ふぅ……魚料理の余韻が最高だった分、口の中がまだ濃厚な油脂とハーブの香りで満たされてるわね」


 シェラが自分の唇を指で拭いながら、心地よさそうに息をついた。レオンは皆の様子を確認し、背のリュックを下ろして片膝をつく。


「次の層に入ったら、いよいよフルコースの主菜、肉料理(ヴィアンド)だ。だがその前に、一度口の中をすっきりリセットしておきたい」

「リセット? お腹いっぱいにするんじゃなくて?」


 リオが不思議そうに首を傾げた。レオンは包丁の背で壁面に張った透明な氷の結晶、魔力を帯びて固まった『フロスト・クリスタル』の角をトントンと叩く。


「フレンチのフルコースにはな、魚料理と肉料理の間に『ソルベ』や『グラニテ』と呼ばれる口直しの氷菓子を挟む伝統があるんだ。魚の脂を一度綺麗に洗い流して、肉の味覚覚醒を待つための大切な工程なんだよ」

「へえ! ダンジョンの天然氷でアイスを作るの!?」

「まあ、アイスというよりシャリシャリした氷菓子だな。リオ、削り氷を作るぞ」


 レオンは清潔なナイフの刃先を滑らせ、不純物のない純粋な氷晶だけを薄く削り落とし、手際よく木鉢へ溜めていく。そこへ取り出したのは、二層の入口付近で採取しておいた『鈴実』という小さな青い柑橘系の果実だ。


 固い皮にペティナイフの切れ目を入れ、ギュッと絞ると、澄んだ酸味と爽やかなアロマを放つ果汁が果肉ごと削り氷の上へ降り注いだ。


「仕上げに、ほんの少しだけ野生の蜂蜜を垂らす」


 スプーンで軽くシャカシャカと混ぜ合わせると、涼やかな音とともに、透き通るような薄青色のグラニテが完成した。


「どうぞ。一口でいってくれ」


 手渡された木皿から、シェラがスプーンですくって口へ運ぶ。


「……ん! なにこれ、冷たくてシャリッとして……口に入れた瞬間に溶けて、レモンのような酸味が一気に広がる!」

「本当だ! さっきまでの魚の旨味がすーっと引いて、舌がすごくさっぱりする!」


 リオが目を丸くして二口目をパクリと食べた。エレナも涼しげな表情で味わい、深く息を吐く。


「すごいわね……ただ冷たいだけじゃなくて、柑橘の酸味とわずかな苦味が、口に残っていた油分を完璧に洗い流してくれるわ。頭もすっきり冴えてくるみたい」

「これで準備万端だ。胃袋も舌も、最高の肉を受け入れる準備ができた」


 レオンは空になった木皿を仕舞い、ペティナイフを腰の鞘へと納めた。


 石畳の通路の奥から、低く重い地鳴りのような咆哮が響き渡る。フルコースのメインディッシュとなる、第三層の巨大魔獣が待つ領域へ、四人は確かな足取りで進み始めた。

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