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三つ星シェフ、街角の屋台から始める異世界グルメ  作者: Green Rabbit
第二部・世界航海&魔境ダンジョン編
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第42話 影


 洞窟の奥から届く水の音を頼りに湿った回廊を進むと、急に視界がひらけ、広大な地下水脈が現れた。天井から絶え間なく滴り落ちる水滴が水面を叩き、地熱で温められた水気がモヤとなって白く立ち込めている。


 足元の岩場は濡れた苔とヌメリで足場が悪く、目に見える水流は見た目以上に太く重い。


「水深はかなり深いわね。ゴーグルの透過度を最大まで上げるわ」


 先頭を歩くエレナが測量ゴーグルの側部にあるダイヤルをカチリと回すと、多角レンズがシャキシャキと細かく噛み合い、視界を青緑色の透過表示へと切り替えた。


「……いたわ。水深四メートル、水底の岩陰に潜んでる。体長三メートル近く……全身が岩のような重鱗で覆われた『鎧鯰』よ」

「鎧鯰か。ギルドの掲示板じゃ、硬い甲冑みたいな鱗のせいで刃が通らないうえに、泥臭くてまともに食えたもんじゃないって不評の魔物ね」


 シェラが短剣の柄をコンコンと叩きながら、警戒して低く腰を落とす。水底で揺れる巨大な影は、こちらの足音と魔力を察知したのか、太いヒゲをゆらりと揺らすと、水煙を上げてじわじわと浮上し始めていた。


「身を傷つけずに仕留めたい。リオ、水中に直接爆薬みたいな魔法を叩き込むなよ。衝撃で身が崩れるし、せっかくの旨味が全部水に逃げる」

「ええっ、注文が細かいよレオン! あんなにカチカチなのに、普通に叩いても魔法を弾かれて終わりじゃない!」

「エラ蓋の隙間だ。あそこだけは水の出入りがあるから鱗が薄い。エレナ、動きを読んでタイミングを合わせろ」

「了解! シェラ、右側から煽って水面に引きずり出して!」

「任せなさい!」


 シェラが岩場を蹴り、水面すれすれを飛び交いながら短剣で水切りの衝撃波を打ち込んだ。猛烈な水柱が立ち上り、それに怒り狂った巨体が水面を割って躍り出る。


 ドバシャアン!


 豪快な水飛沫とともに姿を現した鎧鯰は、丸太のような太い尾を岩盤に叩きつけ、凄まじい密度の水弾を連続で四人に向かって撒き散らした。


「くっ、水の質量が重い……!」


 シェラが身を翻して岩陰へ飛び込み、レオンは即座にペティナイフを握り直してリオの前へ滑り込んだ。水弾が岩盤を力任せに砕く鋭い破壊音が、洞窟全体へ激しく響き渡る。


「リオ、むやみに撃つな! 水面に引きずり戻される前にエラが開く一瞬を狙うんだ!」

「分かってる! でも、あいつ水煙に紛れて全然スピードが落ちないよ!」


 巨体は浅瀬へ潜っては猛然と跳ね起き、泥混じりの濁流を巻き上げながら、四人の足場を根こそぎ崩そうと凶暴な突進を繰り返す。


 波飛沫が視界を奪う中、巨大な影は勢いを殺さずに旋回し、再び水面を大きく割った。


「エレナ、旋回軌道は見えたか!?」

「ええ、次の跳躍で右のエラ蓋が大きく開くわ! タイミングは……三秒後!」


 水面が大きく盛り上がり、鋭い牙を並べた巨大な顎が目前まで迫る。レオンたちは一歩も退くことなく、それぞれの役割を果たすべく刃と魔力を構え直した。

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