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三つ星シェフ、街角の屋台から始める異世界グルメ  作者: Green Rabbit
第二部・世界航海&魔境ダンジョン編
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第43話 野営と仕込み


 巨大な影がぐるりと腹を見せ、激しい水飛沫とともに水面へと浮き上がった。


「今だ、手分けして水揚げするぞ!」


 レオンとシェラが浅瀬へ飛び込み、濡れた岩に足を取られそうになりながらも巨体のヒレと尾を掴んで陸へと引き揚げた。岩場の上で鎧鯰がビチビチと暴れかけるが、レオンはすかさずペティナイフの刃先をエラ奥と尾の付け根へ突き立てる。


 手際よく神経締めと血抜きを施すと、赤黒い血が地下水脈の濁流へ一気に流れ出し、川魚特有の嫌な泥臭さがみるみる消えていった。


「ふう……完璧な下処理だな。だが、さすがに水飛沫を頭から浴びて体が冷えてきたな」

「そうね。さっきデュクセルを食べたばかりだし、お腹を満たす前にまずは一息つきたいわ」


 エレナがゴーグルを外し、湿った前髪を指でかき上げながら息を吐く。


「よし、晩飯の魚料理にかかる前に、ここでキャンプを張ろう」


 レオンの提案に、リオが「やったー!」と大杖を岩に立てかけた。


 地熱と蒸気が入り混じる地下水脈ゾーンでの野営は、地上や通常の洞窟とは勝手が違う。四人は慣れた手つきで水脈から少し離れた高台の岩陰を選び、設営にかかった。


 まずリオが小型の魔導炉をセットし、周囲の濡れた岩盤をじんわりと温めて即席の乾燥エリアを作る。シェラはその周りに「魔除けの結界石」を細かく打ち込み、水棲の魔物が音もなく水面から這い上がってこないよう警戒線を張った。


 エレナは持ち運び用の防湿シートを手際よく敷き詰め、その上に折りたたみ式の簡易ベッドを組み立てていく。


 地熱の蒸気がシートの裏で凝結して水滴となるが、魔力コーティングされた厚手シートが下からの冷気と泥水分を完璧にシャットアウトしていた。


「ダンジョンの地下水脈でこんなに快適な陣地が作れるなんて、昔の無骨な冒険者パーティじゃ考えられなかったわね」


 シェラが濡れた軽甲冑を外し、乾いた布で汗と水滴を拭いながらシートの上にドカッと腰を下ろした。


「火の管理と湿気対策さえ固めれば、ここは最高の野営地だ。温かい蒸気が程よく回って肌も乾燥しない」


 レオンはキャンプ地の中央に調理用の鉄板と小型ストーブを据え置き、解体用の大包丁を抜いた。血抜きを終えた鎧鯰の表面から、頑丈な岩鱗を一枚ずつ剥ぎ取っていく。


 硬質な外皮の下から現れたのは、淡いピンク色を帯びた、みずみずしく引き締まった白身だ。レオンは身に傷をつけないよう刃先を巧みに滑らせ、大きなサクへと切り分けていく。


「さて、体を休めたら、いよいよこの鎧鯰を最高の『魚料理』に仕上げるぞ。皮目をパリッと焼き上げるフレンチの伝統技法ポワレだ」

「ポワレ! 名前は聞いたことないけど、レオンが作るなら絶対美味しいやつだ!」


 温かいシートの上で足を投げ出していたリオが、目を輝かせて身を乗り出した。地下水脈の静寂の中、魔導炉の小さな火がパチパチと温かい光を灯し始めていた。

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